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【PV21.7万突破!!(11月1日/日間15位)】△▼異能者たちの苦悩 △▼-先にあるのは絶望のユートピアか? 希望のディストピアか?-  作者: ネームレス
第二章 バシリスクの回帰

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第88話 侵入者 

 「照度(しょうど)変更。光度(こうど)変更。輝度(きど)変更」


 寄白はなおも対象者のほうに目を向けることはなかった。

 十字架のイヤリングはいつもよりも強く激しく目が(くら)むほどの光を放つ。


 {{全光束(ルーメン)シャイン}}


 直射日光のような光が周囲に瞬き、網目状の閃光が人体模型の体を通過していった。

 ――ガタッ、ガタン。と段階的に人工物が倒れるような音がした。


 (つぎに生まれるなら人間に生まれてこい。(じぶん)の存在に悩むなんて私たちの年代(ししゅんき)なら当たり前のことだ。けど、人間ならそんな簡単に自分の存在に絶望なんてしないんだよ)


 人体模型は無表情のまま廊下に這いつくばり横たわっていた。

 無機質な樹脂でできた人体模型には鼻涙管(びるいかん)も涙腺もない。

 そんな人体模型から涙が流れているようにみえたのはきっと寄白と人体模型(アヤカシ)との言葉(こころ)が通じてしまったからに他ならない。


 そして、またこの四階では新たな人体模型は生まれる。

 近衛をはじめ当局がこの四階を用意したのは四階(ここ)に負力を集中させてそれを()に宿らせ退治するためだからだ。

 

 (今までだって何体ものアヤカシを退治してきたのに……この後味の悪さ。これが人の持つ倫理と道徳か。もっと正当な理由があれば楽だったのに。くそっ!?)


 「くっ……」


 寄白は肩で息をしながら廊下に片膝をついた。

 全身の力が抜けて腰から廊下に崩れ落ち、壁に背を預けた。

 後頭部を壁につけたまま顔を歪めて深く呼吸している。


 (か、体に力が入らない)


 寄白の規則的な(むね)の膨らみに合わせてこの四階に誰かの足音が響いてきた。


 「美子。前にいったわよね? それ(・・)証拠・根拠(エビデンス)はないって」


 「誰だ……?」


 寄白はその声がした方向へゆっくりと顔を向けた。

 寝違えた首に手を当てるようにして迫りくる人物を見ている。


 「誰とは失礼ね?」


 寄白はその言葉にとくに驚くことはなかった。


 「どうしてここに?」


 「私が本来、三日後に派遣されるはずだった救偉人だから。さっきバシリスクが現れた」


 その人物は五百円硬貨ほどの大きさでサファイアのような五角形の勲章をとり出して寄白にみせた。

 青く透明な勲章の中央には「臨」という刻印がある。

 右胸には「MK」というバッジがつけられていた。


 「バシリスクが?」


 「ええ」


 答えながら、ここの通行手形のような勲章をふたたびしまった。


 「それでどうなった?」


 (“蛇”のやつ。バシリスクを(おとり)にしてブラックアウトさせた人体模型で六角第一高校(いちこう)内部から破壊しようとしたのか? 雛は無事なのか?)


 「現時点での詳しい状況はわからない」


 冷静な口調でそういったのは、二十代半ばから後半くらいで上下黒のツーピーススーツに白いYシャツの女性だった。

 キリリとした目に鼻筋の通った顔立ちで、スラっと背も高くスタイルのいい聡明な雰囲気の美人だった。

 

 「二条(にじょう)先生」


 寄白は見知ったその人の名前を呼んだ。


 「ちなみにあんたがお使いを頼んだ社雛は、今、六角第一高校(こうない)にいる」


 「そっか」


 (まさかあの気圧の乱れがバシリスクだったとは。先生ならこれくらいの判別はできるのか?)


 「救偉人ならアヤカシ関連の施設の七割を無許可で入ることができる。六角第一高校(ここ)もそう」


 「救偉人ってそんなに権力があったんだ?」


 「そうよ。まあ、ある人にとってはただの飾りであり。ある人にとっては名誉の象徴。この勲章のために金を撒く人や名誉欲にかられて罪を犯す人までさまざまね。私にとっては仕事のツールだけどね」


 「ふ~ん」


 寄白はまったく興味なさそうな返事をした。

 それにはどことなく(いさか)いのニュアスが含まれていた。


 「けど二条先生。その勲章って毎年、春と秋に九人ずつもらえるんでしょ? 一年で十八人、十年なら百八十人。つまり日本には十年で百八十人の救偉人が誕生することになる」


 寄白の救偉人を見下すような言葉だった。


 「まあ単純計算ならそうね。ただ紛失、剥奪、辞退。ふたり同時授与なんかで増減もあるけど」


 二条は努めて冷静に答えた。


 「それで文科省の役人であり【国営の能力者学校の教師】がどうしてここに?」


 寄白の嫌味な言葉。

 寄白は救偉人を見下していたわけではなく、この目の前にいる二条という人物への反感だった。

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