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【PV21.6万突破!!(11月1日/日間15位)】△▼異能者たちの苦悩 △▼-先にあるのは絶望のユートピアか? 希望のディストピアか?-  作者: ネームレス
第二章 バシリスクの回帰

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第83話 不倶戴天(ふぐたいてん)

 「どうした? 教えてやろうか? 俺の意のままにやまびこが超音波を乱反射させてるんだよ。おまえのその無駄に硬い皮膚を利用させてもらった。つまりおまえじゃもう俺の正確な位置を把握することはできない」


 九久津は「ダイダラボッチ」と「ぬりかべ」で現実と亜空間の境界線を固めたうえで、さらにもうひとつ「やまびこ」というアヤカシで先手を打っていた。

 

 バシリスクは体を翻してゴクっゴクっと喉を鳴らして周囲の空気を吸い込む。

 さらに大量の空気をとりこんでいく、そうして自分の腹をアドバルーンのように大きさに膨らませた。

 バシリスクは膨満感を利用して喉の奥底から――ゴプッ!!っと火山が噴火するように毒液を亜空間いっぱいにまき散らした。

 黒い毒液が放射状に四方八方飛び散っていった。


 九久津は飛沫(ひまつ)した毒液を頭からかぶる。

 だが髪の毛やまつ毛についた毒も目に入ったゴミていどに擦ってやりすごした。

 九久津ははじめから防御態勢さえとっていなかった。


 本来ならば亜空間をも溶かすほど猛毒を浴びてもなお、九久津は平常心のままで髪をかき上げた。

 毒がヘアワックスのように伸びて九久津の髪型がすこし変わった。

 九久津は鋭い目つきでバシリスクを(にら)む、九久津の視線がバシリスクの視線をはねのけていく。


 バシリスクは突然、倒木するように真横にバタン!!と倒れ、背骨のある背中に重心が移動してそのままゴロンと仰臥(ぎょうが)した。

 それは夏の終わり道端に転がるセミのようだった。

 そこで耳を(そばだ)ててみるとカチカチという小さな音がしている。

 一匹の赤い蜂が警戒音を発して飛んでいた。

 スズメバチといえばわかりやすいそんな体型(フォルム)のアヤカシは火の玉のようにホバリングし――ブブブブ。と高音の羽音を響かせていた。


 「どうした? アナフィラキーショックでもおこしたか?」


 九久津はその光景を揶揄(やゆ)するように冷笑(れいしょう)を浮かべた。

 十年前からずっと待っていた、現実が今目の前にある。


 「弱いな。これが世界中で恐れられた蛇の王か?」


 九久津は指についていた毒をペロっと一舐めした、唇の横が吸血鬼のように黒い毒で(まみ)れている。

 九久津はそのまま指で上の唇をなぞり、同じように下唇にも指を這わせた。

 九久津の唇は黒い口紅を引いたかのような真っ黒で、まるで九久津の憎悪を体現させたようだった。

 九久津が颯爽(さっそう)と手をかかげた。


 {{遠隔召喚}}≒{{カマイタチ}}


 「兄さんが最初に教えてくれた召喚技がこのカマイタチだった」


 九久津の頭上に槍投げの槍のように縦長で細い空気の塊が浮遊している。

 九久津がそのまま手を振り下ろすと空気の槍は――ズサッ!!っとバシリスクのど真ん中を貫通していった。

 槍の先端はボコボコになった亜空間の地面にまで及んでいる。

 バシリスクは――グアッ!!っと喚き声をあげた。

 九久津は無感情なまま視線のはるか下で転がっているバシリスクにじわりじわりと歩みよっていった。


 {{階層召喚}}≒{{ゴーレム}}/{{シルフ}}


 九久津の膝から脛にかけてが硬化していく。

 そのまま右足を後方に振り上てボールを蹴るようバシリスクの牙を蹴り上げた。

 蛇の王の象徴でもあった牙はいとも容易(たやす)破折(はせつ)して亜空間の端まで飛んでいった。

 カランカランと音を立てたあとに物静かに横たわっているバシリスクの牙の断面はきれいで九久津の蹴りの正確さがうかがえた。

 バシリスクの牙はもう根元しかなくそこからもプツプツと毒が滲み出ている。


 さすがのバシリスクもいまだに――グァァァァァァァ!!と(うめ)いている。

 九久津は亜空間に響き渡るその叫びを聞いても、なお攻撃の手を緩めることはない。

 もう一度素早く右足を振りぬいた。

 九久津の右足から放たれた高速回転するスクリューのような風がバシリスクの開けっ放しの口腔内(くち)を縦横無尽に切り裂いていった。

 バシリスクはさきほどの悲鳴に輪をかけて呻き声をあげる、その口内はズタズタに切られて粘膜、唾液それに血と毒で()い交ぜになっている。


 九久津が天賦の才といわれる所以(ゆえん)はこの召喚憑依能力のアレンジクリエイティビリティにあった。

 ゴーレムで硬化した足でバシリスクの牙を砕き、その下の階層にあらかじめ召喚憑依させておいた風でバシリスクの口腔内にダメージを与える。

 九久津は大型クリーチャーを倒すための教科書的な戦闘方法をあらかじめシュミレートしていた。


 「おまえごときに兄さんがやられるわけないんだよ?」


 九久津はいまだジタバタしているバシリスクの頭部をおもいっきっり蹴り上げた。

 バシリスクの口からはまた噴水のように大量の血と毒が飛び散った。

 九久津は凌辱(りょうじょく)するようにバシリスクの額に足を乗せる。

 バシリスクがすこしでも身をよじると九久津の足の裏にゴロっという感触が伝わってくる。

 九久津は苛立ちながらもバシリスクに背を向けてポツポツと歩き出した。

 一定の距離感を保った場所で突然狂乱したようにカマイタチを連続で召喚する。


 {{連続召喚}}≒{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}

 /{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}/{{カマイタチ}}

 

 無数の風の槍が規則性なくバシリスクの(からだ)をつぎからつぎへと串刺しにしていった。

 バシリスクはそのたびに悲鳴をあげる。

 風の槍はわずかの間をおいて時間差でバシリスクを貫いていく。

 バシリスクはさながら横たわった弁慶のようで、床に(はりつけ)にされたままの激しく血と毒を吐き出した。

 周囲はさらに黒い液体で浸潤されていく。


 ――グァァァァァァァァァァ!! 


 バシリスクの断末魔の咆哮が響きわたる。

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