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【PV21.7万突破!!(11月1日/日間15位/月間もランクイン中)】△▼異能者たちの苦悩 △▼-先にあるのは絶望のユートピアか? 希望のディストピアか?-  作者: ネームレス
第五章 マリオネットの憂鬱(ゆううつ)

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第190話 すれ違う想い

 ――ピッ。


 「はい。ありがとうございます」


 九久津はスマホで支払いを済ませた。


 「袋はいらないんで、このままで大丈夫です」


 「ではシールお貼りいたしますね?」


 「はい」


 売店の店員はパッケージの端にフランチャイズ店のオリジナルテープを貼った。

 九久津はビニール袋にも入っていない剥き出しのままのフルーツグミを受けとる。


 「こちらレシートになります」


 「ありがとうございます」


 (俺にはまだダミーの健康食品が必要だ。もう毒を蓄えないためのカモフラージュが)



 九久津が制服に着替えてY-LABの前にあるバス停に立ったときだった。

 まるで目の前にアヤカシがいるように表情を険しくさせた。 


 (まだ尾行(つけ)られてるか……? 沙田に返信せずにそのままいったほうがいいだろうな。大袈裟だけどNSAのように電子機器の中を監視されてる可能性もある。かといって虫の報せを使うのもな。沙田ならすぐに使いこなせそうだけど……)


 九久津はそこに立ち尽くしたままでリハビリでもするように右腕を二、三回上下運動させた、九久津の腕の関節がなめらかに動く。


 (もうスムーズに動かせるな。化石化(ミネラリゼーション)はもう見た目以外は気にならない)


 九久津は自分の後方を流し目で見た。 


 (……俺たちが相手にしてるのはもっと強大ななにかかもしれない)


 九久津は何者かの気配を感じながらもそのままバスに乗り込んだ。


――――――――――――

――――――

―――


 社はすらっとした五本指を立てた。


 「このままで大丈夫です」


 「かしこまりました」

 

 ブックカバーを断わり『ジャク・ザ・リッパーは実在したのか?』と『殺人者の思考回路』の二冊を受けとる。


 「ありがとうございました。またお越しくださいませ」

 

 全国展開する書店のロゴが入った緑色のエプロンの店員がそういって会釈の角度で頭をさげた。

 社も一礼して店員に背を向けると、そのまま肩にかけていたスクールバッグに本をしまう。

 辺り見回しながらこのフロアのエレベーターまで歩いていく。

 周囲からは声を潜めつつも社を賛辞するような声がぽつぽつ聞こえた。


 そんな日常に慣れている社は気にも留めない。

 エレベータの前で正三角形を逆にしたボタンを押すと「1F」と書かれたボタンが黄色く点滅した。


 (エネミーなら、もう、この時点でボタンを三回は連打してるかな? 上にあがる感じが好きなんて変わった感覚よね)


 文字盤の数字が「1」、「2」、「3」と上昇してくる。


※ 


 社はちょうどCDショップの前を通りすぎた。

 だが、いったん通りすぎた白と黒のモノトーンのタイルブロックのうえを二歩、三歩と後退した。

 白のタイルを踏み黒のタイルを踏む。

 社の目にかすかに映っているのは『ワンシーズン』のロゴだった。

 今の若者であれば――ああ、あれね。と潜在的にそのロゴが頭の中に残っているかもしれない。


 左の「ワ」からはじまって最後の「ン」まで春のピンク、夏の海をイメージした青、紅葉のオレンジ、冬の白へと徐々に色が変化していくテキストロゴだ。

 社もまたそんな人目につくロゴに目を引かれた。


 「ワンシーズン」


 社は重い声でそうつぶやくき顔を険しくさせた。

 そのグループ名は嫌でもあるメンバーを想起させるからだ。


 ――九久津くんの好きな人って誰?


 半年前のあの日の言葉が頭を過る。

 言葉だけじゃないあの教室の雰囲気をそのまま呼び起こさせた。

 社がまだ「六角第一高校(いちこう)」に在学していたときワンシーズンの「ミア」として活動している一年先輩の白金美亜(しろがねみあ)が九久津にそう訊いた。

 

 (美亜先輩……いったいなにを)


 美亜の問いに九久津の口から自分の名前が出ないことを社は知っていた。

 九久津の口から他の娘(だれ)の名前も聞きたくないから、あの日逃げるように教室から飛び出した。


 (今日だって九久津くんがくるわけないのよ、まだ病院なんだし。そう、きっとこない。それでも心の準備だけは……なんとなく本屋さんに逃げてしまった。昨日だって内心病院で偶然逢ったらどうしようって……)


 社は今日、九久津がくるかもしれないことを期待していないわけではなかった。

 そんなわずかな想いを胸に秘めてふたたび道を急ぐ。

 

――――――――――――

――――――

―――

 

 なにやら階段のあたりでザワついている。

 あっ!?

 社さんだ。

 きれいやら細いやら社さんに憧れる言葉がこそこそ聞こえた。

 店内の誰かがいった――ワンシーズンに入れそう。の言葉に社さんはほんの一瞬だけ眉をひそめた。

 社さんも九久津と同じでなんとなく流行に興味なさそうだし。


 あっ、スマホのカメラを構えてる人までいる。

 すげーな? てか社さんを撮ってどうする。

 女子が女子を無断で撮影するってのはどうなんだ? 社さんは周囲の人にとってフォトジェニックの対象みたいだった。

 芸能人もこんな感じなんだろう、大変そうだ。


 社さんが周囲のざわめきをかき分けてこの席にきたことによって俺はなんとなく(ちゅう)ハーレムになった。

 いや店全体で考えれば(おお)ハーレムだ。

 といってもただの状況にすぎないけど。

 

 「ほら。エネミーまだ口にクリームが」


 社さんがこの席で最初にしたのがエネミーの心配。

 社さんのこの面倒見の良さよな、寄白さんとエネミーが事前にパフェを食べ終えることもわかってた感じだし。

 もしかしたらエネミーに最初からパフェを食べてていいって伝言してあったのかもしれない。

 あとは校長がくればみんな揃うな……九久津はやっぱりこないか、メールの返答もないし。


――――――――――――

――――――

―――

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