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【PV21.6万突破!!(11月1日/日間15位)】△▼異能者たちの苦悩 △▼-先にあるのは絶望のユートピアか? 希望のディストピアか?-  作者: ネームレス
第四章 ヒポクラテスの誓い

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第171話 上級アヤカシの出現率

 「お手を煩わせてしまい申し訳ありません」


 ボナパルテはうやうやしく升に歩み寄って一礼した。

 升はまるで日向で日光浴でもしているように穏やかに髭をさすりながら――うむ。とうなずいた。

 つい数秒前まで、この辺りをピンと張り詰めさせていた殺気はどこにもなく穏やかな夜にただの好々爺(こうこうや)がいるだけだった。


 「いやいや」

 

 升はしわだらけの手をゆったりと振り、たいしたことはないと合図した。

 それは今成し遂げたことに対してあまりに反比例な仕草だ。


 「獅身女(あいつ)はエジプトのスフィンクス像、まあよくいうギザの大スフィンクスのことなのですが……。あの鼻を僕……いえ、前世の()が壊したという由来(うわさ)を怨みに思っていたみたいで……。まさか日本(ここ)まで追ってくるとは、あっ、あとの計算は僕がします」


 「きみに任せるよ。くれぐれも政治摩擦を起こさぬようにしておくれ」


 「はい。そのために獅身女(あいつ)の退治を升さんに引き受けてもらったのですから」

 

 (獅身女の出現周期は二十年から三十年に一度。ということは六十年に二度か三度の出現率。では、ここ六十年で二度の出現ということで調整できるな)


 「今日を始点に三十年のあいだに獅身女が出現すれば出現率の変化はありません。どの国でも獅身女の出現頻度を怪しむことはないですね。まあ、出現周期がプラスマイナス十年はザラですから……」


 「けどボナパルテくん。事態はもっと……」


 鷹揚(おうよう)な升がふたたび眉間にしわを寄せて言葉を止めた。

 ボナパルテはチラリと目をやりその表情から会話を読みとった。

 ある一定の思考回路と経験値を持った能力者ゆえに通じる意思がある。

 これはあくまでその人の雰囲気やニュアンスで開放能力(オープンアビリティ)でも個々の能力を発動したわけでもない。 


 「ええ。おそらくつぎの獅身女はここ十年以内に出現するでしょう」


 ボナパルテはそこで言葉を区切ってからかぶりを振ると、自身にもそれを問いかけ升にも訴えかけた。


 「いいえ、十年()かからず」


 ボナパルテは意味ありげにまた数秒沈黙し――でしょうね。と声を細めた。


 「じゃのう」


 升もうなずいたあとにふたたび虚空へと目をやる。

 闇夜にまた光の明滅を捕らえている。


 「鵺もバシリスクもミドガルズオルムも、ヨルムンガンドも……ここ十年でまた現れるでしょう。それに過去十年で他国の能力者たちが退治してきた上級アヤカシ。ワイバーン、ガルーダ、ベヒーモス、ケルベロス、オルトロス、キマイラなども。やつらにはもう出現率なんていう統計予測は当てはまらないのかもしれません」


 ボナパルテがいまさらりといった言葉はこの世界の(ほころ)びをまるまると写していた。


 「上級の出現率の上昇。これすなわち」


 升は髭をさする。


 「各国の見解も一致していますが爆発的な負力の増加によって鋳型に流れる供給量が増えたことが原因です。それがそっくりそのまま上級の出現率に当てはまります。西暦1999年前後(アラウンドミレニアム)に起こった世界規模の三大災害魔障。アンゴルモアが具現化した『ノストラダムスの大預言』。グリモワールが開封された『サバト』。ジーランディア大陸での生命体の大量失踪と大量殺戮『ハーメルン・ジェノサイド』。それらすべては負力の増加が原因だと考えられています」


 「アンゴルモア討伐は国連の意を酌んで一条くん、二条くん、五味校長で事態を収めた。グリモワールはアメリカの対アヤカシ組織のタスクフォースが対処にあたった。ジーランディアは……もとから各国の治外法権(ちがいほうけん)じゃしのぅ……ジーランディア(なか)でなにがあったのかは……」


 「ジーランディア大陸は歴史の暗部そのものですからね。だから世界のごみ箱なんです。ただ『ノストラダムスの大預言』と『ハーメルン・ジェノサイド』はほぼ同じ場所で起こっていますし。それと……これは未確認のAランク情報とされているのですがアメリカ全土で『サバト』を起こしたのもジーランディア内部の者だとか……」


 ボナパルテは言葉を区切って下唇を噛んだ。

 舌で唇をすこし潤してからふたたび話をはじめる。


 「そもそもグルモワールは最上級の魔術書ですのでレベルファイブを越えた忌具になります。北アメリカ大陸と南アメリカ大陸を繫いだアメリカ大陸で『サバト』を起こしたのはいまだに悪魔信仰や悪魔崇拝も残る文化圏だからでしょう。それによって大病魔障(たいびょうましょう)である悪魔憑(あくまつ)きの患者も増大したわけですし」


 「じゃろうな。日本で『サバト』を起こしても悪魔による物理的なダメージは与えられるが魔障としての”悪魔憑き”はほぼ皆無じゃろう」


 「文化が違いますからね。日本では動物霊が憑くという古く伝わる風習・伝承(フォークロア)が一般的なんですよね?」

 

 「そうじゃな。逆をいえば西洋で狐憑きは皆無に等しいということじゃよ」


 そこで升の話のリズムが緩やかに一変した。


 「ところでボナパルテくん?」

 

 疑問符でボナパルテを名指しする。


 「ヨルムンガンド(・・・・・・・)はいつ正式に退治(・・・・・)されたんじゃ?」


 「えっ……と」


 (しまった。升さんの前で気が緩んだか。ヨルムンガンド退治は曖昧なままで公式発表されてないんだった)


 ボナパルテは十年前にモンゴルのゴビ砂漠でバシリスクとミドガルズオルムとヨルムンガンドの三体が出現したことを升に包み隠さずに告げた。

 さらにそこに九久津堂流が関わっていたこともつけたす。

 そのあともヤヌダークから報告を受けた”ヤヌダークと繰”の電話の内容も情報として伝えた。


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