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【PV21.7万突破!!(11月1日/日間15位/月間もランクイン中)】△▼異能者たちの苦悩 △▼-先にあるのは絶望のユートピアか? 希望のディストピアか?-  作者: ネームレス
第三章 魔障の展延(てんえん)

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第115話 診殺室(しんさつしつ)

 これからどんなに痛いことがあるのか? これからどんなに苦しいことがおこるのか? これから先の生活は? 治療費は? 仕事を休めない。 家事は? 

 入院患者はその悩みだけで気が滅入る。 

 闘病中は悩みが尽きることはない。

 闘病だけにすべての思考を注ぐことも許されない。

 誇大ともいえるマイナスの想像力が人を追い込むのは簡単だった。


 近衛は非日常の中に日常の余韻を残すため、いや、日常に戻る目標のために院内を病院(・・)と感じさせないような造りにした。

 それでも生まれる負力はとめどない。

 院内の奥まった場所に円型の分厚い扉がひっそりとあった。


 【警告:関係者以外の立ち入りを禁じる】


 そんな注意書きとともに三角形の中にエクスクラメーションマークの入った

看板がこの区域の危険を知らせている。

 人は黄色と黒の配色を見ると無意識に危機感を抱くそれが警戒色だ。

 このマークはいわば他者に対する思いやりでもあり危険回避への助言でもある。


 円い扉には大きなバツ印が描かれていた。

 だが、目を凝らして見るとそれは切れ目であり四分割されているとわかる。

 扉の右上方部にはコンクリートブロックふたつほどの大きさのスピーカーが廊下に向いて設置されていた。

 そのスピーカーから横に約二十センチのところで真っ赤な警告灯が音もなく回転している。


 九条は扉の真ん前に毅然(きぜん)と立つ。

 赤い光は九条を通り過ぎて一定間隔でまた戻ってくる。


 『九条先生。よろしいでしょうか?』


 「ああ」


 『第一ゲート開放します』


 備えつけられたスピーカーから抑揚のないサンプルボイスの女性の声が聞こえてきた。

 ――ブシュー。と扉の前でまるで水蒸気が爆ぜたような空気の抜ける音がした。

 円い扉は四つの扇形の繋ぎ目でバツ印を作っている。

 扇は――ガシャンガシャン。と重い音を立てながら上下左右にそれぞれ単独で開いた。


 扉の中に真っ先に進入していったのは赤色灯の赤い光だ。

 九条は光速のあとを追って足を広げられるだけ広げて扉の境目をまたいだ。

 なかはいっさいの繋ぎ目がない、分厚いひとつの金属を()り抜いた無機質な部屋だ。

 

 『第二ゲート開放します』


 「うん」


 九条は手を上げて合図する。

 この場所でも赤色灯が高速回転していてくるくると回る赤がいっそう危機感を募らせる。


 『第二ゲート開放。及び第一ゲート閉鎖』


 ふたたび出来合(できあ)いの声の女性がそういった。

 九条は第一ゲートと同じように分厚い境目をまたいだ。

 九条が鈍色の金属の部屋をたんたんと進んでいくと目の前にまた金属製プレートがあった。


 【警告:能力者以外の立ち入りを禁じる。一般人が進入した場合の生命の保障はいたしかねます】


 九条は目を鋭くしてその物々しい文言を右から左へと黙読した。

 その可能性は皆無に等しいが、たとえ一般人がなにかの間違いでここに入ってきても能力者以外の人間は引き返せという警告だ。

 

 プレートを見つめる九条の後方で大きな音が鳴り、第一ゲートは大袈裟ともいえる異音を上げて閉まった。

 九条は一度足元を見て呼吸を整える。

 冷たい金属の壁には等倍で増えていく目盛りの測定器があった、それは気圧計だ。

 九条は外の世界よりも随分と減圧された部屋で息を吐く。


 『第二ゲート閉鎖』


 九条の後方で今度は水蒸気のような音を立てて扉が閉まった。

 ――ガーンと、今九条の足を伝ってきたのは四つの扇が円になった振動だ。


 『最終ゲート開放します。九条先生。最終ゲート開放後すぐに診殺(しんさつ)をお願いします』


 九条は黙ってうなずく。


 『最終ゲート開放』


 九条の目の前にある機械仕掛けの壁がまた四方向に開いた。

 眼前には広大な闇が広がっていて、その先はまるで冥府(めいふ)のような漆黒だった。

 九条は己が着ている真っ新な白衣さえ黒く染まるような闇の中へ平然と飛び込んでいった。


 『最終ゲート。封鎖(ふうさ)します』


 九条の背後の扉が閉まる。

 この闇の中で一般人がそれを判読することは不可能だが、扉には細かな梵字がびっしりと描かれていて真ん中には「封」という大きな文字がある。

 九条が足を踏み入れたのは此岸(しがん)の境界を越えた、とっぷりとした暗闇の彼岸(ひがん)ともいうべき場所だった。

 

 地の底から亡者の叫びが響いてくる。

 闇に蠢くモノは獲物を待ち構えていたかのように人間(ひと)の気配のするほうへと近づく。

 あちこちでなにかが這いずる不気味な音がしている。

 ――ズズズ、ズズズ、ズズズ。 ――ズズズ、ズズズ、ズズズ、その音は九条との距離を縮めていく。


 「魑魅魍魎(ちみもうりょう)。ずいぶん溜まったな?」


 九条はあくまで冷徹に状況を見極めている。

 表面は真っ黒で四肢と頭部だけの塊はすでに九条の前に集まっていた。

 数十体いや、それ以上の魑魅魍魎がいっせいに九条へと歩み寄る。

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