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嘘つき男とウソツキ女  作者: 飴甘 海果
8/11

拝啓、息子へ

『新へ


お前がこれを読んでいるということは、俺は死んだってことなんだろうな。正直自分がいなくなった世界は想像できない。母さんには淋しい想いをさせちまうだろうが、それはお前に任せる。

新、子供の頃に名前の意味を教えたっけな。お前の名前は俺がつけた。それは俺がずっと憧れていた人だと。そこまでは話した覚えがある。だけど肝心な部分は言ってなかったな。俺が憧れていた人ってのは、高校生の時に命を救ってくれた人だ。

命って言うと大袈裟だけどな、その時の俺を救ってくれた人だ。その人は今はもう会うことが出来ない場所へ行っているが、俺を救ってくれたことには変わりない。その人がいて、俺がいる。俺がいるからお前がいる。お前にはそうやって感謝してほしい。

俺は妾の子供だった。神田というのは、名家の苗字なんだ。そして俺は妾の子供として家では迫害を受けていた。学校には行かせてもらえていたが、暴力は勿論、色々な嫌がらせを受けた。泥水飲まされたり、便器に顔突っ込まされたりしたことだってあった。

それにずっと耐えていたが、心はまだ大丈夫でも体は限界だった。その時だ。お前の名前の由来となるひとに会ったのは。

その人は新海荒太さんという人だ。俺よりも5つも歳上で、俺の家の清掃員として働いてた人だ。荒太さんは俺のことを匿ってくれた。家族からの暴力が酷くなってきた高校2年の時から、仕事が決まるまでずっと一緒に住まわせてもらっていた。

俺が家を出た後、清掃員の仕事は辞めて、荒太さんは孤児院を開いた。それが俺が24の時だ。

彼は優しい心の持ち主故、騙されることも多々あった。だけど全部笑って過ごしてた。強い人だった。

だけど俺が32になった年に、荒太さんの孤児院は火事に覆われた。それはただの事故だったが、そこにいた子供たち、職員の20人程の命が亡くなった。たまたまその時に近くにいた俺は、その光景を見てすぐさま通報した。消防車が来るまでの時間がとても長く感じた。我慢ならずに濡れたタオルを顔に巻いて火の中に飛び込んだ。そこには荒太さんの倒れた姿もあったが、その横には彼に守られるようにしていた赤ん坊がいた。


それが、お前だ。


その後、無事脱出して消防車が到着して俺もお前も病院に運ばれた。煙をたくさん吸ってしまっていたからだ。

退院できるようになって、お前の貰い手はいなかった。その病院だってずっと預かってくれる訳ではない。どこか他の孤児院に入れてしまうと言うときに止めに入ったのが母さんだ。その時には結婚していたが、俺たちには子供がいつまでたっても出来なかった。だから母さんも出来たんだろう。俺は後ろから見てるだけでなにも出来なかった。だけどお前の手は俺を求めた。

俺に笑いかけたんだ。病院で預かってもらっていた間、泣く以外の表情を出さなかったお前が俺に笑いかけたんだ。

それでお前はその日から、俺たちと一緒に住むことになった。

本当は親として直接伝えてやりたかったけど、それは我慢してくれ。すまない。

32年前に俺はお前を父親として育てようと決心がついた。本当の、父親として。


本当はこんな筈じゃなかった。本当はお前が家を出ていったあの日、伝えようと思っていた。

ごめん、ごめん、ごめん。こんなに不甲斐ない父親で本当にごめん。

だけどお前のことは誰よりも愛していた。

愛していたからこそ、どう伝えればいいのか分からなかったんだ。本当に悪かった。


しかしお前の親として育てたからこそ、学べたことや、知れたことがあった。

ドラマや映画でみる血の繋がりがない親子の気持ちがようやく理解できた。こんなにも哀しくて、こんなにも愛しいことが。

俺の息子になってくれてありがとう。

ありがとう。

本当に、本当に、ありがとう。


さようなら。

平成X年11月30日

神田 修』

8話目、読んで頂きありがとうございました。



このタイトル地味に気に入っています。

話自体は途中でワケわかんなくなってきて、書き直しを何度もしたんですが、大事な話なので大事に書きました。



今後とも宜しくお願い致します。



飴甘海果

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