悲報[後編]
彩翔を世那の両親に預けて、僕らは急いで乗車した。
僕の実家までは二時間ほどかかる。しかし今日は道が空いているのでそれほどかからないかもしれない。
「…お義父さんが、本当に…」
「ああ。最初は母さんの勘違いとか、早とちりだと思ったんだけど電話から伝わってくる雰囲気が異常だった」
だから間違いない。
そんなことは言いたくない。認めたくないけど、混乱している自分より状況がわかっていない世那の前では冷静でいることが正解だと思った。
「そっか……」
「久々に会ったのにこんな形になってごめん。もうちょっと早く僕が君達を迎えに行けば良かった…」
「そんなことない。お互いに悪いところがあったんだから、それに今はそんなことを考えてる暇はないでしょう」
「…そうだな、ごめん」
――――――僕よりも状況がわかっていないはずなのに、彼女の目は強さに満ちていた。
男の僕よりも男らしい面が、彼女にはある。結婚する前からそれには気付いていた。だから僕はたまにそれに嫉妬してしまう時もあった。
1秒でも早く到着出来るように、力強くアクセルを踏む。
僕たちの間には沈黙が続いた。なぜか、今はその時間が必要だとも感じた。
「…病院の場所は分かるんだよね?」
「うん、それは大丈夫だから」
そう言ったのは自分に言い聞かせているようだと思った。自覚はなかったけど、僕の心は乱され困惑していた。
ただ、一緒にいる彼女の前では格好つけていたいとひたすらに思っていただけかもしれない。
―――くそっ、くそっ。
頭の中で夢の中で加藤が言っていた台詞が再生された。
『お前と話すのは楽しかった。いつだって』
何年か越しにみたアイツの笑顔だった。それを見て寝起きの気分は何となく良かったはずなのに。なんでこんな悪夢に襲われるんだ。
母さんが言っていたことが冗談だったら、勘違いだったら。どんなに救われるだろうか。
二時間弱で病院に到着した。
急ぎ足で自動ドアをくぐり、待合室まで行くとそこには母の姿があった。向こうも僕らのことに気づいて腰を上げた。
「新、世那ちゃんまで」
「母さん、父さんは?」
「あっちよ」
母はクルリと体の向きをかえて僕らを案内してくれた。
やはり母の様子は異常だった。電話から伝わってくる雰囲気と同じように暗かった。目線は僕たち二人に向けられているはずなのに、何故かどこか遠くを見ているようだった。
ここよ、そう言われて唾をごくりと飲んだ。
引き戸を自らの手で開けた。
「――――――――………」
静かだった。
正確に言うと、何も聞こえなくなった。
ただ、絶望に満ちた風景が目の前にひろがった。
ベッドの上には、顔に白い布を被せられたもう2度と動かない父の姿だった。
――――――嘘だ。
どれほど嫌悪感を示そうが、どれほど現実から目を反らしたくてもそれは死んでいた。
それはまるで、当たり前のように死んでいたのだった。
大事な話があるって言ってたくせに、なんで。
なんでこんな風になってるんだ。
「…………」
「お父さんね、新に話があるって言っていたでしょう?でもそれは直接言えないって分かってたみたいに手紙書いてたわ」
これよ、と言って母がズボンのポケットから取り出した。
「昨日の朝、急に渡されてね。自分で渡せば良いじゃないって言ったんだけど聞かなくて。ほとんど無理矢理渡されたのよ」
僕はその手紙を、震える右手で受け取った。
自分にも分からなかったが、何故かそれは読んではいけない気がした。開いて読んでしまったら、僕や父の何かが壊れる気がした。
「後で、読む」
そう答えると、母は少し渋い顔で「そう」と言った。
「世那ちゃん」
急に呼ばれて、世那の肩がびくついたのが見てとれた。
「あなたにも私から大事な話があるの。少し外に出て聞いてくれないかしら」
「…は、はい。構いません」
世那は僕の目をちらりと見て、母の後を急いでついていった。
僕は父と二人ぼっちになった。
7話目、読んで頂きありがとうございました。
眉間にシワを寄せながら執筆いたしました。
小説って難しい…!改めてそう実感しました。
今後とも精一杯頑張りたいと思うので、どうかよろしくお願い致します。
飴甘海果