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嘘つき男とウソツキ女  作者: 飴甘 海果
3/11

上司と部下

「神田くん」

昼休みに昼食を食べるために外に出ようとするところを、後ろからあまり耳に馴染みのない低い声に名前を呼ばれた。

「企画部副部長、神田新くんだな」

「…そうですが」

振り返って返事をして、顔を見てようやく正体が分かった。

「業績は良いみたいじゃないか。優秀な人材だと聞いている」

「……ありがとうございます」

―――社長

と僕は内心吐き捨てるように言った。





園田真輔。

それが僕の会社の今の社長だ。

9年前、この会社に入社した時は、別名置物社長こと吉川桐丸という人が社長の座に就任していたが、5年前に肺に癌を患い亡くなった。あだ名の通り彼は置物社長であったが、人望は厚かった。優しくて人柄が良くて、贔屓もしなければイビりもしない。一度だけ飲み屋で席が重なって、その時はお互いにお一人様だったので酒を交わしたこともある。

しかし今の社長は置物であった吉川社長のお世話をしていた前副社長でもあるので、前社長と全く似ても似つかない性格で、社内の雰囲気も大分変わった。ほのぼのとして、先輩後輩もあまり関係なく皆が仲が良かった会社は、今となっては殺伐としており先輩からの後輩への態度は酷いものとなった。一部では社内虐めも発生しているらしい。

「神田くん、君は業績も良いし目立ったミスも殆どない。私は君の将来に期待をしている」

「そうですか。それでなにかご用でもありましたか。今少し急いでいるので」

今目の前に立っているこの男と、同じ空気を吸う時間を1秒でも短くしたかった。たぶん表情に気持ちが出てしまっているだろうが、そんなのを気にすることも面倒だった。

「すまない。君に少し話があっただけなんだ」

「…」

「君に春から昇格の話が持ち上がっているんだが、どう思う?」

「どう思う、というのはどういうことでしょうか」

「今の企画部部長が悪いわけじゃない。部長が悪いから君が昇格する訳じゃない、寧ろ彼の業績は良いはずだ。しかし、その業績よりも君の方が優れている。だから、現部長をやめさせて君をあげる訳ではなく、今の君たちの地位を交代させるという意見が先日の会議であった」

「…僕は、会社の意見に従います」

実は僕は部長と親しい仲にあった。社長が変わった後でも、友人のような関係性でよく僕の相談にのってくれる人だ。だからこの話にあまり気乗りはしなかった。

いくら友人のような仲でも、いつだって上司と部下ということは忘れたことはない。その関係でもあるからこそ、言えることや出来ることがあったからだ。

「君は部長より、当然経験も知識も浅い。だから上の方でこの件を検討している最中なのだ」

業績表を見ながらな。

社長はそう言った。業績という言葉に力を入れて。

さっきから、というかこの人は普段からこうなのだが業績、業績と業績でしか僕たち社員のことを見ていない。それ以外に着眼点がない。

「僕はなんと言われても、断るつもりはありません。それがもし、昇格の話でも、強制退社の話でも」

「………そうか」

社長は静かにそう答えると、クルリと踵を返し歩いて行った。

よく分からない人だ。無表情が故に、何を考えているかが把握することが出来ない。

僕は一つ溜め息をついて、会社を出て芝村部長と待ち合わせていたうどん屋へ足を速めた。




「―――神田、遅かったな」

店に着くと、こじんまりとしたカウンターでキツネうどんを啜っている部長がいた。

「すいません、少し社長に呼び止められてしまって」

「そうだったか。あ、お前の分のカレーうどん頼んどいたから、もうそろそろ来るだろ」

部長は言いながら、机の上においてあった一味をうどんに入れた。

「…いつも思うんですけど、一味入れすぎじゃありませんか?それじゃあうどんの味がしなくなる気が…」

「そうか?それくらいが俺にはちょうど良いんだがな」

言いながらまた、タヌキうどんが真っ赤にそまっていく。

カレーうどんが到着したので、僕は紙エプロンを付けた。

ズルズルと啜りながら、以前にカレーうどんの汁をシャツに飛ばしてしまってよく世那に叱られたものだ。なんてことが脳裏に浮かんで、クスっと少しだけ頬が緩んだのを感じた。

「社長に何をいわれたんだ」

暫く沈黙だったが、部長がそれを唐突に破いた。

「…別に、大したことじゃありません」

「大したことじゃないわけないだろ。あの社長がお前に直々に話に来るなんて、珍し過ぎるだろ」

芝村部長は苦笑していた。僕も、一緒に苦笑してしまった。

「俺もこの間、社長に話に来られたんだ。君の部下の神田くんと君の地位を入れ替えようと思うんだがどう思う?、だってよ」

ふざけてやがる。

部長は眉間にシワを寄せて、あからさまに不機嫌な表情で言った。

「なんて答えたんですか、それ」

「『俺は言われた通りにしかしません。』つって逃げてきた」

今度は苦笑ではなく、ニヒヒと子供がイタズラに成功した時のように笑った。それにつられて、また僕も笑ってしまう。

「大方お前は、俺と同じようなことを言われたんだろう。なんて言った?」

「…あんたと一緒ですよ」

「…そうか」

顔を見合わせて二人でまた、何が面白いのかわからないまま、また笑った。

「なぁ午後は、二人でサボッちまわねぇか。それでどっか飲みに行かねぇ?」

「良いですね。どこ行きますか?どこでも着いてきますよ」

ニヤリと笑って、僕たちは少し冷めてしまったうどんを完食して駅の方へ向かった。

何かをサボるなんて学生時代以来だったが、それもまたとても気持ちが弾んで、少年の心を取り戻した気になった。


3話目、読んで頂きありがとうございました。


ちょっと自分が何を書きたかったのかよく分からない…。

正直、普通の会社の仕組みとかいまいち分からないので、グダグダな感じになってしまいました。すいません。


またお会いできたら幸いです。



飴甘海果

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