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嘘つき男とウソツキ女  作者: 飴甘 海果
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別れ

初めまして。飴甘です。またまだ未熟者で、誤字脱字などの誤りもあるかもしれませんが、そこはどうか大目に見ていただけると嬉しいです。

あと3分で、32回目の誕生日を迎える。

去年の今日は、妻と一人の息子とケーキや大好物のシチューを食べていたはずなのに。今年は独りか。

残業をした後だったが、まだ疲れがとれそうにない体を引きずってコンビニまで酒を買いに行った。

あからさまに面倒くさそうな店員、置いてある種類が少ないアルコール売り場、きゃあきゃあと騒ぐ今の時間帯には似合わない声量の女子高生たち、その全てに怒りを覚えながら店を出た。

僕には、嫌な接客態度の店員を注意することも酒の種類が少ないとクレームをつけることも、子供は早く家に帰れと説教垂れることもできないのだった。こんな人生を送っている男に何か言われても説得力なんてものは1にも満たないだろう。自分が一番わかっている。

そんなことを考えていたらまたストレスが溜まるので、何も考えまいと僕は家に向かっている足を速める。

「ただいま」

自分以外は誰も住んでいない部屋に声をかけて、オートロックのドアが大きな音を立てて閉まった。

先ずは今買ってきたビールを冷蔵庫へ入れて、ネクタイを緩め、今日初めてスマートフォンの画面を明るくした。メンバーカードを持っているチェーンの居酒屋からのメールと会社からの今月の功績発表のメールが1通ずつ入っていた。

それと半年前から別居中の妻、世那からのメール。そして田舎に住んでいる父の不在着信が残っていた。

あれ、もう日付、かわってる…。

気づくともう時計の針はてっぺんから7分も過ぎていた。

たぶん帰宅していた途中には僕は年をとっていた。中学の頃、理科の嫌いだった教師に本当に誕生日を迎えているのは、誕生日の前の日の正午だという話を聞いたことがあるが、昨日の正午は仕事真っ最中だ。思い出す余地もなかった。それにそれがもし真実なら、自分の誕生日がわからなくなっしてまう、とその話を聞いたクラスの委員長が言っていたのを思い出した。

妻からのメールか、電話を掛けなおすかで迷ってメールを開いた。

『誕生日おめでとう。もう32歳なんですね。彩翔も大好きなパパがまた大人になって嬉しく思っていると思います。来年は3人でまたケーキが食べられると良いと思います。では体にはくれぐれも気を付けて下さいね』

若干他人行儀とも感じられるこのメッセージは、今の僕の心に感動を与えることは安易なことだった。彩翔とは僕と妻の今年で8歳を迎えた一人息子である。

今となっては世那が出ていった理由も、その原因もそれをどちらが産んだのかさえ覚えていないが、彩翔が世那に手を引かれ僕を睨む目はいつになっても脳裏に焼き付いている。

彩翔は僕のことを嫌っていた。

いつも守れない約束をする僕を、いつも世那を怒らせてしまう僕を嫌っていた。それは僕自身にも世那にも伝わる程だった。もっと小さな頃は、僕が帰宅すればずっとベッタリで離れなかった。しかしいつの日か、離れていった。僕だけではない、世那もだ。

個人懇談会や家庭訪問で担任の教諭に話を聞く限り学校では何も変わったこともなく、寧ろ勉強が得意なため頼られることが多く、友人は多数いるらしい。家にいるときだけ、無口で物静かで大人を睨むような人格になるということだ。

それは僕たちのせいだった。僕たち両親が日常的に言い争いをくれ返すから、彩翔の人格をねじ曲げてしまったのに、僕たちはそれを認めようとしなかった。

悪かったのは一番身近にいた僕たちだ。なのに僕たちは、それが彩翔の性格なんだと思い込み、その結果彼の睨みに拍車がかかった。バカな親だ、彩翔の目にはそう映ったに違いない。

この事を考え出すと、迷路にはまって抜けられなくなるので僕は戦線離脱することを決めて冷蔵庫に入れた冷えたビールを取り出して口を付けた。

明日は日曜だ。いやこの時間では今日と言って良いのだろうか。なんでもいいが、取り敢えず仕事が休みなので酒に弱い僕が飲んでも心配はない。それで日が昇ったら、父に電話を掛けよう。

今日くらい、自分を縛らないでおこう。

年に一度きりの誕生日なんだから、それくらいは許されるだろう。

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