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「お疲れ様でした」


金曜日の夕方、会社のビルを出ようとしていたら、ちょうど中に入ってこようとする向井さんとすれ違った。


あまりに真正面に来ていたので、無視がしずらい状況だったから


覚悟して、でも小さい声で挨拶をした、


万一、気づかれなくても平気なようにって、本当に自信なかった。


彼は考えに没頭していたのか、その声に気づかずに通り過ぎようとして・・・止まった。


「澤村さん・・・お疲れさま、今帰り?」


「はい、あの・・・向井さんは出先から・・・」


「そう、やっと先方と話がついてね、今から報告書作成と、打ち合わせ」


「お忙しいですね・・・お疲れのところ、ひきとめてすみません、それでは」


やっぱり邪魔だったと早々に引き上げようとした。


やっぱり、この人と対等に会話するなんて無理だ。


妙にてんぱってしまうし、逃げたくなってしまう。


声かけなきゃ良かった。

自分がすごくみじめだ・・・


「澤村さん、えっと約束、あれ、来週以降でもいいかな?」


意外なことに、澤村さんが人の往来を避けるように2、3歩横にずれた。

私も彼に合わせるようにして動く。

なんとなく、目を離せず、会話が続いていく。


「・・・約束・・・えっ? ああ、勿論です、気が向いたときでいいです、声かけてください」


「いや、僕がお願いする立場だから、そんな風に言わないで」



彼が表情をくしゃっとさせた。

初めて見る、困ったようなその彼の表情にドキッとしてつい視線を彼のスーツのほうに落としてしまう。

しっかりした生地で、濃いグレーに近くから見ないとわからないような細い線が入っている。

シャツを見ると、一日動いていたからだろうか、少しだけしわがよっているところがある。

そんなところまで見えるほど近くにいることに、慣れない私はくらっとめまいがした。



「そんな風にそっけなく言われると・・・なんか傷つくな」


上から降りてきた言葉にはっとして、顔を上げると


仕事をしているときの彼とは違う


飲み会の帰りに送ってくれた時と同じような


ただ優しい顔で私を見下ろしていた。








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