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白のお話  作者: あとる
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2:占い

「白……!おい白!!!起きろ!!!」

「ン……」


そして、見たくもない顔を見る羽目になるわけだ。


「お前…露骨に嫌そうな顔すんなよ。傷つくだろうが。」

「……別に起こしてとは頼ん」

「あーーーはいはい。俺のおせっかいでしたよすみませんでした」


なんだかうなされてたから心配したってのに……とぶつぶつ言う彼を見ながら徐々に頭が現実に追いつき始める。そして、自分があの先を見なかったのは彼のおかげだとようやく認識した。

悪いことをした、と、思う。


「えーと」

「うん?どうした?」

「その……ありがとう」

「あん?」

「起こしてくれて」


彼は一瞬呆けたような顔をすると、すぐさまにやけ始めた。


「なんて言ったか聞こえなかったなあ??んんん?」

「ありがとう。うざい。」

「最後の消してもう一回」

「ありがとうざい。」

「つなげろとは言ってねえ!!」

「うざい。」

「大事なほう消すな!!」


いつも通りのほっとするやり取りで、微かに残っていた不快感も消えていく。

大体お前はな……とアバンスが説教を始めようとしたとき、ドンドンとドアが叩かれ、そんなに叩くと痛いわいといわんばかりの悲鳴を上げてドアが少し開かれると、メガネの奥で迷惑そうに目を細めている小さな女の子がひょこっと顔をのぞかせた。


「アバンスに白。あんたらうるせーですわよ……隣りにまで聞こえてきたじゃねーかですわ」

「おや?ここは17歳以上のみに入学が許可されているはずだが」

「どどど、どういう意味で発言したのかその意図をお聞かせやがれですわ」

「いや、どういう意味も何もそのままの意味だが」

「小さいこと気にしてるといつまでたっても小さいまんまだよロアリス」


――と。言ってしまってから気づいた。ロアリスに『小さい』は禁――


「ふふふ」


なにか鳴き声のような、威嚇する咆哮が聞こえる。


「ふふふふふふふふふふふふふ」


強烈な殺気である。

本能が逃げろと叫んでいる。逃げて自分。

しかしドアが塞がれている以上逃げ場はない。

考えろ自分、こういう時はよりおいしそうなお肉を用意すればいいのだ。

そう、つまり――


「アバンスがロアリスのことロリリスって言ってたよ」

「っちょ、お前、なにを……!!」

「殺しますわ」

「や、まてロアリス、嘘だ、誤解だ、違うんだきいてくれ」

「殺します」

「だから言ってないんだって落ち着けロリリス、ってしまっ――」

「殺す」


そうして、小型肉食獣が哀れなシマウマに襲い掛かるのを横目に見ながら猛ダッシュで逃げ出す自分なのであった。

裏切り者~なんて聞こえた気がするが、自然界に卑怯も糞もないのだ。あるのは弱肉強食という自然の掟だけである。さらば友よ。



●   ●   ●   ●   ●   ●   ●   ●



「さて、と」


命からがら寮から逃げ出し、人でにぎわう露店通りを歩きながらほっと息を吐く。

今日は王立軍養成学校は休みだ。

幸い天気もいいし、少し散歩でもして時間を潰してから帰ることにしよう。

それにしてもアバンスには申し訳ないことをした。あとでリンゴでも買って行ってご機嫌を取ろうか……

などと考えながら歩いていると、周りが騒がしくなっているのに気付いた。

なんだろうと周りの話に聞き耳を立てる。


「帰ってきたってよ!」

「ええ?何がだよ?」

「バッカお前英雄ジード様にきまってるだろ!遠征から戻られたんだ!今回も大活躍だったってよお!」

「なにい!?そいつは本当か!!こうしちゃいられねえ、急いで見に行くぞ!もしかしたらお声をかけてくださるかもしれん!」


英雄ジード。

10年ほど前に王の近衛兵から突然王立軍総大将へと抜擢される。

当初は国民の中にも不審がる者はいたのだが、竜人の中でもできる者は数えるほどしかいないという完全な竜化能力と卓越した戦術眼、達人級の槍の腕前を持ち勢いの弱まりつつあったドラコゲニアをここ数年で盛り返し勢力を拡大させた事で一気に人気が爆発。いまや英雄といわれている…のだが、彼を見るとどうにも落ち着かなくなるために自分は何となく苦手意識を持っていた。

思い当たる節はなくもない。

おそらく彼の持つ威圧感と、自分にはないものを持つ相手に対するあこがれがそうさせるのだろう。


「もし」


そんなこんなで、みんなの様に見に行く気にはとてもならなかった。

さて、お店の人たちも行ってしまったし、どうしようか――


「もし、そこの白なるお方」

「え…」


声のした方に目をやると、建物の間、路地に当たる場所に店を構えた占い師であろう老人がこちらを見ていた。服はボロボロで、髭は真っ白なうえに伸び放題だ。


「自分のことですか?」

「そうじゃ。少しだけ話を聞いていかんかの」

「えーと……」

「なに、金はとらんよ。ちょいと面白いものを感じての」


少し迷ったが、どうしてもと老人が言うので無料ならばいいかと見てもらうことにした。


「えーと、手を出せばいいですか?」

「いいや、そんなことをされてもわしには見えぬでな」

「え?」

「ふぉっふぉっ……わしの両の眼はちょいと特殊なんじゃ。人が見えぬものが視える代わりに、普通のものは見えぬ」

「いや、でもさっき……」

「言うたじゃろ。お主の周り……これからを示す道に気になるものが視えたんじゃ」

「……」

「ほっほ、疑っておるな。まあよい。では視てみるとしよう……」

「……お願いします」


内心、面倒な人に絡まれたな、と思っていた。

この手の輩は自分が満足するまでどうにもならないというのを経験則的に知っていたので、うんざりしながらも大人しく従うことにした。


「ふむ……お主、近いうちに転機が訪れるぞい。それから先は……暗い雲があるようじゃなあ。何か困難にぶつかるじゃろう。それ以上は視えぬ。」

「……ありがとうございました」


そういって老人に背を向ける。

占い師は、誰にでも当てはまるような抽象的なことを言う。あとは勝手にその人が占いの結果だと勘違いするのである。

結局誰もかれもが似たようなことばかり――


「ああ、一つアドバイスじゃが、買って行くのはリンゴじゃなくてクッキーがいいじゃろうのう」

「――え」


振り向いたとき、そこには初めから何もなかったように、風だけが吹いていた。

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