表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者道!  作者: 悪名
1/2

プロローグ

「フッフッフ! よくぞここまで来たな。勇者よ!」


魔王の玉座を目前に、立ちはだかる一つの影があった。


「人間にしては良く頑張ったが、ここまでだ!」


全身に黒い甲冑を纏った騎士風の魔物が矛を構えた。

魔王を護衛する最後のボスモンスターと言った所だろう。

ラスボスの前哨戦だ。

本来なら、壮絶な消耗戦が繰り広げられる場面だろう。

勇者からすれば、邪魔以外の何でもない存在である。

だが、しかしだ。


「勇者よ、剣を抜け! その腰の武器は飾りか?」


騎士風の魔物は高笑いして見せる。

余裕綽々と言った所なのだろうか。

だがしかし、俺には理解出来ない……


「どうした? 来ないなら……こちらから行くぞ!!」


騎士風の魔物が矛を振りかぶり、俺に襲いかかってきた。

岩にも穴を開けてしまいそうな、その鋭く、禍々しい矛が俺の顔目掛けて一直線に向かってくる。

それでも、俺には理解出来ない。


「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


右ボディだ。渾身の右ボディ。

特別な魔法も付与されていなければ、武器を装備しているワケでも無い、素手による右ボディ。

俺の右ボディが、騎士風の魔物の腹に突き刺さる。

あくびが出る程に遅い、矛による攻撃を回避してカウンターボディをお見舞いした。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


次の瞬間、その黒い甲冑は粉々に砕け散り、騎士風の魔物から、裸の魔物にランクダウンした哀れなモンスターが吹き飛ぶ。

無関係であるハズの矛も、何故か粉々に砕け散っていた。

裸の魔物は壁に激突し、その場に大きなクレーターを作り、倒れた。


「み、見事だ勇者よ……」


パンツ一丁になった魔物は、ピクピクと身体を痙攣させながら、『それっぽい』セリフを言って見せた。

やはり俺には理解出来ない。

俺は、その哀れなモンスターを無視して、魔王の玉座へと進む。

何のトラップも、魔法も付与されていない、木製の大扉を押し開けた先に。


魔王の玉座を捉えた。

そこに鎮座する、魔王軍の首領にしてラスボス。

人々を恐怖のドン底に叩き落とし、悪の限りを尽くすラスボスである魔王。

その姿がそこにはあった。


「ほう……ここまで辿り着いたと言うのか……」


魔王は『プルンッ』と揺れて見せた。

俺の我慢が限界を迎えようとしていた。


「だがしかし、お前の英雄譚はここで終わるのだ」


魔王が『ポヨンッ』と揺れて見せた。

俺の我慢が限界を突破した。


「さぁ、かかってくるがよい」

「ちょっと待て!!」


溜まり溜まった鬱憤を晴らすように、俺は叫んでいた。

それでも魔王は表情を変えない。

いや、表情なんて最初から無い。


誰もが恐れる魔王軍。屈強にして列強な魔物がうごめく凶悪な軍団。

その頂点に立つ、恐怖の象徴とも言えるラスボス。

最強の敵として勇者を迎え撃つ役割を担うハズの魔王。


その魔王が。

お前。

スライムってどういう事だよ?

どこかの勇者が言っていた。

『俺の怒りが有頂天』だと言っていた。

正に今、俺はそんな状態なんだろう。


「何で魔王がお前なんだよ!!!」


誰もが思うであろう、当然の疑問をぶつけてやった。

罰ゲームか何かで魔王になったとでも言うのか。


「おかしな事を言う。能書きは良い。私を倒して見せよ」


魔王が『ポヨポヨ』と震えて見せた。

俺は全ての怒りを拳に乗せて、渾身の右ストレートをお見舞いした。


「ギャアァァァァァァ……」


魔王は『プルプル』と震えながら断末魔を上げた。


俺には理解出来なかった。

この業界に足を踏み入れて10年。

次から次へと現われる、魔王軍を討伐し続けた10年。

これまでに壊滅させた魔王軍は50は下らないだろう。

いずれも凶悪な魔王軍だった。禍々しい魔王軍だった。

強敵だった。死闘ばかりだった。

だからこそ、俺は勇者である自分に誇りを持っていた。


だが、しかし。


出会ってしまった。

全ての常識を覆すような魔王軍に出会ってしまった。

ワンパン、ワンパン、デコピン、ワンパン。

自慢の名剣を振う事も無く、鍛えた魔法を使う事も無く、奥義も。必殺技も。特技も。何もかも使う事無く。

ラスボスを目前に現れた、強敵でなければならないボスすらワンパン。

終いには魔王がスライムと来た。

しかもワンパンで沈みやがった。


理解出来ない。あり得ない。

こんな事はあってはならない。

これほど弱い魔王軍など、存在していい理由が無い。


「オイ! 起きろコラ!!」


俺は壁際まで吹き飛んだ魔王を摘み上げた。

こいつだけは。

こいつらだけは、許しちゃおけねぇ。


「う、うーん……見事だ……」


この期に及んで、それっぽいセリフを吐きやがる。


「弱すぎんだよお前ら!! 何が魔王軍じゃボケェ!! 俺の勇者道を汚しやがって!! 生き地獄見せたろかコラァ!!」


俺はブチのめされたばかりの魔王を恫喝していた。

魔王はただ、『プルプル』と震えていた。

表情が無いから、どういうリアクションなのかは読み取れない。


「絶対に許さん!! 俺は認めん!! これほどまでに弱い魔王軍を、俺は認めんぞ!!」


そう。そうだ。

俺は、この魔王軍の存在を認めない。

俺の勇者道を汚した魔王軍の存在を否定する。

デコピンとワンパンを前に、無様に散って行った魔王軍を無かった事にする。


「俺がお前らを徹底的に鍛え直してやる!! 今すぐ全軍を集めろや!!」


俺はこの魔王軍を、紛れも無い強敵に鍛え上げ、そして『倒し直す』事にした。

コイツらだけは、絶対に許さない。

鍛えて鍛えて鍛えまくって、最強の魔王軍へと育てあげてやる。

勇者業はしばらく休業だ。


今より俺は、魔王軍調教師になる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ