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魔法のおしごと。  作者: 五十鈴 りく
✡第12章✡

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⑫七宝の森〈1〉




 魔術師たちが実権を握る大国、ライシン帝国。

 その神秘に満ち溢れた国において、最重要機密として歴代皇帝によって結界が張られた場所がある。

 それこそが、七宝しっぽうの森。

 国土の八分の一を占める広大な森の深部に、秘密は眠る――。



 その七宝の森の入り口に、触媒屋と呼ばれる職種の少年ノギが、相棒のユラと共に住んでいた。彼らはこの森の秘密を知る、数少ない人間である。

 だからこそ、この森の他には何もない場所に居を構えている。それだけ、この森は二人にとって重要なのだ。

 二人は、この森の深部に辿り着くことを夢見た。

 ただ、結界は皇帝の許しがなければ触れることすら許されない。


 自分たちの正体と七宝の森の深部へ行きたい理由わけを、二人は正直に皇帝に話すことにした。

 ようやく謁見を許された皇帝は、まだ子供であったノギよりもさらに小さな子供であった。それでも、幼帝は甲高い声で冷ややかに告げたのだ。


「七宝の森の奥地へ行くための許可がほしい、と?」

「はい」


 謁見の間にてひざまずく二人。幼帝キリュウは顔を上げるように言った。


太古の民(ルーディニフリウス)――ユラと言ったね。君は、この国をどう思う?」


 ユラは、麗しいおもてで微笑んだ。


「貧富の差はありますが、大きな争いのない、平穏なお国です」

「そうか。けれど、君にとってこの地は決して居心地のよい場所ではないようだ」


 その皮肉な言葉に、ユラは苦笑する。


「私はきっと、今となってはこの地で唯一の純粋なる太古の民(ルーディニフリウス)なのです。私の体は、この地に順応することができません」


 ライシンは、自然豊かな国。

 けれど、ユラにとってはこの大気すら淀んだものである。彼女は、もっと清浄な地でなければ生きては行けない。こうして、この国にいるだけでその体は蝕まれる。

 それは緩やかであるけれど、確実に迫りくる。

 彼女が死を逃れる術は、七宝の森にしかないのだ。


「唯一の、か――」


 キリュウはそうつぶやいた。

 ノギはただ、二人の会話をそばで聞いていたのみである。

 キリュウはユラの宝石のような瞳をただ見つめた。その奥に秘めたものを探るようにして。

 そうして、子供らしからぬ微笑を向けた。


「だとしても、安易に許可などできぬ」

「え……」


 ノギはただ口を開けて、高みに座すキリュウを見上げた。照明のように光り輝く数々の触媒に囲まれた皇帝は、孤高の存在だった。


「ユラに死ね、と?」


 思わず、震える唇でつぶやいた。すると、キリュウはかぶりを振る。


「そうは言わぬが、七宝の森は国の最重要機密。一般人の君たちに解放したことが漏れてしまえば、後々収集がつかなくなる。そう易々と許可はできぬ」

「それは死ねと言ってるのとどう違う!?」


 声を荒らげたノギの裾をユラがつかんだ。そうして、柔らかく微笑む。


「そうですね。無理を申しました。私がここにいること――これもさだめなのでしょう。後のことは自然に任せて受け入れることと致します」

「ユラ!」


 受け入れると、死ぬと、簡単に言うユラが悲しかった。父親を亡くしたばかりのノギには、耐え難い言葉だ。

 すると、キリュウは小さく嘆息した。


「どうあっても駄目だというのではない。あの場へ立ち入ろうと思うのなら、それ相応の対価を支払えるようになるべきだ」

「え?」

「無償というわけにはいかぬのだ。他の者に有無を言わさぬものを示すことができるのなら、私も許可を与えよう」


 そう言うが、ノギにはピンと来なかった。

 どうすればいいのか。どうすれば、この皇帝を納得させることができるのだろう。

 この国において、重要なのは魔術。けれど、ノギにその力はない。

 だとするのなら、自分にできることは何か。

 うつむき、考えた末に口を開いた。


「金があれば許可してもらえますか?」

「ノギ?」


 ユラが困惑した表情を向ける。それでも、ノギは続けた。


「大金を稼いで、七宝の森の深部への通行許可を買い取る。これでどうですか?」


 ギリ、と唇を噛み締め、王座の皇帝を睨みつける。

 けれど、それくらいで怯むような存在ではなかった。キリュウは悠然と微笑む。


「よいだろう。ただし、期限を切らせてもらう」

「っ……」

「一定期間内に、こちらが提示した金額に達しなければ、それまでに支払った金額を返そう。そして、この話は無効だ」


 血も涙もない話だ。

 そうまでして、森の秘密を守るべきだというのか。あの地に誰もよせつけたくないがためにユラを見殺しにする、と。


「……わかりました。必ず、金は用意します。だから、約束はたがわないと誓ってください」


 ただの平民である自分たちとの約束など、皇帝にとっては吹けば飛ぶほどに軽いのかもしれない。こんな念押しにも意味はないのかもしれない。

 けれど、


「わかった。約束しよう」


 まっすぐに自分を見つめ返した皇帝の言葉を、ノギは信じるしかなかった。信じなければ、すべては始まらない。

 まだ子供で、金などどう稼げばいいのかもわからなかった。

 それでも、絶対に諦めることのできない願いだ。それを遂げるために、働く術を探した――。


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