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魔法のおしごと。  作者: 五十鈴 りく
✡第10章✡

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⑩籠目の砦〈8〉

 ノギが伸ばした手が、輝く触媒を握り締めるムロイの手に被さる。

 けれどそれは、ムロイが魔術を完成させる直前であった。

 まばゆい光が、二人を染める。


 ノギは、死ぬのかな、と一瞬だけ頭の片隅で思った。

 けれど、すぐにユラの姿が脳裏に浮かぶ。


『私を近くに感じて』


 待っている。今この瞬間もノギの無事を祈ってくれている。

 ユラを残して死ねない。絶対に帰らなければならない。

 強く、願った。

 少しでいい。

 ユラの力が、同じようにこの身にあれば。

 ()()()のではない、自身のうちに眠る、その力があれば――。



 強い輝きは、ノギの手にある。白光をまとう手は、ムロイの術を手の平に封じ込めていた。

 ノギは、そのまま鈍く嫌な音を立ててムロイの拳を砕いた。その行為は、熟れた果実を握り締めるほどに簡単なことだった。

 痛みに絶叫したムロイは集中を切らし、術は霧散する。触媒は白く濁り、床に落ちた。いかに水龍の鱗であろうとも、こうなってしまえば無価値である。


 ノギは輝く自分の手を、遠い目をして眺めた。

 それから、耳障りな声を上げながら床を転げるムロイを、ノギは力を込めていない足で蹴り飛ばす。


「おい、ハトリに何か術をかけたなら、すぐに解け」


 体中が熱く、血が沸き立つようだった。力があり余り、今ならどんな冷酷なことでもしてしまいそうな自分を感じた。

 しかし、その背後に突如現れたヤナギによって、ノギは少しだけ冷静さを取り戻した。ヤナギは部下の指示をしていただけなのか、まるで疲れた様子はない。


「無事か?」


 無言でムロイを虫けらのように見るノギに、ヤナギは嘆息した。


「この砦の中には他にも囚われた子供たちがいた。救出に手間取ってしまってすまない。……詳しい話は後だ。それで、ムロイは彼女に何をしたと?」


 囚われていたのはハトリだけではなかったらしい。ただ、ノギはそんなことよりもと思ってしまう。自分は大切な一人(ハトリ)を優先してしまう。

 ハトリの上に展開していた魔術は、ノギに理解できるものではなかった。それがまたいっそう不安を煽る。


「わからない。でも、全部忘れて、とか言ってた」


 すると、ヤナギの表情が途端に険しくなった。


「――禁呪だな」

「え?」

「対象の記憶を奪い、忘却させる術は禁呪だ」


 忘却。

 その言葉に、ノギは目の前が真っ白になった。


「それ……ハトリが俺たちのことも全部忘れてるってことか?」


 出会いも、喧嘩も、触れ合いもすべて。共に過ごした日々は、ハトリの中に存在しないというのか。

 目が覚めたら、知らない人間を見る目つきでノギを見上げてくる。その時、自分はどうしたら――。


 ただ、その後で冷たくムロイを見下ろすヤナギが告げた言葉は、ノギの想像もできないようなものだった。


「けれど、私の推測通りならば、彼女にその術は効かない」

「え?」

「その術は、二度は効かないのだ」


            ☆  ★  ☆


 眠るユラの額にかかる髪にそっと触れる指があった。優しく、愛しく、恐れるように触れる。

 ユラは朦朧とする意識の中、愛しいただ一人の名を呼んだ。その途端に、失笑が返る。


「――ひどいな、君は」


 落ち着いた口調とは裏腹に、幼い声。ユラはようやく夢から覚め、まぶたを開いた。

 そこには、見慣れた自宅の天井と、自分を見下ろす少年皇帝の姿があった。


「不法侵入よ?」


 ユラは苦笑する。

 力を上手く保てないユラの体は縮んでいた。子供のような姿を見せても、キリュウは驚かない。彼は子供ながらに、皇帝として様々な情報を持っているのだろう。

 キリュウも笑った。


「僕を罰することができるかい?」

「ずるいことを言うのね、あなたは」


 仕返しのような言葉を言って、ユラは体を起こした。すると、キリュウは身につけている触媒のひとつを使った。柔らかな光がユラを包む。体が少しだけ軽く、力が戻った。


「少しは楽になったかな?」

「……ええ。ありがとう」


 ユラが微笑むと、キリュウはどこか寂しげに瞳を揺るがせた。

 この程度の術はその場しのぎにしか過ぎないと、キリュウ自身がわかっているせいかもしれない。


「そろそろ、限界のようだね」

「そう、かも」


 ここでつく嘘に意味はない。だからユラは正直に答えた。

 キリュウは、そんなユラの返答を予測していたのだろう。袖の中から、彼の手の平に包まれた小さな箱を取り出した。


「これを」


 ユラはそれを受け取る。そうして、気づいた。ハッと、驚いてキリュウを見上げる。


「これは、君たちが欲していたものだ。料金は、今までの分で十分だよ。もともと、金額に意味があったわけではないから」

「……いいの?」


 そう、問わずにはいられなかった。

 キリュウはやはり悲しげに微笑み、うなずく。


「君の苦しそうな姿を見ていると、もう渡さないわけにもいかない。私なりにすべを探したけれど、このままでは間に合いそうもないから。……条件をつけて先延ばしにしたのは、私のわがままだ」


 ユラがキリュウにしてやれることはない。中途半端な優しさなど、余計に傷つけてしまうだけだ。

 だから、いくつかの言葉を飲み込んだ。

 ただ、その感謝だけを述べる。


「本当に、ありがとう……」


 キリュウは、誰に見せるよりも穏やかに微笑む。


「君には生きてほしいと思うから。――さよなら、ユラ」


 それを最後に、キリュウはその場からかき消えた。後には、光の粒が残るのみである。

 再び目を閉じると、この出来事が夢であったのではないかと勘違いしてしまいそうだった。

 手で包み込んだ小箱の存在だけが、これは現実であったのだとささやいている。

 ユラはその小箱に向かってつぶやいた。


「ねえ、どうしたらいいと思う? 教えて――」


 聞きたい声は、今、ここにはない。


          【 第10章 ―了― 】

 謎を残し、もやっとしたまま第10章終了です(笑)

 続きは次章にてということで。

 お付き合い頂き、ありがとうございました!

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