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魔法のおしごと。  作者: 五十鈴 りく
✡第6章✡

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⑥市松の林〈5〉

「で?」


 窓際から外を眺めつつ、ノギは短く問う。

 ハトリはただ、言葉に詰まっていた。


「で? って、何よ」


 本当はわかっているくせに、そうはぐらかされた。途端に、ノギはさらに冷ややかな目をしてやった。


「別に。言いたくなければいい。その代わり、後でごちゃごちゃ言うなよ」


 突き放したそのひと言に、ハトリはしょんぼりと項垂れる。顔を上げたらノギのイライラした顔がある。そう思うと顔を上げるのが嫌になったに違いない。

 けれど、そんな空気をユラが和らげてくれる。


「こら。そういう言い方しないの」


 それから、ユラはそっとハトリに微笑む。


「ここは学院じゃないんだから、弱音を吐いてもいいのよ」


 その顔を見て安心したのか、ハトリからぽつりぽつりと言葉が出た。


「少し……苦手なの」

「は?」


 ノギが素っ頓狂な声を出したから、ハトリは困惑して補足する。


「エドっていうんだけど、あの人のこと」


 ノギとユラは言葉を挟まずにその続きを待っていた。ハトリは少しずつ語る。


「あたしね、学院の中でちょっと浮いてた。……だって、孤児だもん。学院の中は良家の子女が多いから。血統が能力を左右するって考え方をする人が多いの」

 

 一度語り出すと、今度は驚くくらい饒舌になった。

 こんな話ができる相手がハトリにはいなかったのだ。本当は、誰かに聞いてほしかったのだろうか。


「でも、あたしは特待生になって、実力を示したの。先生たちは私が優秀だって褒めてくれたけど、生徒たちはそうじゃなかった。あたしががんばればかんばるほど、みんな自分を否定されているみたいに感じたのかな。あたしを目の敵にしてた」

「あいつもそうだってことか」

「……うん。エドはいつもあたしと首席を争っていたから、特にそう」


 学院になど通ったことのないノギにはよくわからない。わからないけれど、これを語るハトリは少しも楽しそうではない。優秀だといっても、相応の苦労があったのだろう。


「ふぅん」

 

 結局、それくらいしか言えない。へたな慰めを言える口など持ち合わせていないのだ。

 ハトリなりに考えることはある。そっとしておいてやれとユラは思うだろうか。それでも、ノギは聞いておくことにした。


「で?」


 ハトリはギクリと体を強張らせるばかりだ。


「それで、お前はどうしたいんだ? 俺たちは触媒屋だ。依頼があれば触媒を手に入れる。けど、お前はそうじゃない。手を貸したくないなら、留守番してろ」


 エドもハトリと首席を争っていたというのなら、優秀な実力を持つ。

 ミーティアーの尾羽があれば、好成績を収めるだろう。

 もし、ハトリが望む触媒を手にできなかったとしたなら、勝てないかもしれない。


 ライバルに塩を送ってやることはない。失敗してしまえと願ったとしても、それはお互い様。それが勝負の世界なのだ。

 ノギも同業者(イルマ)の足を引っ張り、妨害することに罪悪感などないので人のことは言えない。


 しかし、ハトリはノギたちに依頼を受けるなとは言わなかった。


「わからないよ……」


 ただそれだけを力なくつぶやいた。

 その言葉があまりにも弱々しかったから、ノギはもう諦めた。今、問い詰めたところで結論など出ない。


「まあいい。とりあえずは市松の林に向かう。まず、入手できるかも怪しい代物だからな。手に入らなきゃ、こんなこと考えたって無駄だ。お前は家にいろ」

「ううん、行くよ」


 行くと言う。

 けれど、ノギには手を出させるつもりはなかった。ハトリもまた、手助けになるようなことはしないだろう。

 それでも、見届けようと思うのかもしれない。


 ハトリにはなんの後ろ盾もない。成績が優秀で将来性がある、それだけがすべてなのだ。

 だから誰かに負けて自分の価値が下がることを恐れている。自分にはこれしかないのだと。

 その不安は、自分で解決するしかないことなのだ。ノギたちが何かを言ったところで本当の解決は訪れない。

 乗り越えられるかどうかはハトリ次第ということ。

 そんなふうに思うノギを、冷たいとユラは言うだろうか。


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