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魔法のおしごと。  作者: 五十鈴 りく
✡第1章✡
4/88

①雲立涌の丘〈3〉

 翼石ウイングラピスの使用感は、まるで風に体を攫われたかのようである。

 ノギはこの感覚が嫌いだった。あまり長距離を飛ぶと乗り物酔いに似た不快感が残る。

 距離が短ければ大したことはないけれど。


 ふわりと下り立てば、そこは雲立涌の丘の入り口であった。

 薄く霧に覆われたそこは、寒い上にどこか空気が薄い。ノギは白くなった息で嘆息した。


 丘には霜の降りた草が続いている。低木や茂みも白い。丘の地形は地面が波打っているように見えた。自然の作り出す神秘というところなのだが、それに見惚れるほど暇ではない。ノギにはどうでもいいことであった。

 攻略しやすいかしにくいか、それだけだ。


 見たところ周囲は穏やかで、鳥の声が遠くでするばかりだった。野獣の咆哮もなく、落ち着いて感じられる。目的の優曇華うどんげの露は丘を上り詰めたところだろうか。


 そこまで飛べれば楽だったのだが、翼石ウイングラピスは、場の持つ力に影響されることが多く、大抵は外までしか到達できなかった。

 触媒が多く眠るような場はルクスが収束するため、独特の空間である。この丘の地形を歪ませたのもそうした力であるのかもしれない。


「さ、早く終わらせて帰――」


 ノギがそう言いながらユラに顔を向けると、そこには唖然としてしまう光景があった。


「ユ、ユラ?」

「うん、ごめんね」


 えへ、と照れながら笑ったユラの両脇には、着用していたピンクのミトンが落ちていた。ダッフルコートの裾も地面すれすれである。


「随分……縮んでないか?」


 見るからに縮んでいた。

 ノギと同世代の外見であったユラは今、どう見ても六歳くらい。小さい。すごく小さい。


「この季節のこの場所、私には合わないみたい。ここまで力が出ないの、初めてかも」


 少し困ったように、指先さえも出ない長すぎる袖を口もとに当てたユラは、それはそれで可愛かった。だから、ノギは新鮮な気持ちになる。


「大丈夫。ここ、厄介な怪物もいないみたいだし、ユラのサポートがなくてもなんとかなるって。心配しなくていいから、怪我だけはしないように気をつけて」


 精一杯、優しくささやく。

 ユラはどんな時だってノギにとっては特別であるのだから。


「うん。ありがとう、ノギ」


 二人はえへへ、とほのぼのと笑い合う。

 一見幸せそうな光景であるが、平凡な日常とはかけ離れているのだった。

 ユラはこの世界において、『普通の人』とは言いがたい人種である。そのことを知っているのは、ノギを含めた数名だけ。トップシークレットというやつだ。


 では、彼女は何者であるのか――。


 この国にはびこる魔術師とは質の違う魔力を持つ人。

 太古の民『ルーディニフリウス』。


 ユラはそうした存在であるらしい。ノギには想像もできないような時間ときを生きている。

 実際に、昔から老いるということとは無縁なのだ。ただ、その代わり、こうした環境に影響されやすいデリケートな人種と言える。原理や理屈はノギにはわからないけれど。


 今回、ユラのサポートは最小限。

 けれど、だからこそ、上手く依頼品を手に入れることができたなら、ユラはノギの成長に目を見張るのではないだろうか。ノギはそう考え、俄然張りきる。


「よし、行こう」


 緊張と期待を胸に、二人は丘の中へ足を踏み入れる。



 ショートブーツの底にぬるりとした感触があった。寒さのわりに、雪は不思議と積もっていない。このちぐはぐさが、場の持つ力のせいであるのだろう。


「ユラ、滑るから気をつけて」

「うん、私はいいから、ノギも前をちゃんと見て歩いて」


 逆に注意された。縮んで見えていても中身は同じユラなのだけれど、小さな子に叱られたみたいに思えて、それが微笑ましい。

 縮んで歩みの遅いユラに合わせつつ、ノギは緩やかな丘を登る。鳥の声がまた耳に響いた。



 そうこうして登っているうちに、いくつかの触媒はあった。ただし、はした金にしかならないような雑草や小石だ。今は荷物を増やしたくないので放っておく。今回の目的はあくまで優曇華うどんげの露なのだから。


 歩いているから体はあたたまっているものの、鼻の頭だけが冷たく感じた。ノギは手袋をした手でなんとなく顔を触る。

 そこで鳥の声がした。

 ふと上空を見上げるれど、鳥はいなかった。ルルルル、と穏やかに啼く声だけがこだまする。

 ノギが首をかしげると、ユラの声が鋭く飛んだ。


「ノギ、気をつけて!」


 その声と同時に、ノギは身をかがめて木々の間から飛び出してきた()()を避けた。

 それは獣だった。薄青い、小型の虎のような生き物。名前なんて知らないけれど、白銀の瞳は獰猛そうに輝いている。その獣がルルルル、と鳥の声で啼いた。


「なるほど。そうやって獲物を油断させるってわけか」


 ノギは恐れることなく、その獣を冷静に眺めた。ユラではなく自分が狙われたのは、パンを大量に担いでいるせいだろう。美味しそうな匂いがしたはずだ。

 苦笑すると、ノギは背中の荷物を降ろした。


「さて、ちょっとした肩慣らしだな。こいつら触媒になりそうもないし、追い払う程度に痛めつければいいか」

「そうね。ノギだって私の力の影響を受けてるんだから、ここで本領は発揮できないのよ。油断しないでね」

「了解」


 ノギは心配そうなユラを安心させようと、優しく微笑んで正面の獣と向き合うのだった。

こちらの固有名詞は信用されないで下さいね。

特にカタカナほど信用してはいけません。創作上のデタラメです(笑)

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