〈 プロローグ 〉
そこは、碧海に浮かぶ自然に育まれた国。
高い霊峰、白い砂浜、深い緑――そうしたもので構成された三日月にも似た形のその国は、ライシン帝国といった。
国力は他のどの国とも一線を画し、同盟も結ばずに自治を貫く帝国である。
同盟も意味を成さない。この国は、他国にとって触れてはならない国なのだ。
魔術帝国、と人は呼ぶ。
ライシン帝国は、魔術師たちの国、と――。
そんな魔術師たち国には、否応なしに階級が存在する。
その階級を決めるのは、一言で言うのなら『魔力』というものである。
魔力とは、様々な超常現象を作為的に引き起こすことができる、『魔術』を行使する力である。
ただ、魔術とは、魔術の使い手である魔術師が単独で無尽蔵に放てるものではない。
魔術を行使するためには魔力を有する魔術師と、あともうひとつ。
『触媒』と呼ばれる『魔術のもと』が必要なのである。
それは海の底に沈む真珠であったり、怪物の鱗であったり、断崖に咲く神秘の花であったり――。
触媒自体が有する魔力を『ルクス』といい、そのルクスが魔術の燃料である。
魔術師たちの魔力と触媒のルクスが合わさり、初めて魔術は成立するのだ。
だからこそ、ルクス包有量の多い触媒ほど稀少で高価となる。
価値の高い触媒は高度な魔術を放つことができるのだが、触媒は一度使用すればルクスを失う。そして、力のない魔術師にその触媒のルクスすべてを放出することはできない。二度は使えないにもかかわらず、だ。
優秀な魔術師は国の上層に召し上げられ、高価な触媒も比較的手に入りやすい。それを求めるだけの賃金も与えられる。
つまりは、力がすべて。
そんな魔術第一のライシン帝国だが、国に住まうのは何も魔術師ばかりではない。魔力を有しない人々も半数に及ぶのである。
彼らは勿論、階級の底辺。
生計を立てるため、商売に勤しむ者がほとんどである。
そんな階級の底辺にありながらも、魔術師たちが決して軽んじることのできない職種があった。
それは魔術のもとである触媒を手に入れる、一般的に『触媒屋』と呼ばれる仕事だった。
魔術師たちは単体では非力な存在である。触媒を手に入れるために触媒を消費するのでは本末転倒なのだ。だからこそ、触媒を手に入れるには自分の身ひとつで戦うことのできる人間が必要とも言える。
貴重な触媒ほど危険な場所にある。それを命懸けで手に入れる人々。
彼らなくして帝国は成り立たない。
これは、そんな職種に就いた少年の話――。