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斑儀かのは

意味不明な作者のテンションにお付き合い下さい。

茜に輝く空。時折吹く風に、漆塗りのような光沢のあるロングヘアがなびく。

「ねぇ、そこの君」

澄んだ声で、彼女は言った。

「反吐が出るから、それ以上近づかないでくれる?」

……事の経緯を説明しよう。

俺は彼女、斑儀かのはに恋をした。彼女は変人と言われており、クラスではかなり孤立していた。だが、そんなことを差し引いても惹かれるだけの魅力があった。

顔はもちろん、手入れが尽くされたその髪。万人が見とれると断言できる。身長は160弱。少し細身だが、あるところはある、といった感じか。他は特筆すべき部分はない。

彼女はいつも窓際の席で外を眺めていた。そんな彼女の横顔を見ている内に、彼女の虜になっていた。

同じ中学だった奴らに色々聞いたが、はぐらかされて結局名前しか知らない。

それでも、俺は彼女への告白を決めた。それがほんの小一時間前。そしてやっと屋上で見つけたのだが。

いきなり暴言とは、さすがの俺でも堪えた。

「早く失せるか、飛び降りるかしなさい」

「何故飛び降り!?」

「あら、お気に召さなかった? ならミジンコにでも食い殺される?」

「ミジンコには無理だろ!」

「ミジンコに失礼でしょ!」

何故か逆ギレされた。

「ミジンコだって精一杯生きてるの……あ、今朝金魚にミジンコやるの忘れてたわ」

「お前のが失礼だろ!」

「……一つ、いいかしら」

「なんだ……?」

いきなりトーンダウンしたかのはに、思わず息を飲む。

「あなたの息、ヘドロみたいな臭いするから、それ以上喋らないでもらえる? 一体何食べたらそうなるのやら」

「少なくともヘドロは食ってませんけどね!」

「ところでゴミ」

「ゴミって俺の事か!?」

「ごめんなさい、ヘドロ」

「ヒデェ!?」

「ところで、私に何用かしら。用がないなら、消えてくれない? でないと私、目からビームとか出ちゃいそう」

「厨二か!」

とは言え、本来の目的は告白だ。もっとも、告白出来るような雰囲気ではないことは確かだが。

それでも、俺はダメ元で勝負に出た。

「俺、お前が好きなんだ」

「っ……!?」

しばしの沈黙。そしてかのははゆっくりと、空を指差した。その先には三日月。

「……月がなんなんだ?」

「いや、あの顎に刺さればいいのに、と」

「顎じゃねぇだろそれに太陽光の反射の関係で三日月に見えてるだけだからな!」

「私の家にある絵本ではそうなってるのよ!」

「絵本だろ!?」

「ふむ、どうやら私のジョークは原始人、及びホモサピエンスであるあなたには通じないようね」

「ホモサピエンスは原始人じゃねえだろ! 今の俺らがホモサピエンスだよ!」

叫びすぎて疲れてきた。

「……ところで、返事は?」

「そうね……」

溜める。溜めに溜めて、彼女は言った。

「学園祭が終わるまでなら、いいわよ」

学園祭は明後日。つまり三日間限定。だが、延長の可能性もあるかもしれない。

「その代わり、一日に一回。私を笑わせて」

浮かれていたのもつかの間、解けない難題を突き付けられた気分だ。

「さぁ」

「え!? 今日から!?」

「当然よ」

必死に頭から捻り出そうといろいろ試す。狭い屋上を走り回ったり、三点倒立に失敗したり、トリプルアクセルに挑戦してみたりした。だが全く出てこない。最終的に俺は、秘密道具が見つからずに慌てふためく某ネコ型ロボットの形態模写をしているようになっていた。

「ふふっ」

今、かのはは笑わなかったか? 聞き間違いでなければ、確かに笑い声が聞こえた。

「今日はもういいわよ。明日も頑張りなさい」

「ありがとうございます」

直角お辞儀をする。

「明日、あなたにお弁当作ってくるわ」

いきなり手料理とは、楽しみだ。

「あーっ! ご飯と間違えてレモンの種詰めて来ちゃった〜☆という展開を楽しみにしててね」

「ありえねぇだろそんな展開!」

「あら、ダンゴムシの方がお好み?」

「食べ物ですらねぇ!」

「冗談よ」

かのはが言うと冗談に聞こえないから困る。

「ところで愚民。不本意だけど、私の弟の親友の母親の姉の夫の同僚の甥の連絡先を教えてあげるわ」

「俺が不本意だよ!」

「残念、私は一人っ子よ」

「そういう問題じゃねぇんだけど!?」

「冗談よ。ほら、早くケータイ出しなさい」

「お、おう」

赤外線で互いに連絡先を交換した。

「無駄な電話してきたら、毒電波を発してあなたの脳に干渉するからね」

「驚きの新技術!?」

かのはならやりかね……いや、さすがにこれはないか。

「もう日も暮れるわ。早く帰りましょう。さもなくば、私の邪気眼が……っ!」

「厨二か!」

「鎮まれ、私の左腕」

「だから厨二か!」

「今宵は月無し。まさに漆黒の夜天よな!」

「さっき三日月指差したじゃねぇか!」

「ジョークよ」

「ですよねー……」

なんか一気に疲れた。ここは素直に帰った方がいいかもしれない。

「何してるの、早く帰るわよ」

「あ、俺カバン取りに行かないと」

「これのこと?」

かのはの手に、握られたカバンを見る。

「ま、私のだけど」

「やっぱりか……ちょっと取ってくる」

「校門で待ってるから、早く来なさいよ。一秒待たせるごとに登頂部の髪の毛を一本ずつ抜いていくから」

「何その地味な嫌がらせ……」

「一分ごとに爪一枚ね」

「うおおおおおおっ!」

全力で走って、教室に戻る。さすがに爪はやばい。

カバンを取って昇降口まで走って行くと、かのはは靴を履き替えているところだった。

「あら、早かったわね。指が折れると楽しみにしてたのに」

「さっきそんなこと言ってなかっただろ!」

「確かに私には聞こえたけど?」

「それ小声で言ったんだろ!?」

「バレたか」

バレバレである。

さりげなく隣を歩いて門をくぐる。しばらく歩いて、かのはが突然立ち止まった。

「どうかしたのか?」

問い掛けると、鼻をつまむような仕草をして言う。

「ごめんなさい、やっぱりヘドロ臭が……」

「しねぇよ!」

「ヘテロ臭が」

「それ結合!」

「獲物臭が」

「ぎゃー食われるー……ってやらせんな!」

「あなたが乗るのが悪いのよ」

「それも一理ある。だがかのはが言うから反応してしまう自分がいるのもまた事実」

口では勝てない。必ず後手に回らなければならない時点で振り回されるのは明白だ。

「……なぁ、かのは」

「気安く呼ばないでくれる?」

あれ、俺って一応彼氏ですよね?

ここで折れたらいけないと思い、さらに続ける。

「手、繋がな」

「嫌よ」

即行で拒否された。

「だって、孕みそうじゃない」

「何を!?」

するとかのはは、俯いて体をモジモジと動かす。

「やっぱり、初めては大切にしたいじゃない」

「……いや、手を繋ぐだけだぞ?」

「私冷え症だから、一瞬であなたの腕を凍らせるかもしれないもの」

「大丈夫、俺の手はいつも暖かいって定評があるから」

「どんな定評よ」

かのはが初めてツッコんだ。

「騙されたと思って」

手を差し出すと、かのはは戸惑いながらも俺の手を握った。

細くて柔らかくてひんやりしている。そんな印象だ。

「……、」

空いていた手で、かのはは握っている俺の手を叩いた。

「痛い! 痛い痛い! ちょっ、叩くの止めい!」

「……どうして?」

「そんな無垢な子供のように言ったって俺は騙されません。ダメなものはダメなのです」

「じゃあアキレス攻めは?」

「そこ急所だから! アキレスの急所だから!」

「弁慶殺し」

「あの屈強な弁慶さんですら泣くあそこを狙うとかマジ鬼畜っす」

「私悪魔だもの」

「自分で言っちゃうところが逆にスゲェ! そこにシビレる憧れるゥゥゥゥッ!」

「死ぬほど感動して頂戴」

こんなやり取りをしている間も手は握りっぱなしな訳で。何度か離そうと試みはしたがかのは自身の手によって邪魔されている。ようは離すなということなのだろう。

「俺、こっちなんだけどかのはは?」

「私はこっちよ」

どうやらここの交差点で別れることになるらしい。

「家まで送ろうか?」

「嫌よ。襲われるもの」

「襲わねぇよ!」

「なら、あなたは自分には性欲がない人畜無害な人間だと言い切れる?」

「ない」

「私もないけどね」

今の質問の意味がわからない。

「今日はこれぐらいにしておいてあげるわ。明日の朝八時十分にここに集合ね。遅れたら奥歯の三本は覚悟しなさい」

「善処します」

「また明日」

「また明日」

別れて、一人で歩き出す。

そこから自宅まではそうかからない。

「あれ、もう売れたんだ」

空き家だった隣の家を見ての言葉だ。ほんの数日前売りに出されたばかりだが、もう買い手が見つかったらしい。

「まぁ、あんまり関係ないだろうな」

玄関の扉を開ける。

「ただいまー」

そのまま自分の部屋に向かい、カバンを置くと、俺は考え始めた。かのはを笑わせるのはかなりの難題。だからこそ万全の準備をしなくてはならない。

「しっかし、いざとなると全く思い浮かばないな」

仕方ないので、早めに最終手段に手を出すことにした。

隣の部屋の主のもとへと向かう。

「入っていいか?」

「どーぞー」

間抜けな声が返ってきた。

「で、何か用? 私忙しーんだけど」

「ゲームしてる奴に言われたくないんだが」

ノースリーブのシャツにショートパンツでベッドに転がってゲームに励む我が姉(24)。一応彼氏ありだ。

「頼みがある」

「何々人生相談? めんどくさいからやだー」

「違う。なんというか、その……女の子を笑わせる方法を教えてほしい」

「……詳しく聞かせて」

ゲーム機を放り投げて、胡座をかいた。

「で、女の子を笑わせる方法? どうしてそんないきなり……彼女でもできた?」

「できた。で、どうすればいい?」

「そうだなー……私もしばらく女の子してないからなー……とりあえずお金渡しといたら?」

「ふざけんな馬鹿」

「火だるまになってみるとか」

「死ぬわ!」

「奴隷になってみるとか」

「嫌だよ!」

「足でも舐めてみるとか」

「絶対に殺される」

「じゃあ何がいいのさー。私の彼は全部やってくれたよ?」

姉の彼氏が可哀想過ぎる。あるいはただのドMか。

「もっとましなのないのか?」

「んー、可愛いよ、とか言って誉めるとか?」

「……考えとく」

どうせ何か予想外の切り返しがくるに違いない。

「くすぐるとか」

「それはダメだ。絶対警察に突き出される」

「むしろ殴られてみたら?」

「頭大丈夫か?」

「二日徹夜なだけだよー。そろそろ向こう側に行けそう」

「向こう側ってどこだよ」

折角国立大学を出たのに現在はその頭脳をゲームにしか使っていない。今はそこで得たコネを使ってゲームのモニターの仕事をしたり、コミケで自作ゲームを販売したりして小遣いを稼いでいるらしい。大企業の新入社員より稼いでいるとかなんとか。

しかも弟の俺から見ても美人だ。ゲーム三昧の日々を送っていても髪の手入れには余念はないし、オシャレも頑張っている。彼氏とのデートの日など別人に成り果てるほどだ。

「地の文長いよー」

「意味がわからないんだが」

「ところで彼女の名前教えてよ」

「かのはだ」

「かのはちゃんねー。どんな子?」

「口を開けば毒しか出てこない」

「にゃるほど。それはね、照れ隠しなのだよ」

いかにもしてやったりな表情である。

「なのだよ、じゃない。笑わせるにはどうしたらいい」

「必死だねー弟よ。まぁ、私に言えるのはもっと頭を柔らかく、かのはちゃんを観察、考察することだねー。さすればおのずと答えは見えてくるものなのよ」

「そういうもんかなぁ……」

「そういうもんよー。じゃ、今日は終わりー。明日の朝までにゲーム終わらせてレポート書かなきゃだから。はいドーン」

「ちょっ、待っ……!」

背中を突き飛ばされ、そのまま顔面を壁で強打する。背後で扉が閉まる音がした。

痛む箇所を擦りながら、自室に戻った。さて、明日に向けて本格的に考えなくては。



息抜きここに極まる。

もしよろしければ都市伝説もどうぞ。

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