先輩のお願いが無理すぎる件
成績優秀眉目秀麗スポーツ万能な雲の上の存在である先輩様が、このなんの変哲もない一年生クラスに一体なんの用なのか、と俺は訝しんだが、さして興味はなかった。しょせんは他人事だ。
それより今気になってるのは、次のテストの内容だ。次は確か現国だったはず。
もともと文系な俺の唯一の得意分野だ。
ここは後藤と賭けでもしてやる気をさらに出すか、とヤツを見ようと前を向いた先にはなぜかクラスメイトが兵隊のように左右に分かれた花道が出来上がっていた。
「へ?」
クラスメイトたちは皆困惑した表情でこちらを見下ろしている。
いや、その顔すんのは俺の方でしょ。
呆気に取られて口をポカンと開ける俺の耳によく通る声で「ありがとう」とお礼が聞こえてきた。
その後、人ごみの中から花道へ入り、まっすぐ俺の前にやってきているのは件の先輩で。
近くで見るとモデルみたいだなぁなんてどうでもいいことを考えながら、俺はパニックに陥っていた。
先輩の後ろを珍しく困り顔の後藤がまるで従者のように付き添っている。
おい。なんだこれ。説明しろ。
視線で問いかけたが、答えたのは後藤ではなかった。
「山手和也君…」
穏やかだが、妙に威圧感を感じる声に俺は一瞬で気圧された。
「あら。違った?」
「え、あ…いえ!合ってます!」
慌てて答えると先輩はそう、良かった。と少しも笑わずに答えた。
「あなた、霊媒師なんですってね」
数秒の間に言われた言葉を頭に反芻して、ようやく理解してから後藤を睨みつけた。
おい後藤てめぇ。なに言ってくれちゃってんの。
ちなみに声を出さないのは先輩に遠慮してだ。決してビビって声が出ないからじゃない。断じてない。
後藤は先輩の後ろでエヘヘと照れ笑いを浮かべている。
いや、なんで照れてんだよ。エヘヘじゃねーよ。
「彼を責めないであげて」
俺の視線に気がついたのか先輩が後藤の方を振り返りながら言った。
「私が無理に聞き出したの。あなたのような人にどうしてもお願いしたいことがあってね」
「お、お願いって…」
先輩のような完璧人間が俺なんかになにを願うってんだ、と卑屈なことを考える。
俺が叶えられることなんてせいぜい掃除当番を変わるとか、ジュースを買ってくるとかそんくらいだぞ。
いや待て、と俺は汗を流す。
先輩はさっき霊媒師かどうかって聞いてきたよな(しつこいようだがもちろん俺にそんな力はない)。
それってつまり、そっち系のお願いなんじゃ…
おそるおそる後藤を見ると、眉を下げて困り顔だが口元は笑っている。
あぁ…これは確実に、
「あなたに私の霊能力を消して欲しいの」
災難の始まりだ。