episode 10 暖かい心
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私たちが目覚めると
すでに亘君の姿はなかった
ただあったのは血痕と死体だけであった
学園から救援が来て
私たちは保護された
亘君を狙ってきたクリエイトは腹が貫かれ
白目を向き絶命していた
おそらく亘君がやったのだと思う
しかしその亘君は姿を消した
学園の発表は行方不明、もしくは死亡と判断された
死体が見つかっていないからなんとも言えないが
あの血痕の量からして長く持たないと判断されたからである
この発表があってから1ヶ月
私たちのクラスに転校生がやってきた
転校生は男の子のようで
長い前髪のせいでよく顔が見えない
男の子がこっちを向いた瞬間、私は勝手に口を動かしていた
「亘…………君?」
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俺は新たな名前を告げ
指定された席へと向かった
7月に入り、外は暑いのだが
この教室はよく冷房が効いていたのでとても過ごしやすい
そんな他愛もないことを考えて
俺は席に座った
先生はそのままホームルームを続けていった
ホームルーム終了のチャイムが鳴ったので
席を立ち全員挨拶した
俺は挨拶が終わると席に座り空を眺めていた
「お前、本当は亘じゃないのか?」
そう話してきたのは大地だった
「誰だ亘とは?」
俺は冷たい視線で返した
「俺は昔から知ってるから間違えるはずがないんだよ」
大地は自信満々に答えた
「好きにしろ」
それだけ言い再び空を眺めた
大地も愛想がないのに苛立ったのかどこかへ行ってしまった
他のクラスメイトはというと
俺の無愛想な感じが怖いのか寄って来なかった
そう、これでいいんだ
関係は無いほうがいい
もう誰も巻き込みたくないんだ
そのまま授業が進んでいき昼休みとなった
クラスメイトは仲のよいものどうしでにぎやかに昼食をとっている
俺はその光景を気にせずに購買へと足を運んだ
購買で適当にパンや飲み物を買い
屋上へと向かった
屋上でも人がいるのだが
普段から人が立ち寄らない屋根の上へと移った
屋根の上に腰をおろして
パンを口に頬張った
普通のお惣菜のパンなので腹の足しにはなる
食事を終えて空を眺めていたら眠くなったので少し眠ることにした
俺が次目覚めたときは夕暮れだった
「転校初日に授業サボるなんてどこのヤンキーだよ」
ふと独り言をこぼした
その時に後ろから足音が聞こえたので
俺は立ち上がり警戒した
「そんなに驚かないでよ」
そこにいたのは渡来だった
「誰だお前は?」
俺はあえてそう聞いた
「私は渡来雪
知ってるでしょ亘君?」
俺はさっきと同じようなことを言った
「誰だ亘とは?
俺は大鳥結羽だ」
それだけ言い
俺は去った
「待って」
渡来も挫けず後を追った
俺は足早く屋根から屋上に出て
校舎の中へと続く扉に手をかけようとしたときに渡来の手が俺の肩に触れた
「俺に触れるな」
俺は睨みながら渡来の手を払らった
渡来は少し怯えたように体を奮わした
ゴメン
俺はそれを心で思い再び扉に手をかけようとした
「なら、何でそんなに悲しい目をしてるのよ」
俺は体を奮わした
「やっぱり亘君なんだよね
まだ否定するの?」
渡来は半泣きになりながら言った
俺は少し間をおいて
渡来の方を見ずに言った
「もう桐谷亘は死んだんだ
俺は大鳥結羽なんだ
だから別人なんだ!!」
「まだ私はお礼も何も出来てないのよ
せめて側に居させて…」
渡来は本格的に泣いてしまった
俺は渡来の方を見て
両手を渡来の肩におきながら話した
「俺はもう戻れないんだ
またやつらは俺を狙ってくる
君やみんなを巻き込みたくない
だから側に居させることは難しい」
渡来は声を必死に出した
「私が君を助けるから」
どうやら俺は粘り負けしたようだ
「なら側に居るだけな」
俺は渡来を抱きしめた
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