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第1話 運命の出会い(最悪の始まり)

 抜けない。


 指先に食い込む錆びた鉄の感触と、嫌な脂汗が手のひらで混ざる。アルトは息を吐き、柄から手を離した。


「……よし、帰ろう」


 岩に突き刺さったままの剣は、微動だにしない。村の寄り合いで決まった「伝統行事」はこれで終わりだ。明日からは役場の採用試験に向けて、算術の復習ができる。


「おい。待て。どこへ行くつもりだ」


 背後から声がした。硬く、それでいて妙に透き通った女の声だ。

 辺りを見渡すが、崩れかけの石柱と、膝まで伸びた雑草しかない。


「ここよ、ここ。足元を見なさい、この鈍感男」

 声は、岩に刺さった剣から出ていた。


「……剣が、喋ったのか」

(夢かと思ったが、掌に残る鉄の冷たさがやけに現実的だった)


「喋るわよ。聖剣エリスを捕まえて、何よその『ゴミ捨て場で生魚を見つけた』みたいな顔は。失礼しちゃうわね」


 アルトは二歩、後退りした。


「……人違いだと思います。僕はただ、触るだけでいいって言われて来ただけなので」

「人違いじゃないわよ! さっき思いっきり私の柄を握ったじゃない! しかも何よその手。マメだらけだし、少し汗ばんでて気持ち悪かったわ。もっとシルクの布越しに扱うとか、そういう気遣いはないわけ?……あと爪、短くしなさいよ。引っかかって不快なんだけど」

「抜こうとしてる時に、そんな余裕あるわけないだろ」


 つい口が滑った。アルトは口を噤んだが、脳内に響く声は止まらない。


「あーあ、最悪。500年ぶりに抜かれると思ったら、公務員志望のやる気なし男なんて。私のキャリアに泥を塗る気? せめてもっと、こう、腹筋が割れてて『俺が世界を救ってやるぜ!』みたいな爽やか系はいなかったの?」

「悪いな、腹筋は割れてない。じゃあ、僕はこれで。他の勇者を探してくれ」

「ちょっと待ちなさいって言ってるでしょ! 抜いてよ! さっさと抜いてここから出しなさいよ!」

 剣がガタガタと震え、岩の隙間から砂がこぼれる。

「無理だよ、さっき全力でやってダメだったんだ」

「あんた、さっき『抜けないなら帰ろう』って思ったでしょ。その中途半端な根性が私のプライドに障ったのよ。いいから、もう一回握りなさい。次は私がちょっとだけ手伝ってあげるから」


 アルトは溜め息をつき、戻った。

 冷たい金属を再び握る。


「ちょっと! 指の節が太いわね! もっと指先を揃えて、優しく、かつ力強く……そう、その角度よ」

「うるさいな……。ふんっ!」


 手応えはなかった。

 シュリン、と乾いた音がして、白銀の刀身が陽光を弾いた。


「……抜けたな」

「当然よ。私が『抜かせてあげた』んだから。感謝しなさいよね。あと、見て。この刀身の曲線。惚れ直してもいいわよ」


 アルトは手の中の剣を眺めた。

 

「(関わると面倒だ、という予感だけははっきりしていた)よし。じゃあ、村の宝物庫に納めてくるよ」

「はあ!? 何言ってるの!? 伝説の旅よ! 魔王討伐よ! 私を連れて世界中を回って、各地の聖剣マニアたちに私の姿を自慢しなさいよ!」

「嫌だよ。遠出は金がかかる」

「魔物ぐらい私が細切れにしてあげるわよ! それより、早く布を持ってきなさい! 500年分の埃がついてて、肌が荒れちゃうじゃない!」


 アルトは空を見上げた。神殿の出口はまだ先だ。

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