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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鉛雲の果てに、光の銃口

作者: Tom Eny

鉛雲の果てに、光の銃口


一. 恩寵の取引、沈黙の螺旋


東京の空は、数年間、**黒い油絵の具をぶちまけたような、分厚い「常雲じょううん」**に覆い尽くされていた。地上には陽の光が届かず、しんと静まり返った重い空気がのしかかっていた。この重さが、王の支配の心理的な圧力だった。


元SEのケンジにとって、王の支配は、この虚構のアーキテクチャを作り上げた王への、技術者としての真実への執着だった。


彼のスマホに届く王の公式SNS通知は、今日一日限りの**「恩寵の日」、晴天の開放を告げていた。王は、この「恩寵の虚偽」によって市民に依存**を植え付けていた。


夜明け前、レジスタンスのハルとの通信。「誰も動かない。王の核のブラフと報復を恐れて、世界は沈黙している。世界を動かすには正当な口実が必要だ。ケンジ、君が最後のトリガーだ。」


午前8時。雲が薄れ、抜けるようなターコイズブルーが広がり始めた。真夏の太陽が、数年ぶりに遮るもののない光の矢となって東京のビル群を貫く。市民のどよめきが、まるでダムが決壊したかのように街に満ちた。


ケンジの肌に、焼け付くような熱が降り注ぐ。彼は廃棄物シャフトへと向かう。「この晴天は、王の恩寵ではない。俺が奪い返す光だ。」


シャフトへ侵入した直後、端末に緊急警告が流れた。「エリア04:システム遮断トリガー作動。協力者信号途絶。」


ハルの通信が一瞬途切れた。


「ケンジ、進め。犠牲を無駄にするな。」王は強制ロックダウンのカウントダウンを開始したのだ。


二. 120秒の絶望と二重の裏切り


システム中枢へ到達したケンジの手のひらには、汗がじっとりとにじんでいた。メインモニターには、王の顔と地上の指導者の青ざめた顔が並んでいた。


システムログの深部から、王の正体が**「日本の核武装論を主張し政界を追われた元官僚」**である決定的な証拠を発見した。


王の支配は、歪んだ**「日本独自の秩序」**への執着だった。


怒りを力に変え、ケンジは二重の破壊を敢行した。王の情報の壁を崩壊させる。


まず、常雲制御システムの根幹データを抜き取り、外部のハルへ緊急送信。 次に、王のSNSアカウントに不正にログインし、プロフィールを書き換え**「解放宣言」**を世界中に発信した。


「恩寵の日は終わった。支配は虚偽の上にあった。核はブラフだ。お前たちの空は、お前たち自身のものだ。」


SNSの通知が世界中のスマホに届いた瞬間、ケンジはコアにEMP装置を接続し、破壊コードを入力した。


システムから冷徹な音声が響く。「認証完了。コア破壊シーケンス開始。完了まで120秒。」


武装警備ドローンの甲高い飛行音が急速に近づいてくる。


ドローンが廊下の角を曲がり、レーザーを構えた、その瞬間。


あと3秒。


耳を劈くような轟音が空間を引き裂き、続く爆風がケンジの身体を後ろへ吹き飛ばした。彼は崩壊するシャフトの底へと、重力に身を任せて堕ちていった。


三. 光の時代、沈黙の終焉、そして新たな闘争


地上。制御を失った常雲は急速に薄れ、青空が顔を出した。**「閉鎖された時代」**は、物理的にも、情報の上でも終焉を迎えた。


崩壊した路地で目覚めたケンジの目の前に広がるのは、崩れ落ちたビル群の骨格と、飢餓と破壊の爪痕が刻まれた街だった。荒廃した現実は遠慮なく白日の下に晒されていた。


米軍の特殊部隊が降下し、「影の王」は拘束された。将校がケンジに冷たい視線を送る。


「よくやった、イカロス。君たちの行動が、我々の**『公然たる介入』の決定的な口実を作った。世界の沈黙**は破られたのだ。」


勝利の味は、瓦礫の埃と、将校の冷たい声によってかき消された。


将校は続けた。「お前がハルに送信したという、常雲制御システムの根幹データの行方は?」


王の支配は虚偽によって終わったが、その崩壊は、今、冷徹な力の論理をむき出しにしたのだ。


市民は「#解放の日」を叫び、熱狂に包まれていた。ケンジは空を見上げた。クラウディアの残骸が、地平線の彼方へと落ちていく。


彼は悟った。青空の下で**「見えない支配」と対峙する、長く困難な「光の時代」**が、今、まさに始まった。


彼は、青空の下に、ただ立ち尽くしていた。

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