第五話:肉塊
「二人とも、貴方の子でしょう?」
苗の言葉は静かだった。
それなのに、イレーネの心臓を鋭く抉った。
「は、はは、片割れはそう言えるだろうが、もう片方は肉塊だぞ…それをアンタは、私の子だって言い切るのか…?根拠は__」
イレーネの声は震え、視線は泳いでいた。
だがその言葉が最後まで紡がれる前に、苗が淡々と遮る。
「私にはその肉塊が発している声が聞こえる。」
沈黙が落ちた。
イレーネの肩が小刻みに震え、やがて力なく壁にもたれかかる。
黒く染まった両手で顔を覆うと、押し殺していた声が漏れ出した。
「…そうだよ。私の子だ…レヴィという名もある…。」
声は掠れていた。
けれど、もう嘘を塗り重ねる余力は残っていなかった。
「双子だったんだ…でも、レヴィは…生まれる前に死んでた。毒を扱う私の体じゃ、二人も守れなかったんだよ…!」
嗚咽に途切れながら、イレーネは吐き出すように語る。
「…その肉塊…レヴィは、初め小さな肉片だったんだ。人の形を作る前に死んでたんだろう…それでも…それでも私にとっては、大事な子だったんだ…!」
黒く染まった手が、ぎゅっと胸を掴む。
「私は狂ったさ…命を持たない肉片を“生かそう”としたんだ。毒を与えれば、動くようになるんじゃないかって…その結果がこれだ。化け物でしかない、肉塊だ。」
苗は黙ってイレーネの話を聞いていた。視界の端で蠢く肉塊が、その付近に転がっているナイフを恐れているように見えた。部屋の奥には、見たことのない器具と薬。
苗は察してしまった。錬金術師がしたこと、街の住民を魔人にさせた薬の原料を。気づいた時には、喉から込み上げる物を抑え、荒くなった呼吸を整えるのに必死になっていた。
「…アンタは鋭いね。そうさ、薬の原料はレヴィの血だ…。」
イレーネは壁を強く叩き、苗の目を見て言い放つ。
「笑えばいい!私は母親失格…狂った錬金術師だ。双子だって、望んで生まれた子じゃない!強姦されて生まれた子だ。その上、自分の子供を材料にした毒物を、街の住民に投与してるんだぞ…!」
声は悲鳴に近くなり、イレーネの体は小刻みに震えていた。
「結局、私がしてきたことは…人を魔人に変えただけだ…。」
「……。」
苗はイレーネにかける言葉を選べなかった。
やがてイレーネは、泣き腫らした目で赤子と肉塊を交互に見た。
「望んで生まれた子じゃなくても…私にとっては二人とも、大事な我が子なんだ…でも、毒の霧がある限り、二人同時に救うことなんてできない…できないんだよ、苗…。」
崩れ落ちるように膝をついたイレーネの声は、すすり泣きと混じり合っていた。
苗は、そんな彼女の姿をただ黙って見つめていた。
胸の奥でざわつく、この先の不安を感じながら。




