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眠れる塔の魔法使い  作者: いろは
おまけ 第七師団裏業務日誌
66/66

7ページ目、の行方

「オルランド、いるか?」


 扉をたたく音とほぼ同時に、アイーダが顔をのぞかせた。夕暮れどきの執務室で机に向かっていたオルランドは、机上に広げていた帳面をさっと閉じた。


「なんだ? それは」

「なんでもありませんよ。何かご用ですか、団長」


 オルランドはさりげない手つきで帳面を引き出しにしまい、立ち上がって上官を迎えた。


「ごまかすな。いま何を隠した?」

「団長はお知りにならないほうがよろしいものです」


 あっさり開き直った副官に渋い顔をしたアイーダだったが、すぐにはっと表情をあらためた。


「まあ……おまえも男だし……」

「何を考えていらっしゃるのか大体想像はつきますが、違います」


 上官の生温かい笑みを、オルランドは某国第二王子もかくやという氷の微笑で粉砕した。


「とにかく、団長にはお見せできません。関わると不幸になります」

「おまえが不幸にするの間違いじゃないのか? なんだか知らんが、ほどほどにな。あんまり他人ひとの恨みを買うんじゃないぞ」

「ご心配なく。加減は心得ておりますので」


 上官の懸念をさらりと受け流し、「それで」とオルランドはつづけた。


「ご用件は。ちなみにわたしの勤務時間はまもなく終了しますが」

「わかっている。だから来たんじゃないか」


 楽しい秘密を打ち明けるように、アイーダはオルランドに顔を寄せた。


「これからアレンの歓迎会をやるんだそうだ。アレンを驚かせようと皆でこっそり準備していたらしい。わたしたちも早く行こう」


 ああ、とオルランドはうなずいた。


「アングレーシアの蜂蜜酒があるそうですね。アレンも喜ぶでしょう」

「よく知ってるな。もしかしておまえが幹事なのか?」

「いいえ。前に声はかけられておりましたが……まあ、今夜は団長おひとりでどうぞ。わたしが行くと皆も気まずいでしょうから」

「何を言ってるんだ」


 オルランドの遠慮を、アイーダは豪快に笑いとばした。


「そんなわけないだろう。だいたい歓迎会なんだから数は多いほうがいい。おまえがいればアレンも喜ぶし」


 いったん言葉を切り、アイーダは悪戯っぽい目で副官を見上げた。


「わたしも嬉しい」


 オルランドは目を見開き、それからかるく天を仰いだ。遠くで夕刻を知らせる鐘が鳴る。その残響が消え去らぬうちに、オルランドはアイーダの肩に手をそえて身をかがめた。


「……おまえ」


 アイーダは口を押さえてオルランドをにらみつけた。つり上がったまなじりの、ふちをほんのり赤く染めて。


「勤務中だぞ」

「わたしの勤務はたったいま終了しました」


 すずしい顔で応じるオルランドの胸を、アイーダは拳でかるくたたいた。


「おまえ、つくづく変わったな。まったく、最初のあれがどうしてこうなったのか……」

「あなたがそれを言いますか。まあ、わたしにも多少の甲斐性はあるということで。それから、いまの髪型もお似合いですが、髪の長いアイーダ様もぜひ見てみたいですね」

「なんだそれは」


 意味がわからん、とアイーダは黒い巻き毛をかきまわした。


「とにかく早く行こう。皆が待ってる」

「魔術師どのも?」

「いや、シグルトは姿が見えないんだ。たぶん“金の雌鶏めんどり”亭に行ったんだろう。最近ずいぶん通いつめているらしいからな」

「なるほど、給仕のロッタ嬢ですか」

「だからなんで知ってるんだ? ときどき怖いぞ、おまえ」


 それから二人は肩を並べ、夕陽に染まる執務室を後にした。引き出しの中で静かに眠る帳面のその後は、誰も知らない……


 



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