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眠れる塔の魔法使い  作者: いろは
第六章
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第57話 春を待つ人

「あの子はどうしてる」


 ああまた夢か、と思った。己の意思によらず、口がゆったりと言葉をつむぐ。


「どこかに隠れています。泣き顔を見られたくないのでしょう」


 横に立つ青年が答えた。痩せた手足と砂色の頭髪の持ち主で、笑んでいるような細い瞳は冬の湖のような薄い青をたたえている。


「大人びているようで、あれもまだ子どもですから」

「大人だって泣いてもいいさ」


 吐く息が白い。鉛色の空のもと、小高い丘は深い雪に覆われている。


「おれはきみも心配だな。きみだって辛いだろう」

「……いえ」


 短く青年は応じ、いささか性急に話題を変えた。


「大公はこれからどうなさいます」

「とりあえずトラヴィスにもどる。いろいろ後始末もあるからな。それが片付いたら、故郷に帰るさ」

「失礼ながら、あなたも変わったお方ですね。そのまま帝都にとどまればよろしいのに。あなたは今や救国の英雄でいらっしゃる。富も名誉も権勢も、それこそあなたのほしいまま。もちろん、次期皇帝の座も……」

「よしてくれ」


 けしかけるようにささやく青年に、笑って肩をすくめてみせた。


「おれのがらじゃない」

「……そう」


 青年の水色の瞳に辛辣な光がよぎる。


「たしかに、あなたは皇帝のうつわではないのでしょう。大勢のために、たった一人も犠牲にできないあなたは」

「そのとおり。きみはじつによく物事が見えている。さすがあいつの弟子」


 ほんのわずか、青年の笑みにほころびが生じたようだった。何か言いたげに口を開きかけた青年だったが、結局無言で頭をふった。


「きみこそどうする」

「とりあえず、ここで皆を待ちます。全員そろったところで、これからの方針を相談しようかと」

「そうか」


 ひとつうなずき、青年に深々と頭を下げる。


「どうかよろしく頼む。きみたちばかりに任せてしまって心苦しいが」

「いえ、これはわたしたちの領分ですから。言いたいことを言わせていただいたお礼に、お約束しますよ。あののろいは、われらが必ず解いてみせると」

「あれなあ……」


 口からげんなりした声がもれる。


「なんなんだろうな、あの急展開にもほどがある愛憎劇は。筋書きに無理がありすぎるだろう」

「どんな無理でも、あの術ならねじふせてしまいましょう。なにしろ、いままで見たことも聞いたこともないほど強力な術ですから」

「専門外のおれが言うのもなんだが、魔術の無駄遣いじゃないのか? それ」

「まったく」


 同感だと青年はうなずいた。


「まあ、そうそうあいつの思いどおりにはならんよ。百年後、あいつのもとへ誰があらわれるにせよ、それはあいつを殺すためじゃない。救うためだ」


 さりげなく、それでいて断固とした宣言に、青年は微笑と揶揄がないまぜになった視線をよこす。


「あなたも予言をなさいますか」

「予言じゃない」


 かたわらの塔をふり仰ぐと、尖塔で翼をたたむ灰色ドラゴンと目が合った。


「──祈りだ」




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