第10話 帝国の使者
空を切り裂いて飛来したドラゴンは、館の上をゆるやかに旋回したのち地上に降りたった。
全部で三頭。いずれもデイジーよりやや小柄なドラゴンの背から、深緑の外套をまとった男たちがすべり降りる。
「アルスダイン王国のアレン王子殿下でいらっしゃいますか」
三名の中から進みでたひとりが、丁寧な口調で訊ねた。
年は三十前後か、すらりとした長身と知的に整った容貌の持ち主で、ゆるやかに波うつ鳶色の髪を背中でひとつに束ねている。
その後ろに控えるふたりも、だいたい同じ年頃の若者だった。全員が腰に剣を下げ、そろいの外套をまとっていることから、いずこかの騎士団の一員かとアレンは当たりをつけた。
「そうだけど、あんたたちは?」
警戒もあらわにアレンが応じると、鳶色の髪の若者は優雅に一礼した。
「これは失礼を。わたしはトラヴェニア帝国第七師団の副師団長、オルランドと申します。どうぞお見知りおきを」
トラヴェニア帝国といえば、大陸で一、二を争う東方の大国だ。その第七師団という名にも、アレンは聞きおぼえがあった。たしか全部で十三ある皇帝直属軍のひとつで、騎乗用に飼いならしたドラゴンをあやつる空中師団として勇名をはせている。
「突然の訪問をお許しください。殿下にぜひともお願いしたき儀があり、参上いたしました。ご無礼は重々承知なれど、どうかわれらの願いをお聞きとどけくださいませ」
地にひざをついたオルランドに、他の二名もならう。さらにその後ろで三頭のドラゴンまでお行儀よく首を垂れ、さらにさらにその後ろでデイジーが「え、いまそういう場面?」と、うろたえたように頭を下げる仕草、たまらなく可愛い。
「いや、聞くも何も、まずそのお願いって?」
とまどうアレンの横で、シグルトがくるりと向きを変えた。
「おい、おっさん……」
「勝手にやってろ。おれには関係ねえ」
そのまま館へ向かいかけたシグルトだったが、つづくオルランドの言葉でぴたりと足をとめた。
「眠りの呪いをかけられた、わが帝国の姫君のことでございます」
ふりむいたシグルトに、帝国師団の若き副師団長はにこやかに、そして静かな圧をこめて申し入れた。
「お話だけでも、お聞きくださいますか。そちらの魔術師どのも」