十二月の右隣
寒さで指先が凍る教室。
暖房を付けて欲しいと思うが、皆あんまり寒そうでは無い。私だけが凍えている。まぁ、まだ冬に入ったばっかりだからな……。
それにしても、隣の席で窓の外を見ている貴方は何を思っているのでしょうか。
多分、眠いとかそんなとこかな。何時も居眠りばっかしてるし。寝ている顔が可愛いから、成績を下げられない範囲で沢山眠って欲しい。
左に居るせいで黒板の方向を見ると、視界に入らないからそれが非常に残念。
後ろの席が一番理想的。
とはいえ、隣に居るだけでも十分幸せな事である。去年はクラスすら違ったから、なかなか会う事が出来なかった。
もう一度見てみると、視線をノートに落としシャーペンで何かを書いている。
ようやく授業に戻ってきたのかな。いや、違う。絵を描いているんだ。全然、授業を受けてない。E判定だっただろ、第一志望。私もだけど。
私もやらなきゃいけないなとは常々思うけど、でも、実際に行動するのは労力がいるし、努力が実った先には何があるの?とも思ってしまう。第一志望合格したら幸せになれるの?
多分、なれない。少なくとも今、そしてこれからしばらくの私にとっての幸せは貴方と居る事だろう。
どんなに勉強したって、その夢は叶わない。
そもそも、その夢自体が叶う事のない絵空事。
そろそろ、この好きから逃げたいな。
本当は面と向かって「好き」って言いたい。けど、この思いを伝えたらもう今のように過ごす事は出来ないんでしょう?
明日も貴方と笑えるように、恋心を直隠しにする。
けど、この恋心はどこかおかしい気がする。心にぽっかりと空いた穴というか……。
最初に恋に囚われた瞬間、私はもう二度とあの頃には戻れなくなった。そして、この心の穴を埋める為、誰かを愛し続けなければならない。
とにかく今は貴方を好きで居なくてはならない。
それが罪だと知っていてもだ。
そして、貴方に囚われた以上、私は並みの事では幸せにはなれない。どんだけ楽しい日々であっても、貴方が居なきゃ幸せにはなれないのだ。
そんな事をぼんやりと考えていると、隣の貴方が大きな音を立てて筆箱を落とした。蓋のチャックがどうやら開いていたらしく、中身のペンなどが辺りに散乱した。
私は当然、屈んでそれらを拾った。
「ありがと」
そう言われただけではあるが、嬉しいと感じてしまう。
その声が私の脳裏で何度も残響し、ゆっくりと記憶に浸潤する。
「どうもー……」
ちょっとキモイかもしれない。だけど、やっぱり私にとってこれは重要な愉悦であり、絶対に誰にも否定されたくない。
少し気持ちが浮ついたせいか授業の内容があまり入ってこない。さっきと同じではあるか……。
心の穴が若干埋まったのを感じた。
木枯らしが窓の間を抜けて、私に届く。
やっぱ寒い。冷たい私だけど、日常の温かさで何とか温度を保つ。貴方の行動一つを拾って、貴方を助けて、貴方と笑って温度を保つ。
いつか、心の穴が埋まると良いな。