7話 久しぶり
門を入ると、まずはオーシンが結界を張った。
外から侵入者が入らない様にと、音が漏れない様に。
するとリューギ、ジーナ、レイカ3人が
「ああ、疲れた!」
そう言って笑い出した。オーシンも笑っていた。
リューギ「どう見たってアヤが悪いぞ!」
レイカ「どうしてよ?」
リューギ「朝からあんな顔で急に行き出すから。」
レイカ「だってまさかあのタイミングで『ナガノ』だなんて聞いちゃったら、もういてもたっても居られなくなっちゃって。」
ジーナ「だよね?カイ君偽名使うって、まさか苗字とかウケない?可愛過ぎちゃう。」
オーシン「それにあのパーティ名聞いた?『ゲコクジョウ』ってどんだけ笑わせるんだよって。」
リューギ「いや、あれは俺も限界だったよ。誰もわかる訳ねぇじゃんって。」
あいつ、なんであんな名前つけたんだろうな。」
カイト「いや、あれはね、ウルムの酒場で彼らが飲んだくれてて『ぜってぇ天下取ってやるーって言っててさ、他の奴が自分弱いくせにって揶揄ってて、それ見てたら声かけて思わず、ね。」
ジーナ「それでなんでゲコクジョウ?」
カイト「成り上がらせちゃうって、なんか面白くない?」
オーシン「カイトは昔から歴史好きだったよね。」
カイト「わかってるねぇ、まさやんは。」
レイカ「それで名前つけちゃうっていうのもカイ君らしいわ。」
カイト「ありがとう、アヤ。」
4人が全員後ろを振り向いた。
そこにカイトは満面の笑みで立っていた。
カイト「おかえり。みんな。久しぶり。」
あまりに急で動けない4人。
リューギ「ばかやろう。」そういって泣きだし
オーシン「冗談きついよ、カイト」やはり泣いた。
ジーナ「言葉にならないって、あるんだね。」既に泣いている。
レイカ「ああ、ああ、えーん。」言葉になっていない。
全員「ただいま!カイト!」
そう言ってみんながカイトに抱きついた。
カイトとリューギがお互い両肩を掴み
リューギ「お前、どんだけ強くなったんだ?」
そう言うと
「たかちゃんだって強くなったの知ってるよ。見た目怖いもん。」
そう言って笑った。
オーシンはカイトに握手を求めた。
オーシン「カイト~。ひょろガリのっぽはひどいよ~。」
カイト「通じてくれた?あの子に教えるの大変だったんだよ。」
リューギ「全員ツボッたぞ、あれ。」
カイト「作戦成功だね。ちゃんと金貨は…」
オーシン「2枚ね。」
カイト「まさやんならそうしてくれると思ったよ。」
カイトに思い切りジャンプして抱きついたジーナ。
ジーナ「ああ、ああ。カイ君だ、カイ君だ。もう絶対離さない。もう嫌だ、カイ君と離れたくないよ。大好き大好き大好き!」
カイト「トモ?相変わらずだね。そうだね。俺だってトモとは離れたくないよ?」
ジーナ「もうずっとカイ君と一緒に居る。たかちゃんとまさやんに稼いできてもらって、トモはカイ君とアヤとずっといっしょにいるんだもん。」
リューギ「子供かよ」
ジーナ「うっさい、ゴリラ。」
リューギ「何だと?」
オーシン「たかちゃんもトモも、ほら…」
オーシンがそう言うと、ずっと黙って立っているレイカがいた。
カイトはジーナと目を合わせて、そっと優しくジーナを降ろすと、ゆっくりカイトはレイカに近づいて行った。
カイト「アヤ?」
レイカ「私ね、ずっとずっと頑張ったんだよ。」
カイト「うん。」
レイカ「私ね、何を言われてもずっと我慢したんだよ。」
カイト「うん。」
レイカ「私ね、カイ君の隣にいれる様に強くなりたかったから。」
カイト「うん。アヤ、ありがとう。俺もずっとアヤの隣にいたいよ?」
レイカ「本当?」
カイト「うん。」
そう言って、カイトはレイカの頭を優しく撫でた。
レイカ「…、足りない。」
カイト「え?」
レイカ「カイ君。ぎゅっとして。」
カイト「ここで?」
レイカ「ぎゅっとして!」
やれやれという感じで、カイトはレイカを抱きしめた。
レイカ「カイ君。大好き。ずっと会いたかった。大好き。」
カイト「俺もだよ、アヤ。」
リューギとオーシンはそれを見て
リューギ「始まったよ、アヤのツンからのデレタイム。」
オーシン「でもあれも久しぶりだよね。俺は嬉しいよ、なんだか。」
そう言うとリューギも
「まぁ、確かにな。」
オーシン「いつも思うんだけど、このデレタイムの時、トモは何とも思わないの?」
そうオーシンは聞くとジーナは
「全然。トモはアヤには嫉妬しない。トモ達は二人でカイ君大好きなの。不思議だよね。勿論アヤにしてもらってる事はトモにもして欲しい。でも、カイ君はいつもちゃんと見てくれるから。昔から。ずっと。」
リューギ「そうだな。カイトは昔から俺達をちゃんと見てくれる。」
オーシン「本当。昔からね。」
カイトとレイカが抱きしめ合ってるのを温かく見ている3人。
アルダ砦内を歩く5人。
まだ残ってる建物を見ながら、みんなで指を差したりしながら、思い出話を話しながら歩いていた。
まるで街ブラをしている様に…。
リューギ「え、まじか?」
カイト「うん。本当。」
オーシン「言ってみるもんだな。」
カイト「何を?」
レイカ「だって、爆発魔法陣も拘束魔法陣も」
ジーナ「重力魔法陣だって!?」
カイト「それでさ」
そう言った頃に砦内中央の教会跡に辿り着いた。
ジーナ「うわぁ、これはこれは。」
教会跡も全く残っていない砦内中央。
カイト「教会の天井に二重で魔法陣張られてて大変だったんだ。」
ジーナ「で、どうしたの?」
カイト「ギリギリ解除した。」
ジーナ「解除?」
カイト「そう。で、爆発魔法陣の方が共鳴しちゃって」
ジーナ「で?」
カイト「上から空気圧みたいなイメージで蓋をするイメージで…。」
ジーナ「それでそれで?」
カイト「魔法を作った。」
オーシン「は?」
カイト「いや、その場で魔法を作って試した。」
リューギ「おいおい。魔法ってそんな簡単に作れるのか?」
オーシン「出来る訳ないっしょ。」
リューギ「解除は?」
ジーナ「めっちゃ時間かかるよ、普通はね。」
リューギ「マジか。」
レイカ「カイ君。なんて魔法?」
カイト「名付けて『プレス』!」
そう言って片手を上にあげるカイト。
全員が笑う。
リューギ「出たぁ。ネーミングセンスゼロのカイト!」
カイト「ええ、またぁ。今回は格好良くイケると思ったんだけどなぁ。」
レイカ「私は…、良いと思うよ。」
そう言って腹を抑えて笑っている。
カイト「アヤまで。」
オーシン「それで?」
カイト「イメージはうまくいったんだけど、爆発が横に漏れちゃって結局半分くらいは吹き飛んじゃって。」
リューギ「でも、結構デカかったんじゃねぇか、それ。」
カイト「多分砦は全部吹き飛ぶくらいには。」
ジーナ「それで結局は?」
カイト「うん。爆発は抑えられたんだけど…、」
ジーナ「だけど?」
カイト「俺が真上に吹っ飛んだ。」
また全員が笑った。笑いながらオーシンは
「カイトって物理とか勉強してたっけ?」
カイト「いや、俺は文系志望だったしっていうか理系無理で。」
リューギ「だろうな、だろうな。」
カイト「なんだよぉ。文系バカにすんなよなぁ、ねぇ、アヤ?」
と言ってレイカも笑っている。
カイト「ああ、そう言えば…。」
みんながシーンとする。
カイト「まさやんのそれ…、コスプレ?」
そう言って、修行僧の格好をしているオーシンをいじった。
また笑いが起こる。
オーシン「カイトまで。結構様になってると思ったんだけどなぁ。」
カイト「…、うん。…、そうだね。まさやんの優しいお父さん思い出しちゃった。」
想い想いに耽るみんな。
オーシン「うん。見せてあげたいな。親父に。」
カイト「きっと喜ぶよ。」
リューギ「じゃあまさやんも観念して継ぐのか?」
ジーナ「あんなに嫌だ嫌だ言ってたのにね?」
オーシン「成長していくもんだ。色々経験して。」
レイカ「シアに振られて失恋もしたしね。」
オーシン「いやいや、あれは振られたんじゃなくて…」
ジーナ「じゃなくて?」
オーシン「…、身を、引いた?」
レイカ「意気地なし。」
リューギ「言っちまった。」
また笑い出した。
オーシン「カイト。シアの事…。」
カイト「うん。大丈夫。知ってるから。」
リューギ「知ってるって?」
カイト「うん。まぁそれはまた後で。」
レイカ「ねぇカイ君。森からの魔獣って全部カイ君?」
カイト「ああ。いや、流石に全部って訳にはいかないからね。手伝ってもらったよ。」
レイカ「誰に?」
カイト「ああ、そうだね。良いよ、出てきて。」
カイトがそう言うと、5人の前に5人のミーユ衆が出てきた。
ノア「お久しぶりでございます。皆さま。」
リューギ「ノアさん。ハムさん、セムさん。」
ジーナ「ああ!ゼレさん。ジュノちゃんだ!」
オーシン「生きておられたんですね?」
レイカ「良かった。」
4人はミーユ衆にそれぞれ挨拶をした。
リューギ「でも、どうやって?」
ノア「いやあ、まぁ何とか。話は後で追々と。で、どうされますじゃ、オヤカタ様?」
オーシン「オヤカタ様?」
カイト「ああ、うん、そうだね。今から説明しないと、ね。」
急に照れだすカイト。
ノア「オヤカタ様?」
カイト「ああ、うん。ちょっとみんなで内緒話あるから、ごめん、ちょっとあっちに行っててもらえるかなぁ?」
ノア「御意。」
そう言ってミーユ衆は散った。
もう笑っているリューギとジーナ。
オーシン「オヤカタ様、っていう日本語をどうやって教えたの?」
カイト「ああ、いや、まぁね。」
ジーナ「御意って。」
リューギ「もうお前は面白すぎるだろう。ああ、腹痛いぇ。」
カイト「いやあ、みんながさ、最初はご主人様とか言うからちょっとこそばゆくて、なんかないかなぁって思ってたら、昔忍者のドラマみたいなので言ってた気がしたから。」
ジーナ「じゃあ、御意は?」
カイト「それもなんかドラマで言ってた気がしたから。」
リューギ「ノアさん達わかってるの?」
カイト「流石にドラマって言ったってわからないよ。でもこっちの世界でわからない暗号みたいだからちょうど良いやって。」
オーシン「まぁ、確かに。」
カイト「でしょ?」
ジーナ「でも御意って。」
カイト「はい、だと会話聞かれたときにバレちゃうから。」
レイカ「カイ君ちゃんと考えてるんだね。」
カイト「そうだよ。すっげぇ考えてるよ。」
レイカ「可愛い、カイ君。」
カイト「なんか褒められてない。ほら、ちょっと真面目に説明するから。」
そう言ってまた5人とミーユ衆が集まってる。
リューギ「確かにこのままじゃあ、アルダを修復するよりその方が良いかもな。」
オーシン「外の連中にも良いカモフラージュになるしね。」
カイト「そう。でもさ、アルダには俺達思い出あるからさ。するにしてもみんなにちゃんと見ておいて欲しくてさ。」
レイカ「そうね。私達が生きていられるのも、ここのおかげだしね。」
ジーナ「ちょっと寂しいけどね。でも、ここの、最後を知ってるのはもう私達だけ。」
そうジーナが言うと、全員が黙った。
カイト「どうせ軍が来ていじられるなら、俺達の思い出は俺達だけにしておきたい。どうせだったら派手にさ。」
ジーナ「そうだね。ノアさん達も納得してくれるなら、トモは良いよ。」
レイカ「あの時フルツに逃げられたのは、あの2人だけだし。」
オーシン「逃げられたんじゃない。置いて逃げたんだよ。」
リューギ「バロさんもライラックさんもレキアさんもエマさんも、ミーユさんも。…。」
カイト「うん。そうだね。」
リューギ「俺は許せねぇよ。その為に強くなったんだ。」
皆頷く。
カイトはそっとハチマキの様な赤い布を取り出した。
カイト「これ…、どうかな?」
そう言うと、リューギが
「グッと来たよ。」
そう言ってリューギも取り出し
「これ、ハチマキ?わからないから腕に…。」
そう言って、捲った腕に付けているオーシン。
ジーナも
「えへへ。私も。」
そう言って腕に巻いているジーナ。
「ああ、そこなんだ。」
レイカはそう言って胸から出した。
カイト「アヤ。ちょっとみんな見てるよ?」
そう言ったが、別に気にしてないでしょう?という表情で
レイカ「だってとっても綺麗な赤。カイ君。大事にするね。」
そう言って腕に付けた。
リューギは
「相談しようとしてたのに。お前ら早いな。」
ジーナ「愛が足りないんだよ、愛が。」
リューギ「そんなんじゃねぇよ。俺、拳闘士だからよ。でもこれって、なんかバレちゃいけねぇ気がしてよ。」
カイト「あ、そっか。じゃあたかちゃん専用で腰巻作ろうか。」
ジーナ「ええ、良いな良いな。トモも特別に作って欲しい。」
カイト「良いよ。何が良いの?」
ジーナ「えっとぉ。パンティ。」
カイト「トモぉ」
ジーナ「だって、だって、ねぇ。ねぇアヤ、アヤだってそっちが良いよね。」
レイカ「え、カイ君が…、私の…、あそ」
リューギ「はい!ストーップ!」
オーシン「俺も、バンダナみたいなのが良いな。」
カイト「ああ、まさやん似合いそうだね。」
オーシン「絶対俺似合う。」
カイト「ハハハ。」
リューギ「トモ。ちゃんと考えろ。お前が名付け親なんだぞ!」
そう言って、みんな「あの時」を思い出す。
ジーナ「うん。そうだね。カイ君。ありがとうね。トモはあの日も一生忘れないよ。」
カイト「うん。」
リューギ「忘れねぇ。」
オーシン「忘れられないよね。」
レイカは頷いた。
カイト「俺達【コンフィダント】は絶対これからも一緒。」
カイト「そろそろ。じゃないと、外もだいぶ込んできたんじゃないかな。」
後ろからハムが
「みなさん。連合軍も到着されております。」
リューギ「本隊もご到着か。ああ、もっと話してぇけど。」
カイト「大丈夫。ハムやセムがタイミングある時に皆を呼ぶから。」
レイカ「どこで?」
カイト「アジト。」
オーシン「まだあそこは?」
カイト「うん。昨日言って無事だった。」
リューギ「うおぉ、懐かしいなぁ。」
カイト「じゃあ早速行くよ。後の事は皆に任せたよ。」
リューギ「任せとけ!」
「翼の丘」上で、S級パーティ達、そしてセルジオ率いる連合軍先発本隊が待機していた。
セルジオ「少し遅すぎないか?」
ジール「そうだな。何かあったのかもしれん。」
バイロン「だから言っただろうが。俺が言ってれば…。」
ジール「うるさいのぉ。」
ミリア「リューギ様。」
すると、南門からレイカが飛び出してきて、その後リューギも飛び出してきた。
リューギは
「爆発するぞ!」
と叫んでいる。
遅れて出てきたオーシンとジーナ。
オーシン「念のため、城壁には強い防御魔法を。トモは?」
ジーナ「トモも手伝う。二重にしてれば城壁は守れるっしょ。」
オーシン「あとはカイトの魔法陣だけど、トモ、あの魔法陣見た?」
ジーナ「やばい、あれ。カイ君の想像力半端ないし、ああいう魔法陣の作り方なんて想像できなかったよ。」
オーシン「俺達はこの世界からの知識から魔法を知ったからね。」
ジーナ「カイ君はあっちの常識から入ってるから?」
オーシン「目から鱗だったね。カイトに学ばなきゃ。」
ジーナ「トモはこれからずっとカイ君と学べるもんねぇ。」
オーシン「ずるい。」
ジーナ「来るよ、まさやん。」
オーシン「OK!」
大きな爆発音と共に、上空に吹き飛んだ爆風とその爆発音は、冒険者パーティや軍隊をどれだけビビらせるのには十二分だった。
そして、城壁以外のアルダ砦内の建物全ては、綺麗さっぱり消えてなくなった。