6話 丘の上の
「翼の丘」にいる【ス・イジェネリス】のメンバー。
そこにも既に魔獣の死体だらけになっていて散乱していた。
【ス・イジェネリス】のメンバーのペンス
「一体どうなってんだ?こりゃあ。本当にアルダまで魔獣が全滅してるぜ。」
そう言って、辺りを見回しながら言った。
同メンバーのガイル
「結局一戦も交えずここまできたな。あの丘超えたらもうアルダだろ。あれ?レイカは?」
同メンバージール
「もう登っている。」
そう言って、3人は丘を越えた。
そこにバイロンとレイカはいて、その先に大きな十字架が立っていたのをみた。
バイロンとレイカはその十字架にいたであろう、ほぼ形を失っているオークの焼死体を見ていた。
バイロン「オークか。」
3人が近寄る。
ペンス「おいおい、何だこの不気味なもんはよぉ。」
ガイル「手が千切れてるぜ。ほら見ろよ、あれ。なんかで手を刺されて吊られてたって感じか?」
ペンス「足もだぜ。それで火あぶりか。魔族もえげつねぇな。」
レイカはじっとアルダ砦を見ていた。
ジールがレイカに話しかけた。
「どうかしたか?」
レイカ「ジール殿。いや、砦が綺麗だ。」
ジールも砦を見た。
「2年前とも2月前とも変わらんようにみえるが?前も一度ここで見た事あっただろう。」
レイカ「そうじゃない。綺麗なんだ。城壁が。」
城壁はまるで出来たての様に綺麗に整備されていて、2月前とは比べられないほどに強固な城壁の様に見えていた。
ジール「確かに。魔族が直したというのか?」
レイカ「いえ。余程の魔人でもいない限り、魔族に城壁技術はないはず。」
そこへバイロンもやってきた。
「まぁ良いじゃねぇか。行きゃあわかる。」
ジール「バイロン、何を言っとる。ここで待機じゃ。軍からもそう言われておるだろう。」
バイロン「俺は別に魔石取りに来たんじゃねぇよ。ここら辺の魔獣の、誰がやったか知らねぇ死体から盗人みてぇに魔石取って喜ぶバカじゃねぇ。」
ジール「わかっとるわい。もうすぐ後方も追いついてくるだろう。俺達は今回単騎パーティじゃない。我達S級が勝手な事をしたら、他に示しがつかん。」
ペンスとガイルもやってきた。
ペンス「なぁバイロン、俺もここで待機に1票だ。見ろこの訳の分からないもんをよ。きっとなんかあるぜ。」
ガイル「ああ。城壁が直ってるって事はよぉ、中にいるって事だろう。待ってみても良いんじゃないか?」
そう二人が言うと
バイロン「ちっ。臆病もんが。」
そう言って地面の小石を蹴った。
ジール「それにしても、これは…、なんだろうか。宗教的なものの様に見えるがな。ガイルはエルフだろう。知らんのか?」
そういって十字架を見上げた。
ガイル「ああ。見た事は無い。確かに宗教チックだけどな。エルフにはこういうものはなかった。」
そう言うと、レイカはポツリ、と
「十字架(日本語)だ。」
ジール「なんと?」
レイカ「いや、なんでも。なんでしょうね。」
そう言って誤魔化した。
ペンス「これで何してたんだろうか?」
ジール「さてな。流石にわからん。」
レイカ「たぶん、オークが焼かれているのを砦に見せていたんだと思う。オークは砦側で焼かれている。もしもこれを人間に見せたいなら、逆の方に張り付けるでしょう?」
ジール「確かに。言われてみればそうだな。だがどうして?」
バイロン「だから行きゃあわかるだろう。」
そう言ってバイロンが丘を下ろうとした。
レイカは一瞬のうちに剣を抜き、バイロンの首筋にその剣先を向け
「行くな、とジール殿が仰ってるのがわからないのか。」
バイロン「レイカ。てめぇ。今日はずっと先を急いでると思ってたのによぉ。なんだ?ここまで来たら急に臆病風に吹かれたか?」
レイカはまたポツリと
「わかったのよ。」
バイロン「な、何がだよ。」
そのやり取りの最中
【ルクス・テネ】と、【ピエタス・ディクシタス】のメンバー達が【ス・イジェネリス】の元へ寄ってきた。
モロ「まだいて良かった。ってかどうなってんの?」
レイカの剣先は未だにバイロンの首の袂にある。
ジール「おお、モロ殿。良かった。バイロンが首取れてしまうところじゃった。」
そう言って笑った。
モロ「まぁ、とれても良かったんだけど?」
そう言うと、バイロンはモロを睨んだ。
モロ「怖い怖い。」
ジール「レイカ嬢。もう収めても良かろうて。これ以上はバイロンも恥になってしまうしの。」
レイカはフッとため息をついて剣を収めた。
そこにオーシンがヌッと前へ出て、
「レイカ殿とやら。大丈夫でございます。」
と言うと、レイカも
「そうですか。」と言ってバイロンから離れた。
ジール「して、どうするんだ?」
モロ「もうすぐここに【ノウスオルド】も来るから、それまでは待機で。」
30時くらいすると、【ノウスオルド】が丘の上にやってきた。
まずは他同様、十字架を見てその異様さに少したじろいでいたが、リューギはそれに全く興味もなく、
「遅れました。申し訳ありません。」
そう言ってその場の全員に謝った。
リューギ「ある程度は後方のセルジオ大隊長から聞き及びました。して如何程に?」
リューギの後ろにはいつもミリアがいる。
4組のS級パーティがそれぞれ四方に対峙している。
その中でオーシンが口を開いた。
「集まりましたね。大体のあらましはお伝えした通りです。
あのアルダ砦をどう攻略するかについてですが、ひとつ提案があります。」
【ノウスオルド】のリーダー・ミューレルが
「聞こう。」
と言うとオーシンは
「今までは順調すぎるように進んで参りましたが、おそらくはアルダ砦、または砦内に罠が仕掛けてある事が充分考えられます。今あのアルダ砦、城壁も修復されておりどんな危険が待っているかもわかりません。魔獣があそこから未だ1匹も出てこない、こちらに反撃さえして来ない、不気味な状況です。ここまでは皆さま如何でしょうか?」
他のパーティ達も皆頷く。
「こちらから仕掛けますが、今回は合同作戦。どこかのパーティだけが抜け駆けする、というのも納得出来ない方々もいらっしゃるでしょうし、大人数で言っても全滅の可能性もあるかもしれません。」
バイロン「全滅?S級パーティが揃ってるのにか?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ。」
するとリューギが
「バイロン殿。もしも砦全部に爆発魔法陣の様なものがあったら、あなたは対応できますか?」
するとレイカも
「拘束魔法陣みたいなもだったら、私達は身動き取れなくなるわね。」
そしてジーナも
「重力魔法だってあるかもしれないわよ。」
と3人が畳みかけると、バイロンも
「重力魔法だと?そんなの伝説的な魔法だろう。ある訳ないじゃないか。」
するとオーシンが静かに
「可能性は、あるのではないでしょうか。敵は罠を張っているのですから。」
するとモロも
「いや、でもそんな魔法陣なんか…、じゃあ中には魔人がいるって事か?」
ジール「確かに可能性はありますな。」
ミューレル「そしたら連合軍待ってあいつらに突っ込ませるかい?」
ナダル「軍は人員減らしたくねぇから俺達を総動員したんだろう?行くわけねぇよ。」
オーシン「そこで!」
皆がピリッと黙った。
オーシン「各パーティの最強と言われる方一人ずつ、即席の4人パーティでまずは内部に行きます。そうすればどこのパーティが一番などというものはなく、また被害を最小限に食い止める事が出来ます。如何でしょうか?」
ガイル「って言ったってどうやって決めるんだよ。」
と言うと、
「のった。【ルクス・テネ】からは魔法使いの私が出る。」
モロ「おい、ジーナ。」
ジーナ「私が魔法最強。誰か文句ある?」
【ルクス・テネ】のメンバーだけでなく、他のパーティの面々にも睨みを利かせながらジーナは言った。
オーシン「僧侶として私オーシンも行かせていただきます。」
【ノウスオルド】の僧侶・ネネアが
「確かに最強2人だ。」
そういうと、ガイルが
「じゃあ後は…」
と言ったところでリューギが
「拳闘士として、また【ノウスオルド】の代表として私が行きます。よろしいですね、ミューレル様?」
ミューレル「お、おう。」
リューギ「ありがとうございます。」
するとバイロンが
じゃあ【ス・イジェネリス】からは俺が…」
と言った瞬間、レイカが
「剣士として私が出る。異存はないはず。」
バイロン「何言ってんだ?俺の方が…」
レイカ「あなた、死にたいの?」
そう凄んで見せると、ジールが
「うちからはレイカ嬢だ。バイロンは邪魔じゃ。」
バイロン「何だと?」
ジール「今お前、目の前の3人の中で何が出来るか?」
バイロンはそう言われ振り向くと、異常な強大なオーラを放つリューギ、オーシン、ジーナが立っていた。
たじろぐバイロン。
【ノウスオルド】のの魔法使い・ネネア
「うわ、凄い。マジで最強パーティかも。」
レイカが3人に近づくとレイカもまた強大なオーラを発した。
同じく【ルクス・テネ】のラレイ
「ここにいる全員が束になっても、この4人に勝てないかもな。」
そう言うと、全員が納得した。
「ノウスオルド】のミリアがリューギに
「リューギ様、大丈夫でしょうか?」
リューギ「心配いりません。これだけの素晴らしい方々ですから、死ぬ事は無いと思われます。」
ミリア「私も参加したいのですが…」
というと、レイカが
「ミリアさん。大丈夫です。ライラック流剣術の名において、このお方をお守りします。」
ミリア「レイカ様。宜しくお願い致します。」
レイカはミリアに微笑んだ。
リューギ「それでは。」
そう言って、リューギ、レイカ、ジーナ、オーシンの4人は丘を下っていった。
それを見ている他冒険者パーティ。
モロ「あの4人が死んだら…。人類は終わるだろうな。」
そう呟いた。
丘を下った4人は黙って颯爽とアルダ砦まで歩いている。
ジーナ「(小声で)ねぇ、いつまでこうしてんのよ。」
リューギ「(小声で)そりゃあ、とりあえず南門入るまでじゃないのか?」
オーシン「(小声で)今相当後ろの目が気になるね。」
レイカ「(小声で)さっきまでの救世主っぷりはどこ行ったのよ?」
リューギ「アヤ、笑かすな。」
レイカ「だって」
ジーナ「あの城壁って。たぶんカイ君が?」
オーシン「土魔法だね。見事だよ、これ。」
ジーナ「うん。惚れ惚れする。マジカイ君に会いたい。」
リューギ「あせんなよ、トモ。南門まで言ったら、何となく警戒して入っていく様に見せないとだめだからな。」
ジーナ「あーん、もう。」
リューギ「聞いてるか、アヤ?」
レイカ「ああ、カイ君。」
リューギ「さっきまでの「レイカ」はどこ行ったよ…。」
オーシン「そろそろだね。前衛たかちゃんとアヤで。後衛は俺とトモ。」
そうオーシンが言うと、リューギとレイカが素早く動き出し、南門の両脇に立った。ジーナは後ろから手を広げ、罠がないかの探索の振りをした。
頷くジーナ。頷くオーシン。
そしてリューギがレイカと目を合わせ、レイカが頷くと、リューギも頷き門正面へ動き出し。門を少し開けた。スッと中に入り、続けてレイカも入り、そしてジーナ、最後にオーシンが入り門を閉めた。
固唾をのんで見守っている他のパーティの面々。