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第33話 新しい道筋

 潮見夕夏しおみゆかが数えてくれたところによると、もうすぐ7月になるらしい。真夏といっていい時期になったが、もともと暖かい島だったこともあって、それほど暑くなった気はしなかった。海や森が太陽の熱を吸収しているからかもしれない。

 俺たちは相変わらず生活のために食料を集め、その間に探索を進めていた。住居周辺はかなり探したが、かつて住んでいた人の痕跡は見当たらない。あとは、山に登って島を見渡して探そうということになったが、登るためのルートが見つからないのが悩みの種だった。


 俺たちは、沢を登って例の畑らしき場所へやってきていた。食料とバナナの葉を持って帰るためである。


「うーん、ここが登れたらなあ」


 俺は、池に流れ込む滝のような岩場を見上げながらため息をついた。普段利用している水はこの上から流れてきているのだが、崖のようになっていて傾斜は急である。


「この場所にこだわらなくてもいいんじゃないの? 足を滑らせたら怪我しちゃうし、危ないよ」


 サツマイモを掘っていた浜本美波はまもとみなみは顔をしかめた。そばにいる潮見さんも心配そうな表情である。


「それは、わかってるんだけど、山の頂上を目指すのにここから先をどうするかなんだよなあ」

「うーん、急なところは避けて、頂上の方向へとりあえず進んでみるとか」

「絶対に迷うと思うよ。森の中だと方向がわからなくなるし、まっすぐに進むのなんて無理だから。この場所だって、沢っていうわかりやすい目印があったから発見できたんだし」

「あう、そうだよねえ。あたし、方向感覚に自信ないしなあ」


 浜本さんはため息をつくと、サツマイモ掘りを再開した。潮見さんは、山の頂上らしき方向をじっと見つめている。


「登山家だったら、どうやって攻略するのでしょう。わたしたちには、地図もコンパスもありませんから難しいですよね。この山も外から見ていると登れそうな気はするのですが、いざ森に入ってしまうと生い茂った木々で太陽も山頂の方向も確認できなくなってしまいます」

「それなんだよなあ。方向を間違って迷子になって、暗くなったら身動きがとれなくなるし」

「ここは思い切って、別のルートを模索してもいいのかもしれませんね。いずれにしても無理はやめておきましょう。何か発見しても、それが救助につながるわけではないのですから」


 潮見さんは、そう言って浜本さんのサツマイモ掘りに加わった。こうなると、俺だけがぼんやりしているわけにはいかない。


「えっと、俺はバナナの木から葉っぱをとってくるよ。屋根とかお皿の素材とか、いくらでも使い道はあるからね」


 石斧を取り出して、バナナの木の方へ向かうことにした。歩きだしたところで、浜本さんが声をかけてくる。


「守川君、前から言いたかったことがあるんだけど」

「ん、何?」


 意外にも、浜本さんは真面目な口調である。思わず身構えてしまった。


「バナナって、木じゃなくて草だよ。多年生で大きくなるけど、分類上は草だからね」

「……そうだったの? 俺の背を余裕でこえるぐらいの高さなのに、草なんだ」

「ふふん、勉強になったでしょ。あと、サツマイモを葉っぱで包んで焼きたいから多めにとってね」

「うん、わかった。あっ、前に食べた包み焼きおいしかったよ、葉っぱの香りがついて良い感じだったなあ」


 感想を口にすると、浜本さんは満足そうな表情を浮かべて作業に戻った。この島というか、世の中には俺が知らない事がたくさんあるようだ。 


 俺はバナナの葉をとるために歩き回っていた。バナナはたくさん生えているのだが、なるべく取りすぎないようにしたいのである。ほど良い大きさのものがないか探していると、いつの間にか畑らしき場所の端へと来ていた。上りの斜面には、様々な種類の木が生い茂っている。


「この場所って、やっぱり誰かが過去に整備したのかな……ん?」


 ふと、山の斜面にある大きな岩が気になった。別におかしなところはないのだが、妙に気にかかる。近づいて確認したが、やはりただの岩だった。

 気のせいだろうか、俺は首をかしげなから斜面を見上げた。


「むっ、ここを登っていけそうだな。傾斜はまあまあだし、ちょうど木と木の間を抜けていけそうな気がする」


 俺が目を凝らしていると、背後から浜本さんが声をかけてきた。


「どうしたの。もしかして、何か居るの?」

「いや、この場所から登っていけそうだなって見てたんだ。道……とは言えないけど、うまく尾根まで行ければ、そこから頂上を目指せないかなって」


 尾根は、山頂へとつながる山の高くなった部分だ。茂った木々で見通しは悪いだろうが、尾根を注意しながらたどっていけば頂上へと行けるかもしれない。気がつくと潮見さんが隣に居て、彼女も斜面を見上げている。


「そうですね、道ではないと思いますけれど、なんとなく通れそうなところが続いていますね。大雨が降ったときに水が流れるところで、自然に道っぽくなったのでしょうか?」

「なるほど、そうかもしれないなあ。今の場所って、結構な高さにあるよね。ここから登れるんなら山頂までそんなに距離はないはずだから、チャレンジしてみる価値があるんじゃないかな」


 俺が問いかけると、女の子たちは小さくうなずいた。しかし、ここからどうやって登っていけばいいだろうか。考えをめぐらせていると、浜本さんが首をかしげた。


「ん? 何を考えているの。登れるかちょっと試してみればいいんじゃないの?」

「いやいや、そう簡単にはいかないよ。森の中に入ったら、この場所に戻るのが難しくなるんじゃないかな。道っぽいものがあると言っても、そこから外れちゃったら何も目印がないよ」

「あう、そっかあ。今までは小川を目印にしてたけど、それがなくなっちゃうんだね」


 浜本さんは、がっくりと肩を落とした。潮見さんは何やら考えているようだ。


「目印になるようなものが無いということなら、自分たちで作ってみるのはどうでしょうか」

「潮見さん、作るっていうのは良いアイデアだと思うけど、具体的には何かあるのかな?」

「今、考えているのは、ここにある岩のように目立つものを置く、というものですね。さすがに、こんな大きなものを運ぶのは無理ですから、木の棒を細工したものを地面に立てておくとか、ツルを使ってルートを示したりでしょうか」

「なるほど、いいね。進んだらいけない方向にツルを張るとかすれば、迷う可能性が減りそうだな。それで、やってみようか?」


 俺が問いかけると、浜本さんは納得したようにうなずいた。


「あたしは良いと思うよ。つまり、自分たちで道しるべとか標識を置きながら進んでいくってことでしょ。なんか開拓してる感じがあって、楽しそうだし」

「道しるべを自分たちで設置するっていうのは良いですね。あとは、設置するものを準備しましょう。何か手軽に数を揃えられるようなものがあればいいのですが」


 潮見さんはすでに案を考えてくれているようである。だが、今日のところは食料をとるのが本来の目的だったので、一度帰ることにしたのだった。



 帰り道、俺は歩きながらあれこれ考えた。

 俺たちが拠点にしているシェルターから、ここまで登るのに結構な時間がかかっている。さらに、ここから登って行くとなるとさらに大変そうな感じだ。思い切って進めば意外とあっさり登れるのかもしれないが、無理をしてみんなを危険にさらすわけにはいかない。

 俺は慎重に計画を練るのだった。

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