タクシーの運転手に「近くですいません」という話
先日NHKラジオから聞こえてきた話。
お笑いの一節でタクシーの運転手に
「近くですいません」
とタクシードライバーを気遣っていう近くの行き先を告げる話があって、でもこれを言われたドライバーは「いいですよ」と答えながら心の中では嫌な気分になっていると語っていた。
タクシードライバーは客待ちの時間があって、乗った客が近いとメーターが上がらなくて、また客待ちに入る。たいていは同じようなタクシーがたくさんいるから、近い客ばかりだと売り上げが上がらず不愉快になる。乗る客もそれを知ってるから「近くですいません」などという。
このお笑いでは、この声掛けをできるだけ乱暴に
「近くだけど、いけるよな!」
というと話を展開する。するとドライバーは面倒臭い客が乗ってきたと思うと同時に近くでよかったと思うだろうと言うのだ。
私はこの話に感心してしまった。
同じ短距離が売り上げが上がらないマイナスの感情から面倒が少なくて助かったというプラスになる。ドライバーとしては同じ短距離だけれども評価が逆転する。
全体としては結局ドライバーは不愉快な客に違いない。売り上げもどちらの言葉でも不満のある低料金になる。でもうるさそうな客に長距離乗て文句を言われてトラブルになり、口の利き方を間違えたらクレームになり、結局お金をもらえない可能性だってある。そういう意味で面倒な客は短距離で良かったと思うのは理解できてしまう。
そもそも「近くですいません」は、たぶん同じような短距離で利用したときにドライバーに嫌な顔をされた経験があるからだろうけど、相手を気遣うというより自己防衛の枕詞だろう。先に謝って受け入れられたらドライバーは文句も言えない。タクシーは公共交通機関の扱いだから乗車拒否はできない。
では、後者のように面倒な客を演じるのが正解か、といえば違う。
ドライバーは短距離でも客は客として感謝しなければならないだろうけど、理不尽な客は常にいる。紳士で長距離利用でチップをくれる客ばかりならタクシードライバーは幸せだが現実は違う。短距離もあり怖い人もあり酔っ払いもありトラブルは日常。
その中でも短距離は比較的レベルの低い不満であり、もっと大きな問題の前では霞むだけだ。
では、何が正解だろう。
「近くなのにありがとう」
謝罪より感謝の言葉がお互いを幸せにする。これだと思う。
謝罪は相手に許しを求める言葉であって謝罪する側のために謝罪される側に求める行為だと思う。
それでも、たぶん言ってしまう。
「近くですいません」
だって、近くの行き先を言ったら舌打ちされるとか、精神衛生上避けたい。ドライバーさんの気持ちもわかる。これは短距離利用だから避けられない。
その上で降車時に感謝を伝える。面倒な客を演じるより幸せな世界になるように心がけたい。