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【なろう版】召喚!33%!~あなたのことを知らないと伝えたらその場で多くの人が教えてくれました。これってよく考えたら口説かれてること公開しちゃった?

作者: 直江あき

初めまして、こんばんは。


沢山の中から、お選び頂きありがとうございます。


恋に落ちる瞬間というか、男の人が女の人を可愛い!!と思う瞬間を書きたかったところから、この話は作られました。あまり片鱗はない気がしますが、勢いで少しでも楽しんで頂ければと思います。


どうぞよろしくお願い致します。



「そのケーキはいらない。お祝いは君より愛らしくて可愛らしい彼女とするから。じゃぁ。」


ガタン


今日は彼の誕生日。お祝いするのは二度目。…ここのところの約束は断られたり、忘れられたり。なんとなく予感させられるものはあったけど、あまり人付き合いのうまくない、型にはまったような私を、真面目で誠実で素敵だと告白してきた彼を信じたかった。


「ケーキも。…料理も…どうしよ…。」


ぼたぼたっと水滴がクロスを濡らす。もっと、可愛く泣けないのだろうか。小説だと、頬を濡らす涙…なんて表現だけど、私は泣く時さえも可愛くないの?精一杯、可愛らしく、いつもより、おしゃれしてきたんだけどな。


「お客様、ご伝言を承っております。…あちらのテーブルの男性から。」


ギャルソンがそっとメッセージカードを持ってテーブルを手で指し示す。そこには黒髪に切れ長で、アメジストのような紫の瞳を持つ、雰囲気ある美形の男性がいた。


ニコッと笑うギャルソンが再びこちらを見るので、間違っていないかと首を傾げ眉を寄せた顔を見せて、もう一度指し示させた。…合っている。おまけに他のテーブルはカップルか女性同士だ。間違いようがない。


『待ち惚けして2時間経った憐れな男に救いの手を』

 

カードの文言を読んだ後、視線をもう一度男性に移す。


耳たぶ辺りまでの長さの前髪を分けてスッキリとおでこを出し、その鋭利な眼差しと一つ一つのパーツの整った顔を十分に惜し気もなくさらけ出している。


イヤイヤ、あれがドタキャンされる顔だと?んな訳ない。


私の想いはおもいっきり顔に出たのかもしれない。彼は立ち上がり、こちらへ歩き、ギャルソンに声をかけた。


「ありがとう。こちらの席の予定は?」

「はい、鴨肉のオレンジロースト、フロマージュにベリーソースのデザートです。」

「ではそれに白身魚のパイ包みと粒マスタード添えの猪の腸詰めを追加。支払いは全て俺で…これで足りる?」

「十分です。いつもありがとうございます。」


その場で現金支払いをした美形は呆気に取られている私に座る許可を求めてきた。何も考えずに頷いて、彼が座るのをぼんやりみていた。


「私はディラン、あなたの…お名前を伺っても?」


彼は切れ長の目を少し緩ませ、優しく微笑んで私に名乗った。


「え、あ…アメリアです。あの、私の分だけでも支払います。初対面なのに…気を遣って頂いてありがとうございます。」

「レディは気にせず、男の私にカッコつけさせてください。」

「いえ、見ず知らずの方に御馳走していただくわけには…。」

「では私の事を知っていればよい、ということだよね?」


お互い引かない中、ディランさんは不思議なことを言い出した。


そしてジャケットの内側から魔法メッセージカードを取り出し、さらさらと書き始め、二つ折りにして空へふぅっと息と共に飛ばした。何通かその作業を繰り返し、カードは羽を広げて、相手の元へと急ぎ飛んでいく。その鮮やかなカード達は庶民が使う無骨なものより、繊細で美しい。ディランさんがいい身分の人なのだと推測できた。


なんで私なんかに構ってくれるのだろう。私は不思議に思った。


テリーヌやナッツ、生ハムが乗った彩り豊かなカナッペ等の前菜と食前酒が運ばれてきた。私の頼むコースはそこまで豪勢じゃない。知らずにこれもランクが上げられている。


「さ、あまり時間はかからないと思うけど、良かったら食べて。このタルタル、一味違ってて美味しいよ。」


彼はオススメしながら、それを一口でぱくりと食べてしまう。あれ、思ったよりも気安い人なのかもしれない。私はその様子を見て思う。


じっと期待に満ちた眼差しに居たたまれなくなり、おずおず手にとって、同じように一口で食べる。自腹を申し出ているのだから、食べないと損かも…と思ったのだ。


「あ、おいしい。」


バターがしっかりと聞いたサクサクの土台に鶏肉のハムが散らばり、そこにオススメのタルタルがかけてあった。酸味がきき、それが卵のコクとあいまって食欲をそそる。彼はニコニコその様子を見ていた。


「うん、俺のオススメ。…アメリア嬢、人が来るから驚かないでね。」

「え、人って…。」


ボワンッッッ


「ぎゃぁーっ!!」


私とディラン様の間の席辺り、そのなにもない空間に突然煙が生まれ、それは爆発音とともに霧散した。大きな音とその煙に驚き、悲鳴をあげた。煙が薄くなると、そこには体の向こうが薄く透けて見える人がいた!


「え…ひっ…人が…。」

「大丈夫…魔法で彼の成分33%をこの空間に連れてきただけだよ。幽霊じゃない。」


ディラン様は私を安心させるように、ポンポンと私の手の甲を優しく上から叩いた。い、いや、イケメンのぽんぽんはご褒美ですが、理解不能な現象は全く安心出来ない!


『なんだよディラン!このまた微妙な呼び出しは。』


成分33%の人は怒っていた。


「時間がないから詳しくはあとでな。ハリー、職業と俺との関係を簡潔に述べてから、俺のいいところを言ってくれ。残り2分21秒。」

『はぁ?!なんだそれ?!おまっ、もう少し説明しろや。』

「2分15秒、ハリー、頼んだ、俺の未来はお前にかかっている。」

『…しょうがねぇなぁ。えー、第2騎士団第3部隊長のハリー·メルボルクだ。ディランは弟分だ。あー…、いいところ…嘘つかないとこ、正直に行動するところか?あ、ちゃんと常識の分別の上で、ってことな。そしてそれを実現させたりすることに努力を惜しまない、とこか。』

「ありがとうハリー、頼りになる。…じゃあな。うまくいったら説明する。」

『ぅおいっ、どっちでも説明は必要だろ?!』

「またな。」

『おま────』


パチンとディランさんが指を鳴らすと、33%のハリー様はしゅうっっと消えた。…まだ3分たっていない気がするけど。


「あ、また来たから。」


ボワンッッッ


「ヒャアっ!」


またもや煙と爆発音に驚く私。ハリー様の後に現れたのはさっきと同じように向こう側が透けていた。そしてさっきの人と同じで怒っている。


『おまえっ、ヒデーっ!食堂一番人気のこのデザート食べるって時に召喚かよ。しかもなんだこの中途半端なやつ!』

「さっき作ってみた簡易召喚。33%だけ、召喚してる。」

『なんだその数値…。で?用件はなんだ?』


今度の人は豪胆なのか、不測の事態に慣れてるのか、すぐに用件を確認している。甘めの顔立ちだが、落ち着きを見せた態度も顔もかなりカッコいい。さっきはどんな顔かを確認する余裕もなかった。


「食事中すまなかった。だがお前の助けが必要だライオネル、お前の職業と俺との関係を簡潔に述べてから、俺のいいところ一つ言ってくれ。時間は2分で。」

『なるほど?…俺は第3騎士団の魔剣士で、同僚のライオネル·ファウストだ。』


…同僚ということはえーと、ディラン様は騎士団の人か。文官じゃなさそうだな、騎士様…よね?ようやく身元がわかった…のか?


『こいつのいいところ…うん。人望はあるな、友達も多いし。いくところ行くところに行きつけがある。いいと思ったらすぐに確かめにいってるな。この前のリストランテも上手かった!』

「ライオネル?褒めて貰うのに突っ込むのもどうかと思うが、それは俺が食いしん坊ってことでは…。」

『ははっ、確かに。だけど確かめるのは何も食い物だけじゃないだろう?』


ちらりと私に視線が向いた気がする。フォローのつもりだろうか。そしてそのままディラン様はお礼を言ってライオネル様を帰した。


そしてそのあとも、同じように白煙と爆発音は33%の人達を連れてきた。すっかり私も慣れ、叫ぶこともなくなり、ディラン様とその人達を迎えた。


「あ、ディラン様。このお肉美味しいです。へー、オレンジソースって初めて。」

「うん、これ、皮目もパリッとして香ばしくて、色んな楽しみがあるよね。あ、これに合うお酒も頼もう。」

「へぇ!ほんと、色々ご存じですね、流石です。」

「いやいや、食事だけじゃないからね?!」


等々、いつの間にか普通に会話しながら食事を楽しんでいた。尚、騎士団からは第1から第5まで満遍なく呼び、行きつけの店の女将や先日結婚した元カノまで呼び出した(流石に彼女は9%召喚で、姿はふにゃふにゃしていてよく見えなかった)。


すっかり笑いながらコースも食べ終えた頃。


「どうかな、これで少し…俺の事知って貰えたかな。」

「あ。…そうですね、随分ディラン様の交友関係も知ってしまいました。すっかり忘れてました。」

「だったら、良かった。………涙より、笑顔が似合うよ。」

「ひぎゃ?!」


驚きのあまり変な声が漏れ、私の顔からぼんっと火が出たのではという程、自分が真っ赤になったのがわかった。ディラン様は私を頬杖つきながら見つめ、甘く微笑んでいた。


「たくさん俺の事知って貰ったから、この食事代は俺に御馳走させてねアメリア嬢?」

「ご、御馳走様でしゅっ?!」


私は思いっきり噛んだ。


「はは、アメリア嬢、可愛い。」

「?!」


どうもこのディラン様。思ったことはほんとに口にするらしく、「これ(可愛い)」も素のようだ。嬉しいけど、こんなかっこいい人に言われたことなんてないから、どうしていいかわからない。


食後の珈琲を飲みながらディラン様は言う。私はプチケーキにフォークを入れる。


「食事、楽しかったね。…アメリア嬢、もう俺の事はかなり解って貰えたと思うから単刀直入に伝えるね。俺と付き合ってください。」

「んぐほっ、げほっ!げほっ!」


イケメンからの告白が台無しだが、仕方ない。何故に私?!


「アメリア嬢が彼を待っている間のそわそわした感じも、酷い宣言を聞いていた我慢して凛とする姿も、驚いて変な声だすとこも…ごめんね…、美味しそうに食べるところも、知らない人の話もきちんと聞けるとこも。すごく素敵だ。一目惚れです、好きです、アメリア嬢。俺の手を取って。絶対幸せにするから。」


元彼は商人だったから知合いは多かったみたいだが、私をあまり紹介したくないようだった。今考えれば…食事以外あまりでかけることもなかったし、店員さんにも横柄だったし。…終わりの方なんて若い女性に会った時は私を親戚だって紹介してた。それに比べ…、うぅん。比べる方が間違えている。ディラン様の方が何千倍も素敵だ。ディラン様は途中から自分の悪いとこも尋ねていたので、私は悪いところも聞かされている。でも…。


「…はい。幸せにしてください。でも、毎回のデートを公開するのはやめてくださいね?」


ディラン様はぱあっと、誰がみても解る程華やかに笑った。


「「「おめでとう!よかったねぇ!!」」」


周りがどっと、沸いた。


皆私達の様子をハラハラしながら気にかけていたようだった。


「どうなっちゃうかと思ったわ。」

「いい人そうで良かったわね!」

「あんな男より絶対いいよ。」


皆さん、よく見ていた…。


私達は熱い声援を受けながら、その場を辞した。





「ははっ、ごめんね?アメリア嬢に好かれたくて必死だったから、周りのこと、すっかり忘れてたよ。」

「う…私もなんだか忘れてましたから…いいんです。わっ!…さ、寒いっ~。いつの間にか…こんなに冷えてるの?」


二人でお店を出ると、外は凍てつく程の寒さになっていた。昼間はよく晴れて、少し動けば暖かかったが、今夜は駄目だ。空気が冷たく澄んで、冬の星空は星が降ってきそうな程、美しい。はぁ…と息を吐けば、真っ白になる。だがそれはレストランでの、あの白煙と爆音を思い出させ、つい笑ってしまった。


「ん?どうかした?」

「いえ、ふふっ。さっきの…召喚魔法を思い出して。笑っちゃいました。はは、でも酔いも冷めちゃうほどの寒さですね。」

「うん、確かに。…アメリア嬢。俺を選んでくれてありがとう。今更ですが俺はディラン·シュトワーズ。第2騎士団第3部隊で魔剣士をしてます。俺、考えるのが苦手ですぐに行動しちゃうんだよ…。会ったばかりなのに、一目惚れだって口説いて驚いたでしょ?」


あぁ、やっぱり騎士団の人だった。それも、魔法を剣に乗せて戦う魔剣士だった。


「身元は保証されたし、アメリア嬢を家まで送らせて貰っていい?…恋人として。」


少し遠慮がちに、でもしっかり私の目をみて伝えてくれた。エスコートしていた手をぎゅっと握り、ディラン様はそのまま自分のコートのポケットに突っ込んだ。…私は声がでなかったので、大きく頭を縦に振って返事をした。




うちはそこから割りとすぐで、歩いて12分ほど。そしてさすが騎士様。大体の地形を把握していて、目印になるような建物を話すと見当がついたようだった。


コートの中はぽかぽかしていた。だけど、剣だこがあるごつごつした大きな手に握られてることが、実際より私を暖めてくれているんだと思う。私達はずっと喋りながら帰宅した。


そしてあっという間についてしまった。


「…楽しい時間は早いな。明日は夜勤なんだ。夕方、出仕前に顔見に来ても、いいかな。」

「はい。…私は明日はのんびり過ごしてるんで、いつでもどぞ。このケーキ、折角だから食べて処理してます、きっと。…美味しいんです、ここのケーキ。」


私は元彼の為に作って貰ったお気に入りのパティシエのホールケーキを自分の目の高さ迄、持ち上げた。予約した時はこんなことになるなんて思ってもみなかった。


ディラン様は眉を下げて苦笑し、私のサイドの髪を優しく耳へかける。


「寒いから、中に入って。…おやすみ、アメリア嬢。」

「おやすみなさい…ディラン様。」


私達はぎこちなく別れた。









………………………どーした?!私!


ばたんと閉めて鍵をかけたけれど、脚が玄関から動かせない。


寂しい。


……知り合って数時間なのに。

失恋し、泣く程、自分の存在自体を否定したくて仕方ないぐらいどん底に落ちかけた私を救ってくれた人。


鋭い眼差しで近寄りがたく思う程のクール系な美形なのに、常識に囚われない、不思議な魔法を作り出して、ふふっ、失恋したのなんて、すっかり忘れちゃってた。うん、もう微塵も元彼のことなんて思ってないし、…私こそ、ストンって落ちちゃったなぁ、新しい恋に。


認めたら余計に寂しくて。


のろのろと何とか体を引きずり、部屋の窓のところへ移動する。結構時間がたっているけど、いるわけないんだけど、ディラン様が恋しくて、ディラン様が送ってくれた帰り道を見たくて、ついこの寒さの中、窓を全開にして身を乗り出した。


「早く明日が来ればいいの、に…。え。」


窓から見えるちょっと先の、曲がり角。


街灯の下にこちらを見ながら斜に構え両手をコートに突っ込んだディラン様がいた。


え。


「ディ、ディラン様っ?!何で…?!」


私の声は思いの外、深夜の凍てつく空気を伝ったらしく、ディラン様に届いたようだった。ディラン様は数秒私と目を合わせた後、体をこちらに向けて、私に声が届く距離まで歩いてきた。


「アメリア嬢、そんなに身を乗り出したら落ちてしまう、危ないよ。」


寒いけれど、ディラン様の声は優しくて温かい。


「何でまだいるんですか、ディラン様こそ!こんな夜に風邪引きますよ!」

「俺は平気。任務でこんなのしょっちゅうだし。アメリア嬢の方が風邪引くよ。」


二人でお互いの心配をする。


「ディラン様が帰ってくれないと、心配で中に入れません。」

「はは、それはズルいな。…もう一回だけ、…顔が見たくて。もしかしたら、窓が開いて、夜空を見るアメリア嬢の顔を見れるかもって。…ごめんね?」


そんな風に言われたら、我慢できるわけがない。


「…来て。」

「え。」

「…早くしてください、寒いんです。…二人でいれば、暖かいでしょう?」


ディラン様は駆け出した。

私も玄関へ急いだ。

鍵を開け、扉を開けると、階段を長い足ですっ飛ばして昇るディラン様が見えた。


私を抱き締めて、ディラン様は鍵をかけた。コートがとても冷たくて、外の寒さを改めて思い知らされる。私の頭を掻き抱くコートの袖の金具が身動ぎした際に項に当たる。


「冷たっ…。」

「ご、ごめんっ!」


ハッとしてディラン様は腕を緩めた。動揺するディラン様が可愛くて、小さく笑って誘った。


「小さな部屋ですけど、丁度、掃除したばかりだからいつもより綺麗です。…私も会いたかった。嬉しかった。」


胸元のボタンを触りながら、その鍛えられた胸に顔を寄せる。ディラン様の体が強張ったのが分かる。そして、小さく息を吐き出しながら、頭の上から低くて甘い、優しい声が降ってくる。


「…そんなこと言われると、遠慮しないよ。紳士的な騎士の仮面、外していい?」

「…外してって言ったら私の責任です?」

「うーん…、責任は俺にとらせてよ?…よっと。」

「きゃっ!」


私は横抱きに持ち上げられた。あまりに軽々持たれ、その力強さに驚いた。


「ベッド、どこ?そこで俺が仮面外す。そしてアメリア嬢の仮面も外す。…名前、呼んでもいい?」


キスしそうな程、近くに顔を寄せて私にディラン様は聞いた。耳を撫でるような低い色気のある声に、体が震えた。


「呼んで、ほしいです。…この奥の左の部屋です。」

「…アメリア…好きだよ。」


私はディラン様の首に腕をかける。ディラン様はその瞬間を嬉しそうに笑った。


小さな家のベッドはすぐそこで、ディラン様は私を下ろさずそのまま腰かける。


「キスしていい?」

「…嬉しいんですけど、そうやって確認するのって、ちょっとズルくないですか?」

「ぶ…ふふっ、そうかもね?じゃあ、やり直す。キスするから。」


顔を近づけ距離を計り、キスをした。ディラン様の唇は冷たくて、もっとキスして暖めなきゃって思った。何度か離れて、二人でキスに夢中になってもつれてベッドへ倒れ込む。絡めた指はシーツに縫い止められ、キスは大胆になっていく。


「アメリア…一目惚れなんだ。」

「はい。ふふ、…もう知ってます。」


鼻で呼吸をしながら、もっと深くキスを交わす。


「アメリアって…甘い。想像してたよりずっと…。はぁ…爆発したら、俺、さすがに泣くかも。」

「爆発?」

「なんでもない。」

「………っあ!そういう───」

「うん、黙ろうか。」


その先はキスで塞がれた。


「んっ。」


キスが気持ちよくて意識がふわふわしている。どんどん私は自分が満たされていくのを感じる。はぁ…と息をディラン様は大きく吐き、甘い視線を私に向けて再度告げてきた。


「一目惚れだって、言ったろ。…今日で一年だ。」


私達は今日偶然、元カレの誕生祝いのレストランで出会った筈で、一年という言葉を理解できなかったが、ディラン様の告白は続く。


「…一年前、あいつの誕生日ケーキを注文してるアメリアが…可愛くて。プレートになんて書くかと、店員に聞かれて、それまでしゃんとしてたのが俯いて照れて恥ずかしそうに…小声であいつの名前を言ってたとこが可愛らしくて。」


え…う、うそ?私、そんなことしてた?!


「あの時、君に恋をした、一目惚れした。一年片想いしてた。…今日会えるかもって、ケーキ屋で待ってて、また…アメリアを見かけて。つい、一年の奇跡に嬉しくて舞い上がってレストランまでついて行った。…ごめん、引いた?」


ディラン様は一瞬顔をくしゃりとし、ちょっと辛そうな顔をしていた。私は枕を握っていた手をほどいて、ディラン様の頬を撫でた。


「…驚いたけど、引いてないわ。…そんな、むしろ小説のようなことに驚いて….。…どこの誰かもわからないのに、恋、してくれたの?」


私の問いに頬に朱をさして、柔らかく笑う。


「あぁ、もうあの日は色んな奴らに君の可愛さを興奮して話しまくった。…今日呼び出したのはその話をした奴らがほとんどだ。」


ディラン様は頬に当てていた私の手をとって、掌にキスをした。


「アメリア…俺は君のことが好きだ。…沢山君のことが知りたい。もう、離れていたくない。」


ディラン様は膝立ちになって、切なそうに私を見下ろした。私と目線をあわせている間の、落ちてきた前髪を後ろへ大きくかきあげるその姿は、部屋の薄明かりで陰をつくったディラン様を妖しく華やがせた。色華は艶麗で、身震いする。女性の本能が彼を求めたんだと思う。私も切なくなって、彼を受け入れたくて仕方なくなっていた。


「私も…ディラン様を知りたい。…もっと、好きになってもいいですか。」

「うん、どんどん好きになって俺に溺れて。…俺なしじゃ、生きてけないようになって。…アメリアを、俺にちょうだい。」


絡めた指先に少し力が入るが、握りしめないよう気にしてくれているのが嬉しい。少しだけ苦しそうに、でも私に優しく言葉を掛け、様子を伺ってくれる。…我慢してくれているのが私の心をぎゅうっとする、そんなに汗を浮かべて…私を大切にしてくれるなんて。


指先を数本動かしてすりすりと撫で、そっと動いて私に口づけを降らせる。大事に、愛おしさを溢れさせて、私の身も心も解していく。少しづつ、少しづつ。私の様子を見ながら、甘い言葉と甘い手つきで私に熱を送りつづける。そしてその気遣いは同時に私を焦らすものだ。…元彼からの愛情の剥落が悲しくて、見ないように蓋をして、でも愛に飢えていた私にはディラン様の愛が重くて嬉しくて、我慢できなくなった。


「もう平気だから、我慢しないで。私を…ディラン様で塗り替えて、お願い。」

「分かった。…どうしても辛かったら、言って。全力で抱くから。」


理性と欲望の狭間にいるだろうに、苦しいだろうに、私から顔を逸らさないディラン様が愛しくて…今夜が二人の初めての夜なのに、私も可愛いふりすらできない。


何だか分からないくらい気持ちよくて、私を優先させるディラン様に、咽び泣く程悦んでしまう。逞しい体に縋るように抱きついて、必死に自分の気持ちも伝えた。


散々愛され、時間の感覚もおかしくなって、正常な判断ができなかったと思う。だから、あれ?何時に寝た?ディラン様体力おかしいよね?と気づいたのは翌日昼過ぎに起きてからだった。






「ん…ちゅ…は…ぁ…まって…。」

「…っ。…待たない…もう少し、な?」


朝ごはんという名のランチを食べる。マフィンとハチミツに温かいスープ。ディラン様が用意してくれた。ほとんど料理しないディラン様はお店屋さんに軽食をしょっちゅう頼んでいて、例の召喚魔法を使って手だけを移動させて購入できるらしい。店員だったらそんな客は怖い。


そして今、その恩恵に預かりマフィンを食べていたが、あーんと食べさせようとするディラン様を避けようとしていたら、うっかりはちみつが口から溢れてしまい、あっとそちらに意識を持っていかれた瞬間に手首を取られ、私の唇ごと食べるようなキスをされている。ディラン様は一年我慢していたせいか、甘い。ほんと、黙ってると冷たそうなクール系の美形なのに実は極甘で、更にスイッチが入るとある方が名付けたという二つ名「歩く18禁」だと思う。 


「もう!おしまい!」

「あはは、ごめん、つい可愛くて。お詫びにさ、新しいケーキ屋見つけたから、ちょっと散歩がてら食べに行こう?」

「ほんと?」


そうして私達は出掛けた先で修羅場に巻き込まれた。


「返して!彼は私のものよ!」

「だぁれ?あ、可愛いだけの頭の悪い子ってこの子ね?」


恐ろしい女同士のバトルが展開されていて、そこに挟まれていたのはこの前私を振った元彼だった。


そ知らぬ振りをして野次馬を通り抜け、目的地のカフェに行こうと小さくなって通っていると、見つかり名前を呼ばれてしまった。


「二人とも、ごめんな。俺、気の強い感じの子が好きだから、俺の本命はあの子なんだ。ふっ、何でもない風を装って、心配で見に来たんだよ。な、アメリア!」

「はぁ?!」

「「誰その女っ!!」」


驚いて大声がでた。何を言うのかこの男は。可愛げがないって言って、人前で振った癖に。そして私に女の子達を仕向けて、有耶無耶にする気なのか。…私の時もそうだったが、完全に二股だよね?!


元彼達に無関係であることを伝えようと一歩前に出たところで、私を庇うようにディラン様が前に出てくれた。


「気の強い風にしかできなかった…の間違いだろう?アメリアが甘えられる程、男としての君のレベルが高かったら…。きっと可愛いアメリアが沢山みれただろうに、残念だね。」


私の腰に手を廻して引き寄せつつ、手の甲にキスして見せたディラン様に、私と女性陣は顔を真っ赤にし、元彼はひきつった顔を見せる。


「そ、そういうお前は何なんだよ。アメリア、もう違う男連れて!実は浮気してたのかよっ。そんな軽そうな男っ。」

「何を──」

「お前がレストランで彼女を振った後に、彼女に告白した。偶然片思いの彼女がフリーになったんだ。そんなチャンス逃すわけないだろう?それに軽いなんて、失礼だな。…召喚50%。」


あっと思った時にはまた、あの白煙と爆発音、おまけに雷鳴まで鳴り響いた。初めて見た三人は耳をつんざくような悲鳴をあげる。


『なんだなんだ?!あ、ディランお前っ!!なんだこの召喚魔法は!』


50%で呼び出された人…体が完全に縦に真っ二つだった…のは、恐れ多くもこの国の王太子だった。


「うん、ごめんコタ様。どこにいるか分かんなかったし、仕事中だったら申し訳ないから、体の成分半分だけ召喚したんだ。これで、とりあえずは残してきた方も仕事できるし。まぁ…3分だけだから、許して。申し訳ないっ。でさ、コイツが俺がアメリアに対して軽いって言うもんだから、ちょっとだけ、説明してくれない?」


流石の王太子様…。ディラン様も今までの方とは違い、召喚率もあげ、説明もきちんとしていた。だけど事前連絡もなしに召喚していいものなの?大丈夫?


『…その召喚…噂には聞いていたが、…俺は王太子なんだがな。よく呼び出せたな。あとでその召喚術、教えろよ。あー…、貴殿か?この男に喧嘩を売るのは。…むしろ軽かったら良かったが、残念ながらコイツは大変に重い男だ。一目惚れした女性のことを友人知人に聞かせまくり、毎日そのケーキ屋に通いつめ常連になり、彼女がどんな頻度で来るかを探りつつ、他のケーキ屋や甘いものを置くカフェも総ざらいしてピックアップした特製地図を作り、どこに彼女が現れるかを地道に調査した変態だ。俺は同級生だから人より余計に貴女への愛を聞かされた。』

「…それはなんというか、…すみません。」

『よい。…重い男で直情だが信頼できて仕事もできる。何より絶対浮気はしない。…されたら死ぬかもしれないけど…。』

「重っ!」

「引くわ~。」


王太子様や彼女達にはドン引かれるが私には嬉しくて仕方ない。だってないがしろにする男より、会えるかもわからないのに、乙女のようにマップまで作っているなんて可愛らしいし、素敵だ。一体何回私を見かけたのか後で聞いてみたい。ふふ、こんなにクール系の美形なのに、ほんと情熱的だ。


『王太子として、一人の男として貴殿に言おう。彼女に気がないのなら誠心誠意謝罪をして、金輪際目の前に現れないことを伝えて逃げろ。そいつは俺でさえこの扱いだ。あ、3分───』

「さて。王太子様も帰還したし、改めて…俺はディラン·シュトワーズ。第2騎士団第3部隊で魔剣士をやっている。彼女はようやく私の恋人になってもらえた大切な人だ。彼女への言い掛かりは全て俺を通してもらおうか。」


殺気まで放ち、初めて見る怒った顔だった。元彼は顔を青くして、私に土下座で謝罪をし、彼女達を連れて逃げ出した。


ディラン様は私の方を向くと困った顔した。


「…ばれちゃった。頑張ってカッコつけてたんだけど…。幻滅した?」

「うぅん、カッコいいだけじゃなくて可愛いのも知れて、嬉しくなっちゃった。」

「…そういうとこ、アメリアは懐が広くて格好いいね。大好きだよ。」


私達は照れながら笑いあい、手を繋いでカフェへ向かう。新たに聞いた情報を早速確認する。


「もしかして今から行くカフェも、マップを作った副産物?」

「うん、そう。…会いたくて、一目だけでも見たくてマップを作って巡回しちゃった。…お陰で結構どの店でも常連扱いだよ。」

「あはは、実はあまり甘いもの食べないようにしてたから、会わなかったでしょう?」

「うわぁーっ!薄々思ってたけど…通りでほとんど見かけないわけだ…。」


私達はまだあまりお互いを知らないけど、一緒にいるのは心地よい。


「沢山話して沢山お出掛けして、たくさん、すり合わせしようね?ディラン様。」

「うん、ちょっと人前でも恋人自慢するかもしれないけど、赦してね。」

「えー…、それはその方に申し訳ないんで…。」


私もこの溺愛を惚気る姿が目に浮かぶ。ふふ、幸せだ。








お読みいただき、ありがとうございました。


ついつい、魔法を使う話になったので、別作品のキャラを出しちゃいました。彼は働き者で面倒見がよくて、苦労性です…。マクガイア王国の王太子です。


次も楽しみにしていただけると嬉しいです。


いいね!ボタン、高評価、ブックマーク、優しい感想、宜しくお願いします。



↓↓↓↓↓↓


今月末に別作品がコミカライズされます!一迅社様より


https://twitter.com/comic_zerosum/status/1747529191237505024t=hema9VKvyJ_SBtodBZLryA&s=19


折角編集さんからデータを頂いたのに使いこなせない私に、画像やカラー文字などで作品紹介する方法をご存じの方がいらっしゃいましたら、是非教えてください!宜しくお願いします。

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