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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

なろうラジオ大賞5投稿作品

人間の価値はパスワードにかかっている

作者: 輪形月

拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。

「このパスワードは、あんた自身が作ったものだな」


 確認口調にディスプレイの中で老人は大仰に目を丸くした。


「むろん。無粋な乱数生成プログラムなど使用するものか」

「了解。主旨的に当然だろうが、石橋は叩いて渡る主義なんでな」

「堅実だな。他に質問は?では始めてくれ」


 老人は有名な実業家で、億万長者で、――人間価値の探究とやらに耽る、自称哲学者だ。

 パスワード解析でAIと人間を競わせるのは、人間の勝利が存在価値の証明になるということらしい。負けたらどうする気だ。

 というか単純な記号の順列組み合わせ速度では、人間はコンピュータに敵わない。だから『試行数』という評価基準を決めたってとこがなあ。


 酔狂にも、情報セキュリティのクラッキングに見立て、クラッカーが大勢集められた。賞金のためとはいえ、乗る奴らも奴らだ。おれもその一人だが。


 必要な物はすべて用意する。その豪語どおり、大抵の衣食住がタダなのはいい。

 だが、最も必要なはずの情報は僅か。

 パスワードは81桁ある。一般的なキーボードで入力可能な記号しか使われていない。

 それ以上は探れということか。


 まあ、さっきの発言からして、パスワードはそれだけで意味のある言葉なんだろう。

なら方針は確定だ。


 おれのクラッキング方法はちょっと特殊で、暗号の構成要素から生成法則を割り出すのではなく、使う人の人間性ってやつを見る。

 この81桁という長さにも理由がある。自己顕示欲ってやつが。

 81歳という自分の年齢にかけてあるってことは、パスワード本体も『自分らしさ』ってやつ、一色なはず。


 なら、あのじいさんの自己定義はなんだ?

 哲学者だ。

 哲学者って何について考えてるんだ?

 実存か?

 理性か?

 そんなものを考えてる自分自身か?

 自分自身の存在を定義する世界か?


 いろいろ考えてはみたものの、どうしても、81桁には足りない。


「いかん、集中力が切れてきたな」


 コーヒーのお代わりでもと席を立ったが、派手にこけた。

 いっそのこと一眠りした方がいいかもしらん。


 コップを捨て、席に戻ってきたおれは、目を疑った。

 ディスプレイが派手な祝賀メッセージで埋まっている。なんだこれは。なぜおれが最速解読者になっている?


 慌ててログを漁り、おれは笑った。笑うしかなかった。

 さっきこけた時に偶然スペースをきっちり81桁分、そしてエンターを押していたとは。

 そりゃ偶然や虚無に意味を見いだそうとするのは、確かに人間くらいなものなんだろうが。

『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』に参加しようと考え、最初に思いついた話ですが、書き上げるのがどんどん後回しに。

その間、主人公をライバル視しているクラッカーとか、「オレはもう5年も解析に取り組んでるんだ!」と叫ぶ無精髭男とか、いろいろキャラクターが湧いて出ましたが、1000字という字数制限の前に、片っ端から没になりました。

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