【未完】漆黒をも照らす月明かりの下で中後編
日課になっている射撃練習をしようと射撃場に足を踏み入れたその刹那、響き渡る怒声が俺の耳をつんざく。
「アルトゥール、貴様、その図体でなんだそのへっぴり腰な射撃姿勢は」教官の怒鳴り声あぁアルトゥールは自分の傍で射撃音がするのが苦手だからなるべく体から少しでも遠ざけようとするから不格好な射撃姿勢になるんだよなぁ胸中で同僚に同情しつつあの不格好な射撃姿勢であんだけ正確な射撃が出来てるんだから教官もそんな揚げ足取りばかりしてないで、アルトゥールの射撃の讃えてやるくらいのことをすればいいのに教官に対する不満と同僚に対する称賛をそっと漏らす。
「お前らにはペイント弾を使った市街地での模擬戦を行ってもらう。」教官の有無を言わさぬ宣言が響き渡る。近場からオーッと勇ましい雄叫びが上がるが息を吐き切った直後であったため声が出せずに、乗り遅れるなんとも締まらない開始になっちまったな。
小雨が降頻るどんよりと重く立ち込めた低い雲のせいなのか、息苦しくさえ思える湿気を多分に孕んだ重苦しい空気。の中支給されたペイント弾を愛銃ドラグノフに装填する。愛銃を丁寧に緩衝材愛銃の形にくり抜かれている緩衝材に愛銃をはめ込むように収納し、自分の身長と大差ない大きさのアルミ製のケースを背負い直す。ちっ雨か身を隠す分には視界不良になってくれる分にはやりやすいけどな。狙撃の邪魔でしかないしな。潜む場所が水溜りになったら面倒なことこの上ない。よく訓練の為にこんな大掛かりな施設を作ったもんだよな、驚嘆と呆れが入り混じった感想を吐息と一緒に漏らす。この訓練場の為に一つの街を買収したらしいとも聞いた国から資金を受ける国立機関だけのことはあるってことだろう。感心ばかりしてらんないよな。銃のケースを地面に引き摺らないように気を遣いながらこの長さは隠密行動には不向きだよなぁ言ってもしょうがない愚痴を肺いっぱいに溜め込むような心持で深く息を吸い込む。その愚痴も一緒に吹き飛んでしまえと願いつつ。肺の空気を全て吐き出すような強さで息を吐き出す。「模擬戦開始っ」訓練場に幾つも設置されているスピーカーから大音声
それを力に変えられるほど単純な物ではないだろうが訓練場で一番高い建物訓練場の東端に設営した自軍である青軍の野営地からほぼ訓練場の中央にそそり立つ訓練場の中で最も高い建造物であろう時計塔に向かって全速力で走る。ある程度警戒しながら市街地ならではの建物に囲まれた狭い路地をあえて選びつつ逸早く狙撃ポイントを確保することだけを優先する全速力の
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東端の自軍の野営地に重い足を引き摺るようにして戻って来た。重い足を引き摺るようにしてやっと戻ってきた野営のテント群でカモフラジュ用に使っていた湿って粉塵をまぶしていたためにかなり重くなっていた布地を剥ぎとるように脱ぎ捨てる。それを目ざとく見つけてリャ同じ青軍の連中が集まってきてアレクセイ、なんていう格好で帰ってきてんだよ
、「仕方ないだろ、身を隠すのにこれ以上最適な方法がなかったんだから。」精一杯反論してみるが「お前
これじゃあ童話の灰被り(シンデレラ)みたいじゃねぇ。」
」「これからお前のことをシンデレラスナイパーって呼んでやるよ。」嘲笑が浴びせられる。
「シンデレラスナイパーって、どんだけ乙女チックなんだよ。」ミハイルが口火を切った途端一斉にワッと歓声が上がって笑いの渦に変わっていく。アルトゥールも朗らかに可笑しそうに笑っている。シンデレラスナイパーか、とんでもない二つ名をもらっちまったな、内心頭を抱えていた。
【輸送車の中で】
「もしもし母さん、俺、アレクセイ突然ごめん、」「もしもし、そんなことはどうだっていいんだよ電話が突然なのは仕方ないことだろう、電話してきたってことは何かあったのかい?それに元気でやってるのかい?」「うん俺は元気だよ母さんこそはどうなの?特に何もないよ、母さん元気かなって思って」「あんたに心配されるようなことは何にもないさ元気なことだけが私の唯一の取り柄だからガハハ、何かあるんだったら変に誤魔化すんじゃなくてとっとと言っちまいな。」敵わないなぁ、全てお見通しか。「うん今度戦地に行くことになってね。何にも教えてもらえない状態で行くことになるから、聞ける内に母さんの声を聞いいておこうと思ってさ。」「縁起でもないことをいうんじゃないよ。そういう時に電話したくなるいい女はいないのかい?」「情けないねぇ」「仕方ないだろっ」「まぁ冗談さ、無事に帰ってきて顔を見せておくれ、それでいいよ。あんたが所帯を持って孫を見せてくれるのはずーっと先の楽しみとして期待しないで待ち続けることにするよ。」「俺にだって彼女くらいいるし馬鹿にすんなよな。」「ガハハハッ期待しないで待ってるよ。」豪快ないかにも母さんらしい笑い声を聞いて、死の恐怖で凝り固まった、気持ちが解れる気がした。「おい貴様、こんな時に電話なんてたるんでるんじゃないっ」立ち上がって近づいてきた上官に唐突に殴られる。右頬に感じる灼熱感に思わず握っていたスマートフォンを取り落とすその行方を目で追っている内にも遅れて口の中に広がる鉄の味に何故か心が冷める心地で
痛みの為に芽生えた苛立ちをそれが凌駕したのか、苛立ちに任せて他の行動に移すことなく上官を睨むだけで留めることが出来た、口内に感じる不快感を拭ってしまいたくて右手の甲で口を拭う、案の定手の甲に擦れ滲んだ血の痕が一筋着く。「士官候補生様はママに『どこそこに行くんでちゅ~』って報告しないと、遠出も出来まちぇんか?」ドッと下卑た笑い声が巻き起こる嘲笑混じりな為に気分が悪いが、努めて態度に出さないように前方を見据えていると、隣りに座っているミハイルに「アレクあんなの気にすんなよ。なんか後から合流した奴らって柄が悪いよな」と話しかけられる。「うん、ありがと」小さくそう返しながら、本当にその通りだと思う。別に士官学校上がりの面々もお行儀が良いと言える連中ではないが、新任達の素行の悪さは目に付く。同じ部隊に配属された手前態々事を荒立てることはあるまいと目を瞑っているが、元囚人という噂は強ち間違ってないのかもしれないなと思ってしまう振る舞いでもある。
「そんな小汚ねぇ銃を大事そうに抱えやがって。本当に戦場で使えんのかねそんなオンボロ」
「あんたの脳天に風穴が空くかどうかで試してみるかい
?」相手の額に銃口を突き付けながら問いかける。「おいやめておけってアレクセイなんで銃をバカにされるとキレるかね。」
そう言いながら俺の銃口を下に向けさせミハイルが仲裁に入ってくれる。
「父さんが遺してくれた唯一の形見だから。」口を尖らせるような心地で言い訳じみてその言葉を呟く以外のことは出来なかった。
」
「アレクセイ、銃床に何か彫られてるぞ。」「えっミハイル本当か?初めて知ったよ。」「文字のように見えるな。」
「本当だ。」『ドミラパヴリチェンコ』と刻まれている。
父親が彫ったの「これから一緒にやっていくんだから争いごとはやめようよ」のんびりした口調で俺達と因縁をつけてきた連中との間に割って入ってくれたのは身長が2メートルを超える高身長な男だ。割って入ってきた口調の通り非常に穏やかで気のいい奴だ。その体格は力で威圧しようとする連中を黙らすのにうってつけではある。アルトゥールという人の好さそうな笑顔で常にいるこの男の丙種は衛生兵である。格闘術に秀でていて、体格にも恵まれたこの男が好んで衛生兵を選んだ理由を問われれば俺みたいな体格の人間なら一度にに沢山の医療物資を運搬出来るだろう、なんて照れながら、語るような優しい男だ。ミハイルと同じく、リャザン空挺軍大学で共に学んだ同期でもある。
」
立ち寄った野営地で急遽輸送車に乗り込んできて合流した上官「これからこの隊の指揮を執ることになった」
引き連れてきた連中はだらしなく軍服を着崩していて軍事訓練を受けたなんて信じられないほど統率がとれておらずに、異物が混ざりこんだ気持ち悪さがあったいくら同じ格好をしていようが
「貴様らここで車輌を降りてこの街で好きに奪って破壊の限りを尽くしてこいっ」上官がそう叫ぶ。折り曲げた人差し指を噛んで膝を抱えて座っていたアルトゥールが急に立ち上がって「本当にそれが軍上層部の指令なんですか?」「此処にいる人達は只の民間人じゃないですかっ」「貴様っ上官に逆らうのかっ」アルトゥールの上背に少々怯んだのか上ずった声で上官アルトゥールが声を張り上げるところなんて今まで見たことがなかったから傍で見ているだけの俺も竦み上がるような思いだったから声が上ずってしまった上官の気持ちも分からないでもない。
「さぁ野郎ども行こうぜっ」勇ましく雄叫びを上げつつ輸送車の荷台から流れ落ちる渓流の流れのようにそのまま街へと雪崩れ込んでいく。
軍人というよりならず者といった雰囲気軍服を纏ったところで隠しきれないものを醸している
囚人が俺たちの隊に紛れこませられるんじゃないかと噂されていたがそれを裏付けるかのような素行の悪さも目に付く。囚人を俺達の隊に合流させて、不足している人的資源を補充するという噂は奴らの姿を見ると間違いないのだろうと思える。本当の戦闘になったらまともな訓練も受けていないような連中が戦えるとは思えないが、民間人相手に略奪するだけなら、人の命を奪うことには躊躇いがない連中でも事足りるのだろう。
「あの連中放っておくわけにはいかないよな。」すぐ傍に腰を下ろしたままで動く気配のない俺たちに
業を煮やしたらしい新任の上官が「お前らもあいつらを見習ってとっとと街を襲撃して来い。「我々はこの地に取り残された同朋達を保護しろ」との命を受け、この地に赴いております。あまりに予め受けた指令と違い過ぎて承服致しかねます。」ミハイルがピシャリと言い切ってくれる。「貴様っ上官に逆らうつもりかっ」新任の上官は精一杯威厳を示そうとしているのか胸を張りミハイルを見下すような視線を向けている。「僕も承服出来ません。」頭上からぬっとアルトゥールが割り込んでくる。新任の上官があからさまに顔色が悪くなってアルトゥールは少し落ち窪んだ目をしているから見下ろされると普通の背丈の人間からは全く目の色を窺えなくなって普段の柔和な印象を受ける目が見えず、纏う雰囲気がただただ威圧的になる。sの状況も便乗するのは卑怯だなとは思うが「俺も承服出来ません。」追随する。
【略奪の章】
「おい、貴様ら目的地に着いたぞ。此処にいる連中は我がこの地に残ったロシアの同胞を不当に弾圧した奴らだ抵抗する奴がいたら容赦なく殺してよいっこの地にあるもの全て同朋から搾取したものだ全て奪い尽くせっ。」あの癪に障る上官が俺達に叫んだ言葉を皮切りに輸送車の中で犇めき合っていた俺達を野に解き放つ。うぉぉぉお野蛮な咆哮を上げつつ市街地に男達が雪崩れ込んでいく。違和感を感じずにいられなかった、俺達は散々敵領地で孤立している同胞達を救援して開放する為に派遣されると何度も何度もしつこいくらい説明を受けてきた。俺が輸送車の荷台から降り立ったここはちっとも武力衝突があったように見えない日常生活がおくられている市街地に武装した一団がいる光景は自分もその一員であるにも関わらず異様さは際立って感じる。それも他の連中も同様だったらしく、勇ましい咆哮は尻すぼみになって先頭を切って駆け出した面々も立ち尽くしている。「貴様ら、何を立ち止まっているかっ」上官が輸送車の荷台から威勢のいい声を張り上げている。「今しばらくすれば自軍の絨毯爆撃が始まる。その前にこの街の物を好きなように略奪して良しっ」「そういうことなら」先頭集団の連中は下卑た笑みで上官の滅茶苦茶な支持を承諾すると最初の勢いを取り戻して駆け出す「アレク、俺達はどうする?」ミハイルに訊かれて反射的に答えてしまう。
「後を追おう。あまりに残虐なことをしているようだったら力づくででも止めよう。」「そうだな、よしきた。」宿営地を建設してから戦車隊に再編入される予定であるはずのミハイルを白兵戦の恐れがある場所に同行させることに不安も抱くが、先頭集団にいた連中が顔馴染みでない奴らだったことが気がかりで行動に移ることを優先してしまった。
俺達が先頭集団の連中を見つけたことで追いついたと思えた瞬間には派手にガラスが割れる音とアサルトライフルの連続した銃声が響いていた。割ったガラスは商店の大きな窓ガラスだったらしく、大きな窓枠を乗り越えて、数人が店内に侵入していく。狙撃銃は背負ったままだが建物の中に入った後戦闘になったら取り回しに難儀するのが目に見えているので、ベルトに括りつけられているホルスターに拳銃が収まっていることを手探りで確認する。窓枠に
ガラスの破片が残っている場所を避けてアレクセイも窓枠に手をついて、飛び越える。もっと丁寧にガラスを割らないと危なくて仕方ないだろ、内心で悪態を吐きながら。店内からきゃーと甲高い女性のものと思える悲鳴が聞こえてくる。
「おい民間人に何をしてるんだ?」女性を取り囲んでいる男達にむかって声を掛ける。「なんで民間人なんて分かるんだ?」「」「裸に引ん剥きゃ一発だがな」下卑た笑いが折り重なる女性の縋るよう助けを求める視線を俺は無視出来ない「その人から離れろ。」拳銃を貫いて構えながら「おいおいシンデレラ野郎、、文字通り温和しく王子様のお迎えを待っていた方がいいんじゃねぇかヒーロー気取りか」嘲笑で溢れる。「やっぱりそのオンボロはただの飾りか?」「狙撃銃を狭い所で振り回す馬鹿はいないだろ?」拳銃をホルスターに戻して「あんた達が俺より強いって言うなら温和しく援軍を待っていてもいいんだけどさ。弱い奴相手にその待っている時間勿体ないだろ?」ダッシュで手近な相手に肉迫する銃を構えている左手の手首を右手で掴んで抑えて真下に引くようにして伸びきった状態にした肘目掛けて左手で下から掌底を叩き込む。うめき声を上げながら崩れ落ちる男の横で呆気に取られている男の膝を正面から硬い軍靴の靴底を叩き込む。その蹴り足を少しずらして地面について踏み込みにすると腰から小振りなナイフを抜き放ち、膝を蹴り飛ばした男の真後ろにいた男の懐をとると、ナイフを銃を握る手の甲に突き立てる。それで二人の男が蹲る。銃を取り落とす「俺達と遣り合うつもりかっっ」「あんたら大丈夫か被害が出ないと敵対してることに気付けないなんて。戦場に立つ気構えって奴が出来てないんじゃない?」「ほら待っている時間なんて無駄だろ?」
「おいてめぇ味方の俺達になんてことをしやがる」震える銃口をこちらに向けて喚いてくる男を一瞥すると「民間人に非道を働こうとする味方なんて持った覚えはないんだけど。」男の手の甲に刺さったままだったナイフを引き抜いて、ナイフの切っ先を銃
を向けてくる男に向ける。「馬鹿じゃねぇか、この距離で銃がナイフで拳銃に勝てるわけねぇだろ。」男の言う通り部屋の中央辺りに立つ俺と部屋の隅に立つ男の距離は圧倒的に拳銃が有利な距離だ。「まぁそうとも限らないから世界は面白いんだけどな。」柄にあるボタンを親指で押す。強靭なバネに弾かれたナイフの刀身が一直線に飛んで銃を構える男の左肩に突き刺さる。
「覚えておくといいロシア製のスペツナズナイフは刀身が飛ぶんだ。あんたがそれを役立てられる機会はないだろうけど。」「おい、貴様何をしているか」癪に障る上官が怒鳴りながら部屋に入ってくる。拳銃を突きつけられている為に両手を頭の高さまで持ち上げて抵抗の意志がないことをしめしてみせる。連中に捕まりそうになっていた女性がいつの間にか見えるところからいなくなっていることに幾分安堵しながら、成り行きを見守ることにする。「おい、貴様ら動ける奴はいないのか?」上官が呼びかけると蹲っていた男達がノロノロと痛む箇所を摩りながら立ち上がってくる。ちっ殺しておくべきだったか非情になりきれなかった自分を責めるが後の祭りだ。明らかに相手と自分に力量の差があると確信していた為に殺すまでなく無力化しておけば問題ないだろうと高をくくったが為にこんなつまらないことで命を落とす必要はないだろなんて思ってしまったことが裏目に出てしまった。「てめぇよくもやってくれたな。」怒りに満ちた目で睨んでくる。「この男を縛り上げろ。」腹いせに腹や太腿に蹴りが飛んでくる。手を上げて無抵抗の意思を示したままその蹴りに曝された為に痛みで崩れ落ちる。組み伏せられ、上官が投げ置いたロープであっという間に縛り上げられてしまう。「おいこいつをその部屋にでも閉じ込めておけ。それが終わったら物資を好きに略奪してきていいぞ。」「おいそれが軍として正式な命令ってことなのか?」俺は絶望的な心持で訊く。
「俺は輸送車の上でそう告げたつもりだが」「略奪なんて許されるのか?」「現地調達なんてこれ以上に効率的な方法はないだろ。」「許されるわけないだろ。俺達は誇り高いロシア軍人だぞ。盗賊の類じゃないだろっ」
「馬鹿か誇りなんぞで腹が満たされるか」「上層部から許可が出ている略奪なんだぞやらないなんて勿体ない選択が出来るかっ」その言葉を打ちひしがれる心地で聞いていた。今の自分の有様と同じくらい無様だ。
埃まみれの床に手荒に転がされる。歯痒さと口惜しさで縛り上げられた両拳を堅く握り締める。奥歯を折れよとばかりに歯を食いしばる。。俺が信じて板軍隊はないんだな、自分の信じた正義はいかに薄っぺらいものだったかを思い知らされながら。いや、俺が憧れた偉人
はこんなものじゃない抗ってみる。無駄な
葛藤かもしれないが認めるわけにいかなかった。自分のなりたかったものは略奪者なんかじゃなく、弱気者を
守れる存在なんだ、軍隊画素の在り様を変えたところで揺らいじゃいけないものだ母親を一人故郷に残して
こんなところまで来たのは、そんな汚名を着るためじゃない。身体の自由を奪われようとも、意志を曲げられたりしない。所属する軍隊が例え糞みたいなもんであっても俺までそれに染まってやるものかっ。
「や、や、めてくれ。」怯えて懇願する声が聞こえてくる。「おいおい物資がこれしかないってわけがないだろっどこに隠しやがった」「俺は女が欲しいんだよ」「どこに匿いやがった。逃げ出したあの女しか女を見かけてねぇ、そんな訳ねぇよな。何処にいて何処にあんだよっ
「痛い目にあいたくなかったらとっとと喋れっ」怒声と鈍い衝突音と呻き声が静まり返った。納屋みたいな部屋に響いてくる。
てまを
「ほら、とっとと中に這入れよ。手間をかけさせやがって」男の怒号とともに女性のひっという短い悲鳴が聞こえてくる壁一枚挟んで,起こっている事の為詳しい状況は分からないが、薄い壁越しに聞こえてくる話し声、物音等で判断することしか出来ないがあの女の人は逃げ切れなかったか、「お父さん大丈夫?」
「おい、娘に何をするつもりだっ」男の悲痛な叫びがこだまする親父さん心配する気持ちは分かるが弱みを晒すのは、よい策ではないな。胸中で男性に語りかける「」「ああぁあんたは強情そうだから娘さんを裸にひん?いていいことをしているところをあんたに見せつけてやろうと思ってな。」ほら、こういう最悪なことを思い付きそうな奴らなんだよ男性に対して愚痴を零す心地で貴様の処遇をどうしてやるかな。あの癪に障る上官が見下しながら部屋に入ってきて嘲るように言ってくる。他人の心配をしている余裕がない状態だった、上官はすぐそばまでよってきて爪先で小突くような強さで顔面を蹴ってくる。「おいおいなんだその反抗的な目は。」腹を思いっきり蹴り上げてくる。ぐぅ強制的に吐き出される息に呻き声が乗ってしまう。「いつまでその反抗的な態度でいられるかな。」「上官殿、この女、思わぬ上玉ですぜ、そんな裏切り者、放っておいてこっちで楽しみましょうや。」軍人の俺が民間人に対する拷問のおかげで救われてどうする?絶叫したい想いを噛み殺すような心持ちで奥歯をぎりぎりと食い縛る。俺のそんなおもいと真逆の軽い足取りで「おい、待てよ、民間人に何をするつもりだ」絞り出した制止の声を無視して、「おいおいまだそんなことを言っているのか馬鹿じゃねぇか?」「あいつらならまだしもれっきとした軍人であるあんたが軍人の風上にも置けないような真似をすんなよっ」「くっくっ上層部からこの地が我が軍の爆撃によって廃墟になる前に奪える物は奪い尽くせという指令が出ている軍人だから上層部に素直に従うのだろう?」嫌味で締めくくって、軽い足取りで上官は部屋から出ていく。
】
これは厄介だな。内心溜息を吐く。
見上げる複雑な構造をした建造物を前にして
狙撃手のことは狙撃手が一番分かるだろって言い分は理にかなっていることは認めるが狙撃手に白兵戦して来いって命令はいかがなもんなんだろうね。ぶつける相手がいない皮肉を胸中でぼやきつつ
あまり上手じゃないロシア語でこ子ども達と書かれた大きな白く薄汚見覚えのあるれた布が壁に貼付けられているこの布は?僕達を守ってくれた御守で父親の形見だ生き残る為の希望でもあるあんた達の暴虐から
ビル屋上から狙撃した亡骸を子供達の布を持った一団が回収する話街から逃げ出した後でウクライナ人に復讐されると怯えた結果結局民間人を狙撃することになった。
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【ビル最上階から狙撃する章】
この製鉄所を目指している途中でビルで狙撃することになる
自分がもたらした惨たらしい惨状から逃げ出すように闇雲に街から逃げ出す。狙撃手として鍛えられた歳月の賜物で目に付く最も高所を目指して駆け出す。死にたくない怖い怖い怖いって感情に支配され罪悪感に現実逃避で蓋をして生存本能を言い訳にして遮蔽物を活用できるように中腰で出来るだけ速く移動すると背筋を伸ばした瞬間こめかみを狙撃される気がしてただ中腰以上身体を起こせなかったというだけでその姿勢のままに製鉄所のそばの地面の瘤になっている場所にうつ伏せになってガーガーと鳴る無線から「製鉄所から激しい抵抗
↓ビル屋上から狙撃した亡骸を子供達と書かれた布を持った一団が回収する話街から逃げ出した後でウクライナ人に復讐されると怯えた結果結局民間人を狙撃することになった。
【大病院の避難所】
灰塵と化した街中の石畳の路を石畳の路を明るい空色のダウンジャケットと同じ色のツバと耳あてのある帽子を被った年端も行かない子供がワンワン泣きながら独りで繋いでくれる手を探すように開いた掌を中途半端に差し出し所在なさげに彷徨わせつつ、を明るい空色のダウンジャケットと同じ色のツバと耳あてのある帽子を被った
よちよち歩いている姿からを目が離せなくてジッと見守り続ける。保護すべきか?と考えるより早く反射的に駆け寄りそうになる自分自身を制止する俺が胸中で上げる絶叫「俺達が侵攻してきたせいでこんなことになっているんだろうが自作自演みたいな真似をしてヒーロー気取りかっ」自身の心の声であるが、あまりに的を射過ぎていて。二の足を踏ませるには充分だった。
だぁぁくそったれ俺自身にこびりついている柵とかそういったものを振り払うように絶叫しながら駆け出す。そのまま子供を肩に担ぎ上げ子供はさらに鳴き声を大きくして喚くが。そのまま走り続ける。「俺の言っていることが分かるか?」うん返事が返ってきたこと二安堵しつつ「親御さんが何処にいるか分かるか」「ううんお兄ちゃん達は病院に行くって言ってた。」「製鉄所?」「病院は建物が頑丈だから安全だって言ってた。」
避難所になっている大きな病院に一度寄って子どもを一度預けてビル最上階と製鉄所へ病院に非難している人に製鉄所の話を聞いて子どもを一旦預けて製鉄所に向かう。
狙撃銃を背負ったまま避難所に立ち寄ったりしたら、避難所にいる人々にかなり警戒されるんじゃないかと不安に駆られる。このロシアの軍服も警戒の対象だよな、自分の格好を見下ろしながら肩に担いだ子供を病院の傍の物陰にそっと下ろしながら「ぼく、なんて名前なの?」「アンディ」「アンディは泥んこ遊びは好きかな?」「俺のこの服を泥だらけにしたいんだけど手伝ってくれる?」「いいの?」始めて満面の笑みで賛同してくれることに安堵しつつ。自分自身でも泥を掬い全身に塗りたくっていくいくアンディが嬉々として泥をぶつけてくる様子を微笑ましく見下ろしていた。灰かぶりスナイパーから泥まみれスナイパーに変更してもらわなきゃな
ついつい微苦笑が漏れる「お兄ちゃん泥んこになってよ喜んでるの?変なの。」「こんな変なことに付き合ってくれてありがとね。」「泥をいっぱいぶつけられて楽しかったからいいよ。」背負っていた狙撃銃を病院の壁の窪みになっている部分にそっと立てかける。「病院の中に行こうか」そうアンディに向かって右手を差し伸べると嬉しそうに両手で掴まってくる、おかげで手の甲まで泥塗れになるが頻りに撫でるように掴まっている様子は微笑ましくて、まぁアンディが安心してくれているようだから、帳消しかな。そう自分を納得させることにする「お兄ちゃんあれ忘れてるよ。」アンディが
窪みを指差して教えてくれる。「うん、あれは人を怖がらせちゃう魔法の棒だから、病院にいる人達を怖がらせちゃうからあそこに置いていこうかなと思ってるんだ。教えてくれてありがとね。」
左肩から失くなった重さに身軽になった何て気楽さより頼りない不安が増すがアンディ不安にさせたくなくて作り笑いを浮かべてみる。うまく笑えている自身がなくて、両掌で両頬を持ち上げてみる。顔まで泥だらけになる。
「お兄ちゃん、顔まで泥だらけ。僕もやってみようかな」アンディが自分の掌に残る泥を顔に塗ろうとする。「アンディちょっと待って顔が洗える水があるか分からないから。」泥塗れの俺の顔を見上げニコニコしている大病院らしく、その外周はかなり距離がある「アンディ疲れてない?」まぁこんな有様だから抱っこ模してあげられないけどな。自分自身の迂闊さを呪いながら、「ううん大丈夫」健気に首を振る様を見て頭を撫でたくなるが泥だらけの掌をぐっと握り締めて。「おんぶしてあげよっか?魔法の棒をずっと背負っていたからなんか背中が物寂しくてアンディが乗ってくれると嬉しいんだけど。この病院広すぎて俺と同じ目の高さで入口を一緒に探してくれると嬉しいんだけど。」いいよ、と大きく頷いてくれたのを見て、アンディの目の前にしゃがむ。アンディがよじ登って来てくれるのをじっと待っているとアンディの両手が俺の肩にかかったのを確かめて。両掌の泥をズボンの太腿にこすりつけてある程度落とすと、アンディの小さなお尻を両手で支える。病院の正面玄関は大きく張り出した庇の下本来ガラス張りの自動ドアだったのかもしれないそこには机や大きな瓦礫等で築かれたバリケードのようなもので内と外と完全に隔てている。「すいませんここに非難している方々はいらっしゃいますか?」大きな声で呼びかけてみる。「おまえは何者だ」姿を見せずに堅い声で警戒心がピリピリ伝わってくるような声で返答がある。「幼いお子さんを保護したので一緒に匿って頂けないかと思いまして」「バリケードの隙間からアンディの顔が見えるようにおぶったアンディを背負い直してお尻を支える両手で僅かにアンディの体を押し上げる。「子供を預かるのは問題ないが、一つこちらの願いをきいてくれないか。ここから西方にしばらく行った所に製鉄所があってウクライナ軍の残った連中が籠城しているらしくてな」そこには地下シェルターがあるらしくこここに避難している人間百人程が受け入れてもらえそうか確認してきてほしい。」「その確認をとれるまでの間その子供をここで預かろう。」バリケードの隙間から顔を覗かせた男にそう言われる。「アンディ、ちょっと降りてもらっていいか」しゃがんでそう背中に声を掛けてうんという元気な返事をもらってから両手から重さがしょうしつ失くなったことを確認して後ろに回していた両手の力を抜いてアンディに向き直る。「アンディこの病院で待っててくれる?必ず迎えに来るから
」「本当?お兄ちゃんまで僕を置いてどっかに行っちゃわない?」「あぁそんなことをしないって約束する」両太腿の脇に両手を擦り付けて乾いて多少は固まった泥をこすりパラパラと落とす。そうして、アンディの両脇に手を差し込んで持ち上げてバリケードの上の隙間から病院の中にいる男にアンディを手渡す。中の男が差し出した両手二アンディの両脇を託すように手渡す。「お前もあの男のように医療物資を携帯しているのならそれを置いて行ってくれないか、我々も補給の手段もなく、ここに立て籠もっているから常に物資が不足しているんだ。あんたがこの子を迎えに来るまでの代金だと思って渡してくれると助かる。」告げてきている内容は強請でしかないが男の必死さに心打たれるものがあって温和しく手持ちの医療キットを手渡す。
「ちゃんと迎えに来てね。」「あぁ約束する。」病院の中にいる男に抱えられているアンディに向かってそう答える。
アンディと一緒だった時はアンディを守らなければということで必死だったから独りになると急に不安になってくる。
アンディと一緒だった時はアンディを守らなければということで必死だったから独りになると急に不安になってくる。その不安から逃避出来るものを求めて
病院の壁の窪みに立てかけた愛銃に縋りつくような心地で駆け寄る、拾い上げて、背負う。馴染んだ重みが肩に食い込む、アンディがいてくれた背中より幾分頼りなく感じられる。アンディの方がもうちょっと重かったしなアンディの方が温かみがあったしな、愛銃とアンディとの違いを羅列してみるが今こんなに自分自身が頼りなく手不安に駆られるのかその理由が見つからなかった。不安で不安で仕方がなくて、何度も何度もきた道を振り返る路なんてないがをエプロンのようにかけている胸の前のバックからコンパスを取り出し方角を確認してコンパスをしまって、西に向かって歩き出す。その目線の先に奇跡的に倒壊していないビルが目に留まる。あのビルに昇れば追手がいれば確認出来るはず当面の目標を立てる事が出来て自分が酷く喉が乾いている事を漸く自覚出来る。辺り一帯に元は何だったのか分からない瓦礫が腰辺りの高さまでに折り重なった山が点在している手近な瓦礫の山の物陰に身を潜ませるようにしゃがみ込んで、胸のバックから水筒を取り出して一口呷るまだまだ?み足りないが、この先いつ飲料水が補給出来るかが全く見当がつかなかったから一口だけで我慢することにする口の端に残った水分を右手の甲でグイッと拭う。夏場の行軍訓練なんかよりずっと今の方がマシだからなリャザン空挺大学での行軍訓練は目的地を伝えられず、教官が独自に勝手に定めた数時間延々と歩き続けるというものだった残りあと半分だからなどといった気合の入れ直しが全く出来ずにただただ只管黙々と歩くしかなかった苦しかった思い出ばかりの当時の訓練もこうして役に立つのなら無駄じゃなかったってことだよな。もっと辛い経験をしたことがあるって体験は極限状態で踏ん張る力になるもんなんだな。決して好きになれる場所じゃないが、リャザン空挺大学に胸中で感謝する。たすかりました、ありがとうございます、と。
目標にしていたビルを目の当たりにすると今にも崩れそうな半壊具合に愕然とする。狙撃するとしたら、屋上のすぐ下の所々壁が残るあそこが最適だろうな見上げながら七階のフロアに目星をつけて、ビルの中に入る。こんな状態じゃエレベーターが動いてるわけないしな、意気消沈してがっくり肩を落とす。ここまでの行軍の疲労で肩で息をする。
あの町で俺たちがしでかしてしまったことは
あそこの住人全員から復讐されても文句を言えるものではないから、怯えてその恐怖の対象の芽を摘んでいくしかなくて容赦なく命を絶つ以外の方法を考えている余裕なんかなかった。
この製鉄所を目指している途中でビルで狙撃することになる
自分がもたらした惨たらしい惨状から逃げ出すように闇雲に街から逃げ出す。狙撃手として鍛えられた歳月の賜物で目に付く最も高所を目指して駆け出す。死にたくない怖い怖い怖いって感情に支配され罪悪感に現実逃避で蓋をして生存本能を言い訳にして遮蔽物を活用できるように中腰で出来るだけ速く移動すると背筋を伸ばした瞬間こめかみを狙撃される気がしてただ中腰以上身体を起こせなかったというだけでその姿勢のままに製鉄所のそばの地面の瘤になっている場所にうつ伏せになってガーガーと鳴る無線から「製鉄所から激しい抵抗を受けており製鉄所を制圧求むという」必死の無線を聞く。
これを利用すれば敵前逃亡をチャラに出来るんじゃないかって思惑が生まれる。単身製鉄所に乗り込むことを決める、ウクライナ側の奴らは所詮民間人に毛が生えた程度だろう。そう、高をくくったことで乗り込むことを決意出来たところもあった
」
【狙撃の章】
はぁはぁ息切れした自分の息遣いがあまりに耳障りで、腹這いの姿勢で両手で体を持ち上げてコンクリートの床と胸の間に肺を脹らます為の隙間を作って意図的に深く長い呼吸を心掛けて呼吸を整えることに努める。自分が駆け上がってきた階段を無理な姿勢で振り返って確認する。駆け上がってくるような足音もないことを確認してそのおかげで追い詰められた圧迫感が和らいだ気がして反撃しようという気力が漲る。
さっきまでの腹這いは追跡者から身を隠すためのものでしかなかったが、気持ちを切り替えられたことで狙撃手の俺にとってこの姿勢はファイティングポーズだしな。そう思えるようになる。狙撃銃の銃床を右肩にあてがい銃を構える。俺は逃亡者じゃなく狙撃手だスコープを覗いてそう強く念じる。スコープの中に人影を見つける度にこの距離があるうちに蹴りをつけないとまた逃亡者に逆戻りだと焦燥感に身を焦がしながら。そのせいで引鉄を引く相手を見極める作業が疎かになっていたことは否めない。スコープの中に収まった人影を見境なく狙撃してしまう。闇雲に狙撃して自分の潜伏している場所を特定されて教官に手酷くしっ責された新兵時を思い出してしまう。当時のような見えない相手に対する恐怖心に苛まれていると望んだわけじゃないが、狙撃手として様々な経験を積んだことによる分析のおかげでギリギリパニックを起こさずに済んでいるに過ぎない。近づいてきそうな人影を発見する度に狙撃し続けるという作業を淡々とこなし続ける。乱射したりしないのは訓練の賜物と言えるのだろう。感謝する気なんて起きずに軍人としてこのとしてこのウクライナに来たことがこんな事態に陥っている元凶だからな唾棄したくなる思いを押し殺して恐怖心に駆られるままなりふり構わずに逃げ出すことを堪えることよりる。習得した狙撃の腕を使って俺の命を狙う奴らを根絶やしにする方が容易いと思える。
スコープの中に人影を見つける度にこの距離があるうちにケリをつけないとまた逃亡者に逆戻りだと焦燥感に身を焦がしながら。そのせいで引鉄を引く相手を見極める作業が疎かになっていたことは否めない。スコープの中に収まった人影を見境なく狙撃してしまう。
丸くて狭い視界の中に入り込んできた人影の頭部を狙ってただ機械的に引鉄を引く。100千メートル程の距離があることで罪悪感が薄れるのか、躊躇いなく引鉄を引く事が出来る。確かな手応えを感じた弾道は間違いなく人影の頭部を打ち抜いたらしい、人影の頭部が何か衝撃を受けたように弾かれたように揺れて、どさりとその音は聞こえるはずはないながらその擬音のままに力なくその場に崩れ落ちる。
崩れ落ちた人影を丸い視界に収めたまま先程まで手応えと感じていた右手の人差しが齎してくれた胸が空く思いが嘘のように翳り、取り返しのつかないことをしでかしてしまった焦燥に覆われ、右手の人差し指から始まった小刻みな震えが留まらなくなる背中を冷たい汗が伝うのを不快に感じながら逆に顔が熱る吐き気がこみあげてくる中でそれに抗いながら必死に丸い視界の中に人影が持っていたはずと思い込んでいる銃火器を探す。
崩れ落ちた人影を丸く狭い視界におさめつづけているとパッと見は純白に見える大きな布が丸い視界の中に入ってくる。反射的に引鉄を引来そうになるがその布に赤いペンキでだろうか、キリル文字で『子供達』と書き殴られているのを読み上げた
途端引鉄にかかった指を引くことを思い留まれる。その白い布が倒れ伏した人影に近寄って覆い被さって丸く狭い視界の中に這入ってきた時とは逆方向から出ていく。その時にはもう倒れ伏した人影は姿形も失くなっていた。それを残念に思ったりする気持ちもなくて、
狙撃した対象を救護や支援しに来たを纏めて狙撃するのは定石なのだが骸を回収しに来た一団歯狙撃対象なのかどうか判断に迷う、そこにキリル文字で『子供達』と書かれた布の為に躊躇いではなく拒絶になってスコープ越しで動向を見守る事にする。スコープの狭く丸い視界の中に這入ってきた時と逆方向から出ていく様子を見届け、幸いこちらに近づいて来る様子がないことにそっと安堵する。あんな目立つ大きな布をどうするのだろうと思いながら見守っていると布を?ぎとると、数人の背丈の低い人影が現れる。あの大きな布は畳むでもしたのだろう、見当たらなくなる。
はぁはぁ息切れした自分の息遣いがあまりに耳障りで、腹這いの姿勢で両手で体を持ち上げてコンクリートの床と胸の間に肺を脹らます為の隙間を作って意図的に深く長い呼吸を心掛けて呼吸を整えることに努める。自分が駆け上がってきた階段を無理な姿勢で振り返って確認する。駆け上がってくるような足音もないことを確認してそのおかげで追い詰められた圧迫感が和らいだ気がして反撃しようという気力が漲る。
さっきまでの腹這いは追跡者から身を隠すためのものでしかなかったが、気持ちを切り替えられたことで狙撃手の俺にとってこの姿勢はファイティングポーズだしな。そう思えるようになる。狙撃銃の銃床を右肩にあてがい銃を構える。俺は逃亡者じゃなく狙撃手だスコープを覗いてそう強く念じる。追跡者を排除しなければ俺の身の安全もままならないからな
崩れ落ちた人影を丸い視界に収めたまま先程まで手応えと感じていた右手の人差しが齎してくれた胸が空く思いが嘘のように翳り、取り返しのつかないことをしでかしてしまった焦燥に覆われ、右手の人差し指から始まった小刻みな震えが留まらなくなる背中を冷たい汗が伝うのを不快に感じながら逆に顔が熱る吐き気がこみあげてくる中でそれに抗いながら必死に丸い視界の中に人影が持っていたはずと思い込んでいる銃火器を探す。
あの白い布は何だったんだろうという疑念は残りつつ狙撃しなくて良かったと小さく安堵の溜息を漏らす。「フンッ相手の国を侵略しておきながら数名の人間を手にかけなかっただけで何か成し遂げたような顔つきをされても自己満足の偽善としか思えんな。」場違いな可愛らしい声で唐突に罵倒される「ショーセイ、それって歯に衣着せない物言いとかそういう段階じゃなくただの暴言なんじゃない?」子供にしか見えない背丈で膝辺りまである長い黒髪をしたその背丈と不釣り合いに大きな物々しい鎌を小脇に抱えた人物が俺の脇で黒猫に向かってしゃがみ込んでそんな風に語りかけている。「どうやってこんなところに?
」俺は背後からの襲撃に備えて充分警戒していたはずだブービートラップを仕掛けることも考えたが、物資不足で諦めたが、このフロアに這入ってくるための出入口は一つしかないことを確認してその手前に細かな瓦礫を敷き詰め誰かが入り込んだら瓦礫を踏んづけてそれなりの音が鳴るようにしていた為に物音ひとつさせずに俺の傍に居れるはずがないと思っていた。「フンッ小生らのことをおんしらの人間という矮小な尺度で図ろうとするな片腹痛いわっ」「ショーセイ、お腹痛いの?大丈夫?」
「アヤツよおんし、茶化すな。雰囲気が台無しではないか。」「ショーセイの声で雰囲気何もあったもんじゃないと思うよ。」「煩いわっ小生の気にしていることをっ」「へぇショーセイ、気にしていたんだ」黒髪の人物が何かとっておきの悪戯を思い付いたような表情でそんなことを口走る。「フンッ声などというものは小生の偉大さを示す些末な要素の一つにしか過ぎんからな、この声で完全無欠とは言い切れなくなったことは無念に思うが、小生が如何ような声であっても小生の偉大さを損なったりせんからな。」「そういう言い回しは普段通りのショーセイだよね。可愛らしい声って認めていることにはちょっと吃驚したけど。」
「フンッその程度の些末なことでは小生の偉大さは揺らいだりせんからな。」「ジブンにはショーセイが偉大な存在というのは初耳なんだけど、不遜な物言いするなぁくらいには思っていたけど。」「フンッ何を言い出すかと思えば、小生の何処が思い上がって態度だけでかい、だっ」「小生の偉大さなんぞは一目瞭然であろう。それが見抜けぬ目が節穴なのだアヤツよおんしの目が節穴というだけの事であろう。」
制御室制御室らしき部屋の前を駆け抜けたところで「手を挙げて止まれ」と背後から声を掛けられる。「両手を上げたままでゆっくりうつ伏せになれ」と命令されてそれに温和しく従って金属板の床とに腹這いの姿勢になる冷えた金属板の冷たさですぐ拒否したくなる反射的な反応を抑え込みつつ。両手を少し浮かせて手を挙げた状態を継続させていることをアピールしつつ。胸に銃口が突きつけられていることを目だけ動かして見下ろし、確認する。相手の顔をまじまじと確認する、随分と若いな俺より十歳は若そうだ。もう若いというより幼いな気がするが少年と言っていい年齢だろう軍服を身に纏っているが着せられている感が否めない。肩肘張って無理して戦火となったこの地で精一杯生きている様子がどこか微笑ましくもある。それを表情に出さぬように気を付けながら相手を下手に刺激したくない。「訊きたいことがあるんだが教えてもらえるだろうか、ここに避難して来た人を受け入れている場所があるのだろうか?」「それを探りに来たのか?このロシア野郎。」「此処より東方にある病院に避難している人達に頼まれてここに非難出来るか確認させて欲しくて探りに来たって大筋違ってないんだが。」「なんでロシアの人間がそんなことをやってんだ?」「まぁ成り行きって奴だ。」「そんなの信じられるわけがないだろ。」軍服の少年が銃を突き付けたまま。俺の背後に回り込む。「両手を開いたままゆっくり後ろに手を回せ」それに温和しく従って後ろ手に手を回すその状態で両手首を感触からするとベルトのようなもので固定される。その状態で背中に何か押し当てられている感触がある場所を強く押される。「先に立って階段を降りろ。」
「その病院にたまたま保護したアンディって年端のいかない男の子を預けたくて、この製鉄所でさらに避難民を受け入れ可能かを確認してくることを条件にされたんだ」
「ちっなんだ、そのくそみたいな条件は」「病院の中にいる人達を守るのに必死なんだろうよ。」
金属板の床と階段を足元を確かめながら1番肝心な交わる部分が欠損しているためとは認識しづらいた1番肝心な交わる部分が欠損している不完全な×印の膨らみが一面にあしらわれているその金属板をこういったものはロシアでもウクライナでも一緒なんだな、そんなどうでもいいことに思いを馳せていた。危機的状況なのに暢気なもんだ自身二呆れながら。カンカンと金属板の床と軍靴の硬い靴底が打ち鳴らされる小気味の良い音が響く。
両手を後ろ手に拘束されたまま柱に縛り付けられ、その目の前に背もたれを前にした椅子に背もたれ二両肘を乗せた姿勢で軍服の少年が詰問してくる「ロシア軍はこの製鉄所をどうするつもりでいるんだ。」
「さっき言っていた幼い子の特徴を教えてくれる?
「あぁあの子は空色の帽子を被っってお揃いの色のダウンジャケットを着ていたかな。」
」
呼んで頂き誠にありがとうございます。