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お小遣いの行方


「円華。今月分もお小遣い、入金しといたからね」


 四月も二十日を過ぎた頃、母さんからそう言われた。


「……え? お小遣い?」


 ぽかん、として母さんに問い返す。


「そう、口座に」


 ……口座。


 ふ、と頭に銀行口座、という言葉が浮かぶ。そして、それが靄がかかったようにぼやけた。


 ――銀行。……お金を預かってくれるところ。

 円華はそこに口座を持っているのか。

 

「……私、お小遣いは毎月、振り込んでもらっているのだっけ?」

「そうよ。大丈夫? 中学に入った頃、あなたがそうしてって言ったのでしょう?」


 母さんが心配そうに私の額に手をあてた。


「そう……、そうだった、ね」


 私は微笑むと、母さんは安心したように手を下ろした。


「じゃあ、仕事に行ってくるから」

「ええ。行ってらっしゃい」






 母さんが仕事へ行ってしまうと、私は子ども部屋へ戻って一応机の中や押し入れの中を探してみる。

 案の定、見つからなかった。


「何やってるの、姉ちゃん」


 突然、ごそごそし始めた私に、凌久が不審そうに尋ねてくる。


「ねえ、凌久。円華はお小遣いを銀行に入金してもらってるようだけど。それ、普通なの?」

「さあ? 俺は現金でもらってるけど」

「通帳、とかどこにあるか知ってる? ……わけ、ないわね」 

「うん。カードはたぶん母さんが入金用に持ってると思うけど。通帳と印鑑は姉ちゃんが自分で管理してると思う。机の中とかないの?」

「見当たらないわ」

「記憶は?」

「お金関係に関しては、円華が隠してて。財布の中身以外、どこにあるかわからないの」

「……姉ちゃん、守銭奴だからなあ……。自分の前世の人にまで隠すのか……徹底してるなぁ」


 凌久は肩を竦めると、関わりたくない、とでもいうようにさっさと学校へ行ってしまった。


 うーん、と腕組みする。

 以前から、どこかに財布の中身の百六十二円以外のお金があるのではないか、と感じていた。ただ、お金関係は頑なに円華が記憶をブロックしている。

 いや、散財するつもりはないのだが、百六十二円ではノートと鉛筆を買ったら終わってしまう。たまたまストックがあったからここまでお金を使わずやってこれてはいるが。心許なさすぎ、なのだ。

 アルバイト代は当分先にならないと入らないし。

 日用品で足りないものなどは、言えば母さんが補充してくれるから不便はないが。シャンプーなどは自分で買っていたようで、細々したものを買おうとしてもどうにもならない。


 ――まあ、仕方ない。


 円華、あなたのお金には手を出さないから安心して。

 ただ、私が労働して手に入れたお金は自分で使わせてもらうわよ。


 仕方ないね、という声が頭のどこかでした気がした。


 と、いうわけで、未だに私の全財産は百六十二円のままだ。世知辛い。


 

 

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