譲さん、いつ寝てるの?
凛久、つっこみ回。
譲の睡眠の秘密について。
「久遠さん、俺常々疑問に思ってたことがあるんですけど……」
ある日、学校から帰った凌久は当たり前のように夕飯作りを手伝ってくれている久遠譲に尋ねた。
「なんだい?」
「久遠さん、学校行って、生徒会の仕事もして勉強もして姉ちゃんの食べる菓子とか作ってるでしょ? こうして合間にうちの夕飯手伝ってくれたりして。姉ちゃんの送り迎えまでしてるし。……一体、いつ寝てるんですか?」
「なんで寝てないと思うのかな? 一日は二十四時間もあるじゃないか」
「いやいやいや、二十四時間しかないんですよ! あのお菓子、たまにもらうけど、プロ仕様じゃん! 何時間かけてるの、って話なんですよ!」
ちなみに凌久は知らないが、円華関係の他にも他部の助っ人や、家の仕事の手伝い、それからちょっと人には言えない謎の活動(?)などにも割いている。勉強は前世の経験があるから、改めて試験勉強などをやるほどのことはないが、日々の課題などは僅かなりとも時間を取られるものだ。
「生徒会メンバーが食べるだけなら一種類で充分だし、それほどの量じゃないから。売り物作ってるわけでもないしね。二、三時間あれば充分だよ」
「二、三時間!? いや、週末の趣味程度なら別だけど、毎日だよ!?」
「仕事でもしてれば大変かもしれないけど、学生なんて午後三時には終わるし、六時か七時には夕飯だろう? そこから朝までまだ半分も残ってるじゃないか。いろいろできるよ?」
「半分……、え? 十二時間……?」
「そう。そのうちの二時間なんて大したことないよね?」
「そ、そうか……。いやいやいや、待って!」
凌久は納得しかけて、慌てて計算してみた。
まあ、例えば夜七時に帰宅したとしよう――実際は八時を回ることも多いが。
風呂や食事に一時間として。
譲が課題に果たしてどの程度かけるのかはわからないが、まあ、最低二時間かかるとする。菓子作りに二時間。読書や趣味、習い事なんかに取る時間を二時間くらいか。送り迎えを含む通学に一時間として。朝食や身支度に三十分くらいか?
…………あれ?
「あの……、睡眠時間が三、四時間くらい、しか取れなくない……?」
恐る恐る訊けば、なんでもないことのように譲が頷いた。
「ああ、平均三時間くらい、かな?」
「え!? さんじかん!? もっと寝て!!」
「大丈夫。なんか、ショートスリーパーみたいなんだよね。最低二時間も寝れば足りるんだよ。三時間で充分」
「そ……」
そうなのか? という言葉を凌久は呑み込んだ。
「たまたまなのか、僕がそうなってしまうのかわからないんだけど、ぜんぶそうなんだよね」
「ぜんぶ……?」
「そう、最初から、ぜんぶ。――だから、夜は長い」
オスカーだった頃から、転生した生すべてで。
そういう習い性になっているのか、たまたまそういう体を選んでいるのかはわからないが。
「睡眠障害って、睡眠足りてないのに『眠くない』って言うらしいですよ……?」
譲は睡眠不足を自分でわかってないのでは、と凌久は不安になる。
「うーん? たぶん、そういう人は昼間の集中力が落ちるんだと思うけど、僕は違うんじゃないかな。子どもの頃に親が心配して病院で調べてもらってたし。――健康上は問題なかったよ」
「そ、そうなんだ……!」
天は二物も三物も与えるというけれど。
優秀な人にそういう能力与えちゃうと、さらに優秀になっちゃうよ、神様……!
と、凌久は世の不公平感を噛み締めたのだった。