IFの世界
なろう的なんちゃって乙女ゲームの話がちょっと出てきます。
苦手な方はご注意ください。
凌久視点です。
同級生で、親友の正ちゃんの家に遊びに行った。
借りた漫画を返すためだ。
正ちゃんは、大学生のお姉さんがいる。みちるさんだ。
ラノベ好きな二人からはいろいろな小説や漫画なんかを紹介してもらえる。
俺はスマホを持ってないけど、二人から、誰でも無料で投稿できる小説投稿サイトのおすすめなんかも教えてもらっている。
俺も書籍化されると図書館にリクエストしたりして、かなり読んだと思う。
――少女漫画や悪役令嬢ものに俺が詳しいのは、みちるさんのせい、だとも言える。
正ちゃんは、面白ければ少年漫画でも少女漫画でもなんでも読む、というタイプだから、必然、俺もそうなってくる。
「こんにちはー」
「おー、凌久。いらっしゃい。上がれよ」
「うん。お邪魔しまーす」
通された居間で、みちるさんがなにやらゲームをやっていた。
うちはゲーム機もないので、たまに正ちゃんの家でやらせてもらうこともある。
RPGやシミュレーションゲームなんかはみちるさんが好きで、やってるのを横で眺めてることも多かった。
「お、凌久くん。いらっしゃい」
画面から目を離さずに、みちるさんがそう言ってくれた。
「お邪魔します。――今日は何やってるんですか?」
やたらきらきらした少女漫画風のイケメンが画面にいる。
「うん? 乙女ゲーム」
「乙女ゲーム……。ああ、『小説家になりたい』とかで有名なアレですか」
簡単に言えば、主人公が、さまざまな選択肢を選ぶことによって男性キャラと仲良くなっていくシミュレーションゲームだ。
画面を見ていると、どうやらファンタジーっぽい世界観のようだった。
「どんなのなんですか?」
「男爵令嬢が貴族の学園に入学したところから始まって、いろんなイケメンに会う」
「そう説明されると、身も蓋もないですね……」
「ちょっとごめん、もうすぐオスカーが落とせそうなんだよね。終わったらあとでもう少し詳しく説明してあげる」
「はあ。そうですか、って……ん? オスカー?」
一瞬、久遠さんの顔がちらついた。
あ、いやいや、たまたま名前が一緒なだけだよ。
オスカーなんて、よくある名前だし。
正ちゃんがジュースを出してくれて、ソファーに座り、一緒にゲームを眺めた。
「お、姉貴。やっとオスカー攻略できそうなの?」
「うん。たぶん、あとちょっと」
「オ、オスカーって……?」
恐る恐る尋ねると、ゲームの内容を知ってるらしい正ちゃんが答えてくれた。
「悪役令嬢の従者なんだよ。通常ルートでは悪役令嬢に忠実で、いじめの手引きなんかする手下っぽい脇キャラだったのに、なんか全キャラ攻略すると解放される隠しキャラみたいで」
乙女ゲームに詳しい中一男子もどうかと思うが、それよりもなんだか内容が気になってそんなことどうでもよくなる。
「ま、まさか主人公の名前、エミリー、とか言わない……よね?」
「あれ、凌久、これ知ってる? そうだよ。変更もできるんだけど、公式だとエミリーって名前なんだよ」
「も、もしかして、悪役令嬢の名前、ヴァイオレット、とか言わない……よね?」
「あ、なんだ。やっぱ知ってんじゃん。前にやってるとこ見たっけ? そうだよ。ヴァイオレット・フローレンス・ピアモント。攻略対象のひとりの、第一王子の婚約者なんだよね」
俺は、その響きを妙にエコーがかって聞いた。
「う、うそぉ……」
「? 嘘言ってどうするんだよ? ――このヴァイオレットってのがまあ、悪辣でさあ。あらゆるいじめを繰り返すんだけど、最終的に卒業プロムで婚約破棄されるんだよね。その後は断罪されて、死亡」
「うっ……!」
画面の中ではキラキラした久遠さん――じゃなかった、オスカーが、主人公に甘い言葉を吐きまくっている。
――ま、まさか、うちの姉が、ゲーム世界からの転生者だったなんて……!
「あ、やったー! 攻略成功! 見て見てこのスチル! 美しいわ~」
喜ぶ姉弟の声がだんだんと遠くなる。
――目眩がした。
まじか。まさか、本当に?
テーブルの上に置かれたパッケージには、主人公や複数のイケメンの脇に小さく金髪で紫色の瞳の美人が意地悪そうに微笑んでいるのが描かれていた。
「凌久、どうかしたか?」
正ちゃんの声も遠い……。
俺はショックで、意識が遠くなっていった……。
◇◇◇
「……く! 凌久!」
正ちゃんに揺り起こされた。はっとして目覚める。
「大丈夫か? うなされてたけど」
ゲームの手を止めたみちるさんも、心配そうに覗き込んでいた。
「いいい今、俺、寝てた……!?」
はっとして画面に目をやる。
そこには以前俺も見たことがあったアクションゲームの画面が映っていた。
――乙女ゲームじゃ、ない。
「寝てた。ゲーム一緒に見てたら、お前うとうとし出して。疲れてるんじゃないの?」
「うん? あ、あれ、乙女ゲームやってなかった?」
「乙女ゲーム? やってないよ」
「ファンタジーの学園もので、ヴァイオレットっていう悪役令嬢が出てくる……」
二人が不思議そうな顔をした。
「凌久、ラノベの読み過ぎじゃね? それ、よくある悪役令嬢ものの小説とか?」
「ゆ、夢か!」
よ、良かった~。
そうだよな、さすがにそれはできすぎだよなー。
俺は悪夢から目覚めたように、心底ほっとした。
夢オチでした☆
本編には乙女ゲーム要素はありませんので、ご安心ください。
お遊びにお付き合いいただきましてありがとうございます。
ハッピーバレンタイン!