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凌久の嘆き

本編4話「お嬢様、早速正体がバレる⁉」の時の凌久側の心境です。

 俺が知っている円華姉ちゃんという人は、容赦がない人だ。

 人の弱味を的確に突いてくる手法は、容赦がない。

 だが、冷たいだけじゃなくて、家族や、蛍ちゃんなんかの大切なごく一部の友人に関して何かあれば全力で助けてくれる。結局失敗をフォローされるのはいつも年下でうっかりしている俺の方だ。

 だから、俺は姉ちゃんには頭が上がらないし、逆らえないところがあった。






「――じゃあ、私と凌久しか知らない思い出を話せば信じてくれる? あなたの秘密にしていることで、私しか知らないこと」


 そう姉ちゃんに言われて、若干嫌な予感はしたんだ。

 だけど、頷くしかない。


「そうね、じゃあ、凌久が七歳の時。おねしょをしたことを黙っていてくれ、と泣きながら頼まれたから、内緒でお布団の処理をしてあげたわ」

「えぇ!?」


 ――ほらねーッ! それ、俺が一番触れてほしくないところ!


 びくっと震えて、俺は少し飛び上がった――らしい。どうやら。

 姉ちゃんがずるずると卓袱台を回り込んで、俺に近づいてくる。

 ニヤリと笑いながら、じりじりと距離を詰めてくる様はホラーだ。

 ザンバラ髪を長く伸ばして、口元は微笑みながら畳を這ってくるなんて、もうホラーだろ!


 小動物を追い詰める肉食獣みたいな雰囲気さえある。

 だからッ! 怖いからやめてッ!


 姉ちゃんは近づきながら、さらに続けた。


「八歳の時、同じクラスのすみれちゃんにラブレターを書きたいって言って――」

「いや、え、それは……!?」

 

 とうとう俺の横にたどり着いた姉ちゃんが、冷たい指で俺の頬に触れた。

 冷たさにビクッとする。姉ちゃんの目が怖くて、思わず目を逸らしてしまう。


「……私が代筆してあげたわね。十歳の時、同じアパートのしおりちゃんに、誕生日プレゼントをあげたいって言って――」

「……ま、まさかまだ根に持って!?」


 俺は涙目になった。

 なんだって、そんな女の子関係の人生の恥部ばかり、突いてくるのだ、この人は。まさか、そんな前のことをまだ根に持っているとは。

 もう忘れたんじゃないかなー、という希望的観測は打ち砕かれた。執念深いな。


 なのに、当の本人は何が楽しいのか「ふふっ」と笑ったりする。

 姉ちゃんが俺の頬を両手で挟んだ。

 目! 目、逸らせないよ、それじゃ! やめて! こーわーいー!


「私がなけなしのへそくりを貸してあげたわ。かしてあげた(・・・・・・)の。――まだ返してもらってないけれど」


 二回言った!

 金に関してシビアすぎるだろ!


「や、あの、今度おこづかい入ったら、返しますッ!」

「まだまだあるわよ……。あのベッドの下に隠してある――」


 やめろッ! なんだってそんなことまで知ってるんだ!?

 普段、そんなこと一言も言ったことないのに!

 ここぞという時に持ってくるから、もう、この人、やだ!


「わーわーわー! わ、わかったってば! もういいよ!」

「――本当に? 全部、本当のことでしょう? 私が円華だってこと、信じた?」


 にっこり笑う鬼畜の姉に、ぐうの音も出ませんでした。


 このやり取りやその後のもろもろの話を聞いた俺は、目の前のこの人はやはり姉なのかもしれない、と思った。

 この人が姉ちゃんなのだったら、今一番困った状況に放り込まれているこの人をなんとかして助けてやりたいと思った。

 ――え? 今のやり取りで、どうしてそうなるかって?


 まあ、俺もそうは思わないこともないんだけど、元はといえば全部俺の足りないところをフォローしてくれていただけだ。……改めてそれを開示されると、恥ずかしさに悶えるしかないが。小さな頃の惚れっぽい自分を殴ってやりたい……。


 いや、まあ、それはそれ。内容は置いといて。


 とにかく、この容赦ないまでに人を追い込んでくる手法は姉ちゃんのものだ。

 そして、それは決して冷たいだけじゃなくて、この人の不器用な優しさからくるものだ……と、思いたい……。


本編4話はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n8676hh/5/

本編は12/3から二章に入ります。よろしければどうぞ。

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