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恩人たちへの応援歌

それでも同じ屋根の上を歩く

作者: 黒森 冬炎

 夕風が立ち、片影が出来る。都会の住宅街は人気もなく、新聞配達にはまだ早い。火傷しそうなアスファルトを短い脚でチョコチョコ走り、壁を蹴り、塀を跳び、ベランダの手摺りを足がかりにして二階屋の屋根まで駆け上る。それは小さな影だった。



 ゆらりと揺れる仲間の影は、細長い尻尾をくねらせる。


(なんだい、自慢しやがって)


 愛嬌のあるちょろりん尻尾ならまだしも、こーちゃんは中途半端に千切れたような、へんてこな尻尾なのだ。

 毛並みだって何と言って良いかわからない。サビと呼ばれる三毛の亜種ならまだいい。サビの途中に雉縞の斑点がいびつに入り、額は左右非対称な黒い前髪風の模様がついている。


(アイツは色白の三毛の雄。(かね)の草鞋を履いてでも探せと言われているそうな)



 こーちゃんの眼は平凡な金緑。髭にも少し黒まだらがあって、足の裏に黒い部分が少しある。これがまた酷く中途半端なのだ。灰色の小さな鼻に皺を寄せ、不満そうに尖らせた口元は赤茶の縞がみえている。口の中は三毛模様だ。


(アイツは貴重な金眼銀目。青と金茶の大きな瞳だ)



 アイツ猫は堂々と耳を尖らせて、今時珍しい立派な瓦屋根を渡ってゆく。


(ふん、俺だって器用に渡るさ)


 こーちゃんもスイスイ瓦屋根を進む。


「ギャーっ!!」


 隣の屋根で子猫がカラスに襲われた。天窓からにゅっと子供の腕が伸びて、子猫は姿を消す。窓のバタンと閉まる音が響く。

 アイツ猫はびくりと耳を震わせて立ち止まる。


 こーちゃんは走る。斜めに少し屋根を跳ね、一目散に駆け出した。


(こないだきーちゃんの首に穴が空いてた!お医者様が呼ばれて大騒ぎだった!)




 きーちゃんは後輩猫である。最初は生意気でこーちゃんの餌を横取りしたり酷かったが、何年か経つうちにまるまる太っておっとりしたおじさん猫になった。こーちゃんもおじさん猫だが、少し小柄だ。今では2人して同じお皿から食べている。


 そのおじさん猫きーちゃんが、この前カラスに襲われて大怪我をしたのだ。おねえちゃんが気づいて開けてくれたお台所の窓から飛び込んできたきーちゃんは、おかあさんのカーディガンの懐に潜り込んでぶるぶるしていた。


 おかあさんはカーディガンに血がつくのも構わずに、きーちゃんを撫でていた。おねえちゃんが急いでお医者様に電話した。

 こーちゃんはソファの下からじっと様子を伺っていた。




(急げ!逃げろ!)


 こーちゃんは自分を励ましながら甍の波を泳ぎきる。


「あけてー!!!」


 お台所の網戸をガタガタしながら叫ぶと、みるくんが駆けつけてきた。


「こーちゃんだいじょぶ?」


 さっと窓を閉めて鍵までかけると、みるくんはこーちゃんを抱き上げくるくる回す。


「良かった」


 もがくこーちゃんの毛の間をかき分けて怪我がないことを確かめたみるくん。

 身体を捻ってぽんと床に降りると、こーちゃんはみるくんの足に擦り付いて感謝を表した。


 それから、小さな三角の顔でみるくんを見上げると、一声にゃあと鳴いたのだった。


このお話は、実話を元にしたフィクションです。

お読みくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短いお話しなのに、長い事そこに居た様な 不思議な引き込まれ方 最後の にゃあ が、愛嬌たっぷりっすね。 [一言] カラス怖いぃ
[一言] ドキドキしました!無事でよかった!!
[一言] ありがとうございます。 猫さんのお話を書いてくださったのですね。 カラスは、人間でも襲ってくることがあるそうで、朝、ゴミ収集所で餌をあさっているカラスを目撃すると、緊張が走ります。 やっぱ…
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