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悪役君と僕天使  作者: ナニイッテンダロス
5/8

05 兄妹

 この日は、ルチナ様ご兄妹とレオン様の三人で夕食をとることになっていたので、支度が整うまでの時間をわたしも入れた四人で過ごすことになった。

 髪色も背丈も恰好も身分もバラバラな四人が、ガゼボの中で向かい合って座る。

 この国には四人で遊べるパーティーゲームなんてものがあるわけでもないし、何をして暇をつぶすのかというと――


「ああ、ルチナ。違う違う。その呪文はね……」

「ちがわないわ! わたしがこうって思ったことなんだもの!」

「それが通るなら落第者は生まれないぞ」

「レ……レオン……! ルチナはまだ八つなんだよ、もうちょっと優しい言い方をしてくれないかな?」


 クルス様主催の勉強会である。

 ここ、硝棺のシンデレラの世界にはパソコンやスマートフォンといった電子機器が無いかわりに、魔法が存在している。訓練を積めば、杖の動き一つで物を取ったり、掃除をしたりできるし、上級者は瞬間移動までこなせるらしい。

 そんな世界に生まれ育って八年目だけれど、魔法というのは素質だけでどうこうできるものではなく扱うための訓練が必要で、わたしのような小娘が軽い気持ちで扱えるようなものでもないのだ。そして、その訓練を受ける場こそが王立学校ということだ。

 魔法は王立学校で杖を授かるまでは使用してはいけない決まりになっている。そして十歳にならないと学校には入学できない。ので、今日もクルス様が一年生だった頃の教科書を参考に、実践ではなく座学で学べることを頭に叩き込む。

 これが一般市民であれば初めて杖を握るその日を夢見て、現代で言う“アナログ”な方法で生きているんだろうけれど、ルチナ様は貴族のご令嬢だ。ライバル関係にある家の子息たちに後れを取るわけにはいかない。生きている限りずっと、貴族令嬢としての務めを果たす義務がついてまわる。

 普通に生きることを許されないルチナお嬢様を措いて、誰が怠けることができようか。わたしもいずれ、お嬢様の天使として共に入学するのだから。

 そして入学して数年が経ったところでゲーム本編が始まるわけだけど、正直、恋愛的な“何か”が起こる気なんて一切しない。だって、わたしは“わたし”である前に“僕”であって……そして、もうすでにこの世で一番大好きな人に出会ってしまっているのだから。


「もうあきちゃった!」


 ルチナ様は教科書を伏せ、大きく伸びをした。可愛い。目の保養だなって思った。


「ルチナ! 二年後にはお前も王立学校の一員なんだぞ。入学までにしっかりと準備をしておくことが大事なんだ。……レイラもなにか言ってあげてくれ。君はルチナの天使なんだろう?」

「んっ!?」

 

 まさかこちらに振られるとは思わず素っ頓狂な声が出た。そんな油断しきっていたわたしと目があったクルス様は二度、目をぱちぱちとさせた後、なぜか笑い出す。


「あはは! レイラもそんな声を出すんだな!」

「は、はい……。人なので……」

「ちがう! レイラはわたしの天使でしょ。人じゃないわ」

「天使は種族を指す言葉じゃないぞ」

「レオン!」


 わたしをきっかけにして、わたし以外の人たちが盛り上がっている。きっと、さっきの「なにか言ってあげてくれ」はもう無効になったことだろう。

 ほっとしていると、今度はレオン様の金色の瞳と目があった。何を言われるでもなく、じっと見つめられる。なんの、なんの呪いをかけるつもりだろう。怖い。

 わたしとレオン様の間に流れていた微妙な空気をぶった切ってくれたのは、兄君との口論を終えたルチナ様だった。

 

「わたし、レオン様に教わったらなんでもわかる気がするの」

「レオンは教えるの下手だよ?」

「お兄様っ!」


 再び始まった兄妹のじゃれあい。その様子を見ていると、なんだか懐かしい気持ちがこみあげてくる。

 お姉ちゃんは、決して甘い人ではなかったけれど、僕のことをよく見てくれていたと思う。僕はルチナ様みたいに強くないから喧嘩をすることはなかったけど、落ちこぼれの僕には不釣り合いな“普通の姉弟”らしいじゃれあいをさせてくれていたと思う。世間的に見て、お姉ちゃんはとっても良い人だったと思う。

 そんな姉をさしおいて、どうして僕がこの世界にきてしまったんだろう。どうして女性として、ゲームの主人公として生きることになったんだろう。考えたところでわかるはずもないことを深く考えてしまった。


「おい」

「え?」


 レオン様は、それが癖でもあるかのようにわたしのことを見つめてきた。


「何を考えている」


 異世界のことを少々、なんて言えるはずもない。


「仲がいいなあって」


 まるで返答の補足のようにして、視線をご兄妹に移す。そうすることで、金色の瞳から逃れた。

 ああ、びっくりした。「何を考えている」だなんて、そんなのこっちの台詞だって。

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