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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
9/84

1560年 6月12日  2:00 尾張国/大高道/大高街道合流地点

  1560年 6月12日  2:00 尾張国/大高(おおだか)道/大高(おおだか)街道合流地点

   今川方 大高(おおだか)城方面隊

    丸根砦攻撃隊 2000人 主将・松平元康/副将・酒井忠次/軍師・石川家成

    鷲津砦攻撃隊 3000人 主将・朝比奈泰朝/副将・匂坂(さぎさか)長能/先鋒隊長・久貝(くがい)正勝/次鋒隊長・新野親矩(にいのちかのり)/三隊長・本多忠真/後方隊長・大原資良(すけよし)/本多忠勝

  


 夜間の兵糧入れはいつも以上に警戒を怠らなかった。小荷駄隊を中心とした編成のため、足取りは遅く、その小荷駄隊を守る形で兵が展開しているため、一層気を遣った。まして、率いる松平元康は初陣から久しく戦から遠のいていたため、顔には緊張が走っていた。手綱を握る手も自然強く強張っていた。隠密行動のため火を灯す事も儘ならず、小荷駄隊は何度も轍に嵌まり掛けた。それでも大過なくここまでこれたのは後の徳川家康としての片鱗を見せつけているのかも知れない。小荷駄隊も兵も一切の掛け声も出さずに大高(おおだか)道を進んで行く様は一種異様に映る事であろう。

(既に織田方も我らに気づいている事であろう)

 放った斥候(せっこう)が織田方と思われる斥候(せっこう)の姿を認めていた。

(まさか、織田方も夜間に兵糧入れを行うとは思っていまい。しかし後詰も出来まい)

 松平元康は今までに入って来た情報を分析しながら断定する。信長が率いる兵力は5000はない。此方(こちら)はそれを上回る兵力を動員している。小荷駄隊を守っての戦になるが、余程不意を突かれぬ限り負ける事はないと考えた。背後には14000の兵が控えている。流石に東海道一の弓取りと称されるだけはあると、松平元康は今川義元を畏怖する。駿河(するが)国・遠江(とおとうみ)国を領し、遂には三河国まで併呑してしまったその才は認めるしかあるまいと。此度は三河国の隣国である尾張国に出兵し、席巻しようとしている。そして、暫くはこの従属関係が続くであろう事も理解していた。

(しかし何時(いつ)かは・・・)

 松平元康は三河国の国人である。祖父・父の代には三河国を統一する勢いを持っていた。故に三河国への思いは誰よりも強い。何時(いつ)までもこのような地位に甘んじているつもりはなかった。

(だが、今は忍耐よ)

 今の松平元康にとって今川家は余りにも大きすぎた。単独で立ち向かって勝てるものではない。まして、松平元康は駿河(するが)国に留め置かれ、人質に近い状態に甘んじているのだ。

 (丸根砦攻撃隊)先鋒隊が前より来る武者に気づく。

「誰か?」

 誰何(すいか)された武者は馬から下馬し、跪く。

「(松平)元康様から遣わされた使者である。通行の許可を」

 先鋒隊の隊長は慌てて隊の中核に居る松平元康に伺いを立てる。 

「(松平)元康様っ!使い番が戻ってございます」

 馬上の松平元康に、軍師の石川家成が近づく。

「使い番を伺候(しこう)させよ」

「宜しいので?」

「構わぬ」

 石川家成は使い番を松平元康の傍に寄せる。使い番は恭しく文を松平元康に手渡す。

 松平元康は馬上で器用に文を開き、松明の元で読み始める。そして、ニヤリと笑った。


 松平元康は朝比奈泰朝隊に向かう。

「朝比奈(泰朝)殿」

 朝比奈泰朝は松平元康の突然の訪問に驚く。

「松平(元康)殿、どうかされたか?」

 訝し気に松平元康に視線を向ける。

「兵糧入れの前に、一度軍議を催したい」

「うむ、そうじゃな。敵の動向も掴んでおかねば」

 朝比奈泰朝は大高(おおだか)城の兵糧入れを間違いなく阻害して来るだろうと考えていた。斥候(せっこう)を放たなければならないだろう。

(しかし・・・)

 朝比奈泰朝は松平元康をちらりと見る。その表情には自信の程が窺えた。

「松平(元康)殿、何か策がおありか?」

「策・・・ですか?」

 一瞬、松平元康は怯んだように見えた。朝比奈泰朝はその表情を見逃さなかった。だが、松平元康は表情を消してしまった。

「それは後ほど」

「・・・・・」

(おかしな事を企んでいなければよいが・・・)

 朝比奈泰朝も松平元康に同情はしているが、作戦の全てを松平元康に明かしている訳ではない。故に松平元康の勇み足を懸念していた。

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