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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 6.四雄死す
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1560年 6月12日 16:20 尾張国/桶狭間山西

  1560年 6月12日 16:20 尾張国/桶狭間山西

   織田方 雑兵(ぞうひょう)たち


 桶狭間山の西でも落ち武者狩りや死体からの剥ぎ取りが行われていた。

 何百羽とも知れぬ烏が上空を旋回している。死臭を嗅ぎ付けて桶狭間地方一帯には同じ様な情景があった。餌にありつこうとする姿は、落ち武者狩りをしている人間と差して変わりはない。そんな烏達を追い散らす様に雑兵(ぞうひょう)達が刀や槍を振り翳しながら戦地をさ迷っている。

 桶狭間山西は今川方の殿が何度も留まり、また、富士信忠の奇襲により今川方・織田方とも最も死傷者が出た場所であった。殿軍となった三浦義就(よしなり)・岡部正綱は信長本隊が義元本陣に近づくのを少しでも遅らせるため寡兵で果敢に突撃し討ち死にした。桶狭間山で柴田勝家隊に後方から奇襲され、何とか危機を脱出した富士信忠の残存兵が織田方の中軍に奇襲を掛け一時は織田軍をを搔き乱したが、後続の織田方に狙われて富士信忠も命を散らした。この桶狭間の戦いでも最も死者が出た場所だ。特に織田軍の死者が多く、織田方の死体が多く転がっていた。織田方の中軍に属していた兵が散々に打ち破られたせいか、混乱した兵が逃げ逃げ纏った挙句討たれた様子が手に取る様に判る光景が広がっていた。

 近崎道(ちかさきみち)沿いには塗輿(ぬりごし)が乗り捨てられていた。それなりの金にはなるだろうが、重すぎて誰もが持ち運ぶのを断念していた。その代わり、塗輿(ぬりごし)に付いていた装飾品は全て剥ぎ取られ、輿は無残な姿を晒していた。それがほんの数刻前まで、今川方の総大将・今川義元が乗っていた輿だと知る者は殆どいなかった。

「・・・終わったな」

「ああ」

 織田方と思しき二人の雑兵(ぞうひょう)が、死体の山から戦利品を掠め取っていた。桶狭間山北から桶狭間山、桶狭間山西は激戦区で、織田方・今川方の多くの死体が散乱していた。怪我を負い、動けなくなり呻いている者も少なくなかった。雑兵(ぞうひょう)達-近隣の農民や農民兵も混じっている-は此処(ここ)が稼ぎ時とばかりに総出で蠢き回っている。指揮官達も見て見ぬ振りをする。俗に乱取りと呼ばれ、雑兵(ぞうひょう)や農民の貴重な収入源となっていた。雑兵(ぞうひょう)はともかく、戦によって田畑を荒らされる在地の農民にとっては、これ位の見返りがなければ、生活が出来ないのだ。雑兵(ぞうひょう)達は手慣れた様子で死体から器用に武具や金目になりそうな物を剥ぎ取っていく。別の場所では戦利品を巡り雑兵(ぞうひょう)同士が争う場面もある。同じ織田方でありながら、織田兵の死体からも金品を巻き上げる。戦国の世の習いとは言え、義理も人情もない非情な光景だ。

「これを見よ」

 何かに気づいた雑兵(ぞうひょう)の一人がニヤリと笑う。近くに居た同じ農村の出である同輩に声を掛ける。別の死体を物色していた同輩は不思議そうにその男を見る。

「ん?」

「猿じゃ」

「まさか・・・」

 同輩は冗談はよせと言わんばかりに近づく。だが、見れば確かに猿・・・ではなく、猿によう似た顔の死体が転がっていた。最初に猿と呼んだ雑兵(ぞうひょう)は得意気な顔をしている。見れば、足軽組頭然とした出で立ちでそれなりに指揮する立場にいたのだろう。金メッキで派手に飾り立てた武具は猿顔には妙に不釣り合いであった。

「随分と分不相応な格好をしておる。余程の目立ちたがり屋だったのかのう。ま、目立てば周りからもよく見えるじゃろうが・・・」

 身体付きから見ても、豪の者とは思えぬ。腕一つで武勲を立てる御仁にはとても見えなかった。この男が、その後、木下藤吉郎 → 木下秀吉 → 羽柴秀吉 → 藤原秀吉 → 豊臣秀吉となった天下人だとは誰が思うだろうか。

「戦いに驚いて山から降りて来た猿が巻き添えを食ったんじゃ?」

 同輩の男がお道化る。

「はは・・・間抜けな猿もいたもんじゃ」

 雑兵(ぞうひょう)が請け負う。

「猿知恵も使う間もなく、斬られたんだろう」

 雑兵(ぞうひょう)が混ぜっ返す。もう一人の雑兵(ぞうひょう)が猿大将から鎧を剥ぎ取る。

「猿武者も最後に儂らの役に立って本望じゃろう」

「まこっとにのう」

 二人は笑い合いながら、獲れる物は全て剥ぎ取った。

 彼は戦いに敗れた一人の武者として最低の扱いを受ける事となる。

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