1560年 6月12日 14:50 尾張国/桶狭間山周辺
1560年 6月12日 14:50 尾張国/桶狭間山周辺
織田方 2700人 織田信長・川尻秀隆・佐々成政・金森長近・木下藤吉郎・林秀貞・池田恒興・森可成・菅笠を被った男
今川方 今川本隊
義元本陣 2000人 総大将・今川義元/軍師・庵原之政/先陣長・葛山氏元/次陣長・関口氏広/後陣長・岡部正綱/右陣長・三浦義就/左陣長・朝比奈元長
中備え 1000人 主将・由比正信/副将・荻清誉/先鋒隊長・勝間田政行/次鋒隊長・佐竹高貞/後方隊長・沢田忠頼
後備え 1000人 主将・富士信忠/副将・興津清房/先鋒隊長・井上継隆/次鋒隊長・大村家重/後方隊長・飯尾乗連
大将ケ根守備隊 1000人 主将・松井宗信/副将・蒲原氏徳/先鋒隊長・安倍元真/次鋒隊長・福島助昌/後方隊長・一宮元実
松平方 100人 松平元康・酒井忠次・本多忠勝
桶狭間山北
織田信長
「狼煙を三回上げよっ!」
儂は戦が始まってから常に儂の傍らに居た兵卒の一人を見る。ガタイの良い若武者だ。背には大荷物を背負っていた。この戦で唯一火器を所持していた。
「承知っ!」
彼奴は鉄砲隊の足軽の一人だ。大筒の扱いにも手慣れていた。彼奴は担いでいた狼煙用の筒を降ろし、組み立て始める。筒は重量があり、そのままでは持ち運びが難しく、分解して袋に分けて背負っていた。彼奴は器用に部品を並べ、手慣れた手付きで筒を組み始める。流れるような仕種だ。それでも儂には緩慢に見えた。
「急がぬか」
儂は膝を揺すりながら急かす。一分一秒が生死を分け、(今川)義元に追いつく時間を今も減らしているのだ。儂は迫りくる今川本隊の前備え・後備えの足音の幻覚に捉われていた。
「暫し」
彼奴は手を動かしたままで返答する。数分後、筒が完成する。彼奴はすぐさま弾込めに入る。
「三回ですな?」
彼奴は儂に確認するように見上げる。
「三回だ」
儂は頷く。
「承知っ!!」
彼奴は筒状の紙を箱から取り出した。筒に入れる弾丸と装薬は既に筒状の紙に包まれていて、連発出来るように箱の上に置かれた。
(なるほど)
儂は危急時にも拘わらず、感心してそれらを見つめる。
(火縄銃の欠点は連射に時間がかかる事。このように予め包んで用意しておけば、連射の間隔も短縮出来る)
「位置は?」
地面を掘り、筒を固定し、準備を整えた彼奴が問う。
「太子山・・・北北西の方角じゃ」
「承知っ」
彼奴は方向修正を行い、火を入れ、筒を動かぬように抱え込む。火縄と同じ原理で引き金を引くと、轟音と共に一条の赤い煙の線が尾を引く。彼奴はそれを三回繰り返した。
儂は最後の赤い煙が消えるのを見、別の兵卒に怒鳴る。
「法螺を三回吹けいっ!」
その兵卒は法螺を固定し、口を付けると、北北西の方角に向かい、法螺を三回、三度吹かせる。辺りは未だに霧が立ち籠めている。戦場は砂埃りや戦塵、天候によって狼煙を見誤る事がある。儂は念のため、法螺貝も用意していた。
儂はその場で床几に座り、北北西の方角に身体を向け、待つ。
(まだか)
今までにない兵の圧が圧し掛かってくる。今川本隊の本陣・前備え・後備え、大将ケ根守備隊が近づいて来ているのだろう。悲鳴や怒声が次々と沸き起こる。それが自軍なのか今川軍なのか判らぬ。
(動けっ!)
儂はじりじと時間が過ぎていくのが許せなかった。
([柴田]勝家、どうした?)
太子山に動きがない。もう一度狼煙と法螺を吹かせようと儂は立ち上がりかけた。
「太子山に動きありっ!」
傍らで菅笠を被った男が絶叫する。
「来たあっ!」
儂も思わず叫んで立ち上がっていた。
始めは木立や叢の小さな揺れだった。風が起こす自然現象と見紛うほどの。やがて人の姿が現れ、拡大していく。山麓に近づくにつれ、それは整然とした軍隊の姿となっていた。全軍、火縄銃を携えていた。火縄に灯す火種が儂の目にも見えた。儂が奴に授けた戦法通りだ。奴は忠実に役目をこなしている。
「流石、勝家」
儂は思わず賞賛していた。




