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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
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1560年 6月11日 21:15 尾張国/桶狭間地方 太子山

 1560年 6月11日 21:15 尾張国/桶狭間地方 太子山

  織田方 柴田勝家隊 500人/副将、吉田次兵衛・佐久間盛次/先鋒隊長・柴田勝定/次鋒隊長・柴田 勝豊/後方隊長・柴田勝春

 


「太子山には長帯陣になる。本格的な部材は使えぬが、しっかりと己が場所を作っておけ!後、気取られぬ様、火を起こしてはならぬ」

 陣内に銅鑼(どら)声がする。

 既に柴田勝家隊は桶狭間地区の太子山に到着し、頂上に陣地を構築し始めていた。ただ太子山が余りに桶狭間道に近いため、隠密行動をせねばならなかった。

「火は起こせぬのですか?」

 将の一人が訪ねる。副将の一人、佐久間守次である。

「そうだ。今川方でなく近隣の農民にも知られぬ訳にはいかぬ。手柄欲しさに今川方に走られては困る」

「火が起こせねば、食べる物が限られ、兵に不満が出るやも知れませぬぞ」

「・・・仕方あるまい。我らは奇襲部隊。敵に気取られぬ訳にはいかぬ」

「判り申した」

 佐久間守次は今一つ納得していなかったが、主君にそう断言されれば頷くしかなかった。

干飯(ほしいい)炒米(いりごめ)で凌ぐしかあるまい。兵卒の不満が今から聞こえるようだ)

 自分に言い聞かせる様に独り言ちした。佐久間守次は山麓に目を遣る。

 太子山は桶狭間道を眼下に見下ろせる好位置にあり、どのような戦力にも対応が取れると柴田勝家は豪語していた。殆ど主君の(織田)信長様の受け売りなのだろうが・・・と訳知り顔で佐久間盛次は思う。

「こら、手を止めるな!」

 柴田勝家様が佐久間盛次を睨んでくる。

「も、申し訳ございませぬ」

 佐久間盛次は慌てて他の近習に混じり、板の運搬を手伝う。こんな事で首を斬られては堪らぬと佐久間盛次は肩を竦める。気性の激しい柴田勝家は、佐久間盛次が軍役を再開したのを見て、フンと鼻を鳴らす。

「こら、そこ!音を立てるな。隠密行動じゃ」

 佐久間盛次から興味を失ったのか、近くに転がっていた大石を運搬していた足軽が、派手な音を立てて落としたのを見て、髭面を震わせる。怒鳴られた足軽は、あんたの声の方がよっぽど大きいと言いだ気に石を拾い上げる。 

 太子山は麓の中腹から頂上まで木に囲まれている。殆ど人の手が入っていない。桶狭間道からも余程目を凝らさなければ、人に気づかれ難い。尤も地元の農民や猟師はちょっとした変化にも敏感だろうから、金欲しさに今川方に注進する輩が出るかも知れんと柴田勝家は不安がっている。柴田勝家にとって主君の織田信長は絶対的存在で、豪胆で知られる柴田勝家が何故そこまで過剰に織田信長を畏れるのか佐久間盛次には判からなかった。佐久間盛次は1年前に熱田(尾張国で栄える港町の一つ)で、職も就かずその日暮らしをしているところを柴田勝家に拾われたばかりでそれ以前の柴田勝家と織田信長様の確執など知らなかった。時たま、他の近習達が昔話に、あの時の織田信長様はそれはもう怖ろしかった、鬼神と見間ごうたと密やかに話す位の事しか知らない。

 柴田勝家が何か喚いている。火を付けようとした兵の一人をぶん殴っていた。6月とは言え夜は冷え込む。桶狭間地方も例外でなく、入り組んだ地形のせいか、寒暖の差が激しい。先の事を考えると暗澹たる気持ちに佐久間盛次はなった。佐久間盛次から見て、柴田勝家は自軍の兵が本気で決戦戦力になると思っているようだった。

(たった500の兵でどこまで使えるか)

 最新の報せでは今川方は20000にも上ると言う。その全てと当たるとは思えないが、今川方を分断しない事にはまともな戦は出来まいと武断派である佐久間守次は考えていた。尤も彼にも自負はある。たかが500と雖も、柴田勝家が鍛えた歴戦の勇士を抱えた精鋭である。今川方が倍の兵力でも負ける気はしなかった。

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