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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 3.強襲
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1560年 6月12日 11:55 尾張国/桶狭間周辺

  1560年 6月12日 11:55 尾張国/桶狭間周辺


        義元本陣   2,000人 総大将・今川義元/軍師・庵原之政(あんばらゆきまさ)/先陣長・葛山氏元(かつらやまうじもと)/次陣長・関口親永/後陣長・岡部正綱/右陣長・三浦義就(よしなり)/左陣長・朝比奈元長



   今川義元

     

   

 5分前に降り出した雨が本降りになり、天幕のある本陣内には本陣付きの諸将や近習が駆け込んで来る。予が座す床几の周りは騒がしかった。水が跳ね、風が頬を濡らす。天幕はあるが、陣幕だけを張った本陣では雨が吹き込んで来るのは仕方なかろう。

(やはり駿河(するが)勢の申す通り沓掛城(くつかけじょう)に逼塞しておれば良かったかの)

 予は皮肉気に呟く。予の独り言に気づく者が居ない位、周りは突然の豪雨に慌ただしく人の出入りが激しかった。

「何じゃ、この豪雨は」

 (義元本陣)右陣長である(三浦)義就(よしなり)は陣に戻る前に大雨に見舞われたらしく、本陣に出戻って来た。

「誠にな。梅雨時の雨とは思えぬ」

 同じく(義元本陣)左陣に戻れ切れなかったと見える(朝比奈)元長が続く。

 天幕には雨が打ち続く音が大きくなっていた。また、風も出てきたのかカタカタと天幕の板を揺らし、本陣に張られた陣幕は風に煽られ、悲鳴を上げ始めていた。長机の上に置かれていた絵図面は吹き込む雨に濡れぬ様にと取り払われていた。

(この梅雨時に大雨と大風とは・・・台風でもあるまいに)

 梅雨入りに暫く晴れの日が続いておったので忘れておったが、今は雨の季節であった。天候を失念しておるとは、少し予も油断があるようじゃ。

(庵原)((あんばら))之政(ゆきまさ)

 予は(庵原)((あんばら))之政(ゆきまさ)を呼び寄せる。(庵原)((あんばら))之政(ゆきまさ)はこの雨の中も生真面目に軍に細かい命令を下していた。

「天候が荒れそうじゃ。中嶋砦攻撃隊に暫く攻撃を控えるよう伝えよ」

「間に合いますかな。大高(おおだか)城の後詰が到着次第、攻撃という命ですが」

 (庵原)((あんばら))之政(ゆきまさ)が頻りに時間を気にする。

「攻撃が始まっていたらそれでよい。暴風雨が収まるまで待機と言わねば、三河勢や遠江(とおとうみ)勢は予の命に従って攻撃を続けるかも知れぬ」

「成程。相判り申した」

 (庵原)((あんばら))之政(ゆきまさ)が使い番を呼び指示を出す。使い番は雨を凌ぐように陣傘を目深に被り、本陣を後にする。

「軍師(庵原之政(あんばらゆきまさ))殿、この後の天候はどうかな?」

 (朝比奈)元長がゆったりとした雰囲気で尋ねる。

「地元の農民兵に聞いたところ、数時間は続くと申しておりました。まあ、梅雨時故、雨の備えは考えておったので隊の維持に問題はないかと」

(数時間か)

 予は黒雲が掛かる空を見上げて溜め息を吐く。


 将兵以上に混乱していたのは今川方として参戦していた農民兵を中心とした雑兵(ぞうひょう)であった。元々、平らな場所は将兵に占められ、僅かな平地や斜面に待機していた雑兵(ぞうひょう)は陣屋や小屋の軒先に殺到した。しかし、軒先に逃れられたのは僅かな兵のみで、岩陰・木陰・(くさむら)を探して風雨を凌ぐ兵が続出した。途中から雷も鳴り始め、雑兵(ぞうひょう)は稲光がする度に肝を冷やした。

「ひっでえ雨じゃ」

 何とか木陰に避難した雑兵(ぞうひょう)の一人が呟く。

「ここら辺はこんな雨がしょっちゅう降るのか」

「まさか。こんな雨は久方振りよ」

 桶狭間から来ている農民兵がうんざりした顔で言う。連戦連勝の今川方の勝ち運に乗って、戦に参加したのだが、突然の暴風雨に戸惑っていた。

「こんな雨に出食わすとは、今川も祟られておるのう」

「滅多な事を申すな。只でさえ、我らは水野様の領地から徴兵されておるのだからな。下手に因縁は付けられたくはねえ」

 此度の戦には、今川方は水野家の領地である桶狭間村近辺からも徴兵を行っていた。水野家は織田家の同盟者となっているため、間者も入り易く、今川の目も厳しいのだ。尤も、在地の農民にすれば、支配者が変わるだけの事である。支配者が変わる時は、大抵徳政や年貢の免除があり、有利な面もあるのだ。

「この戦で今川が勝てば、風見鶏の水野様も流石に旗幟(きし)を鮮明にしなければいけなくなるのかのう?」

「さあて・・・戦は水物と申すからのう」

「上手い事を言う」

 暴風雨の中、他愛のない世間話に終始する。

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