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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 3.強襲
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1560年 6月12日 11:45 尾張国/中島砦

 

  1560年 6月12日 11:45 尾張国/中島砦

   織田方 3100人 織田信長・川尻秀隆・佐々成政・金森長近・木下藤吉郎・伴長信・林秀貞・池田恒興・森可成(よしなり)・梶川高秀・梶川一秀・菅笠(すげがさ)を被った男          



   織田信長


 既に(千秋)季忠の使い番はこの場に居ない。喜び勇んで死に場所を求めて戻って行った。儂も止めるような野暮は真似はしなかった。寧ろその意気を汲んでやっていた。

(儂にもあのような武者が何人か居たならば)

 己の命等慮外し、儂のためだけに働く武者が傍らに何人か居ればと思う。そうすればこの儂も此処(ここ)まで肩肘張らなくても済んだやも知れぬ。

 (千秋)季忠の使い番に触発された訳ではなかろうが、儂は妙に闘争心に駆り立てられていた。使い番が持って来た戦場独特の臭いに反応したのだろうか。

「出陣じゃあ!」

 儂は床几を蹴倒し歩み始める。 

 一番手に愛馬に乗り駆けようとすると、手綱に林(秀貞)のじい達が縋り付く。

「(織田)信長様っ、お止めくだされ!」

「義元が着陣したと言う事は既に今川方が布陣を終えたという事。桶狭間には今川軍がそこら中に充満しておりますぞ」

「(織田)信長様。ちと様子見ようぜ」

 重臣達がこぞって儂を止めようとする。どれも砦で様子見を、と言う。確かに今川方の前備え・中備えかこの砦に近づいて来ている。だからこそ、今川方の態勢が整わぬ内に粉砕し、義元本陣に辿り着かねばならぬ。陣を敷き終えた軍を破るのは容易ではない事を、儂はこれまでの経験から痛い程判っていた。稲生(いのう)の戦いで当事者であったはずの林(秀貞)のじいが何故理解していないのか。

「主らには周りが見えておらんのか!!」

 戯け共が!このまま鎮座しておれば、じわじわと包囲されてしまうのが判らんのか?そうなれば、儂らは袋の鼠と言うに。

「(千秋)季忠と(佐々)政次の犠牲を無にするかっ!」

 そう怒鳴った途端、手綱を掴む手が緩む。(千秋)季忠と(佐々)政次が命と引き換えに得た義元本陣の情報を活用する絶好の機会を逃せるものか。戦場の状況は刻一刻として変わる。次に(今川)義元が同じ場に居るとは限らない。

「寡兵の我らが(今川)義元の本陣を衝く以外、勝ち目がない」

「今川本隊だけでも我が方の兵と同じ数を揃えております。迂闊に動くのは死地に飛び込む行為。最悪、清洲(城)に引くのも一手」

 林(秀貞)のじいの言葉に儂は激怒した。

「戯けがっ!あんな平城に籠ってどうするか?後詰が来るのか?」

 唯一の味方であった舅殿(斎藤道三)は4年前に身罷った。お陰で、隣国・美濃は子の(斎藤)義龍に横領された。無論、同盟も破棄されている。儂の周りは敵だらけになった。尤も、敵だらけなのは親父(織田信秀)の代から変わらぬ。

「除けっ!」

 林(秀貞)のじいを足蹴にした。じいは軽々と吹っ飛んだ。足手纏いになるのであれば、清洲で籠っておれ!城の周りを(今川)義元と(斎藤)義龍が三重四重に囲む光景が目に浮かぶわ!

「行くぞ!」

「おうっ!」

 威勢よい声を出すのは儂の親衛隊だ。熱田湊や津島湊で定職もなくふらついていたゴロツキ共を兵として雇い、鍛えた精鋭だ。数年前からはこのゴロツキ共が主体となって尾張国を併呑した。腰の重い家来共の兵など待っておれるか。・・・ああ、(森)可成(よしなり)だけは槍を振るって意気がっておるな。儂の独立部隊を持つ様になって気づいた事がある。家来達の兵は農民兵である。農繁期には出兵が出来ず、農閑期だけしか使えぬ。尾張国は勿論、隣接する他国の兵も同様である。戦う時が限定されてしまうのだ。だが、儂の独立部隊は違う。儂の好きな時、好きなだけ使う事が出来る。今では3000もの兵を率いているが、当初は500にも満たず、家来共の兵も頼まなければならなかった。尤も今とて数が揃おておるとは思っていない。せめて5000は欲しいものだ。

(雨か)

 儂は天を仰ぐ。ポツポツと降り始めた小雨が地面を濡らす。暦の上では既に梅雨が始まっていた。扇川と手越川(てごしがわ)に囲まれた中州は特にこの時期は水気を帯びている。兵卒も足場を気にしながらの行軍となる。

 儂は馬に乗り、手越川(てごしがわ)沿いを泥濘を避けながら東上する。後ろに続くのはゴロツキ3000。実に儂らしい。林(秀貞)のじいを含めた家老達は俺に続く事にしたらしい。隊列の後ろに僅かに見える。覚えておれ、今は咎めはすまい。だが、義元の首を獲り尾張国を完全に獲り、美濃国を併呑した暁には儂の元から蹴り出してくれる。

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