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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 2.桶狭間
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1560年 6月12日 11:40 尾張国/中島砦

  1560年 6月12日 11:40 尾張国/中島砦

   織田方 3100人 織田信長・川尻秀隆・佐々成政・金森長近・木下藤吉郎・伴長信林秀貞・池田恒興・森可成(よしなり)菅笠(すげがさ)を被った男・使い番

 


 中嶋砦は喧騒の中にあった。出陣を察した近習達がいそいそと準備に取り掛かっていた。その様子を林秀貞を始めとした重臣達が苦い顔で見ている。元々重臣達の殆どは清洲城での籠城を主張していた。織田信長の影武者に上手く立ち回れて、気が付けば戦の最前線である中嶋砦まで引き摺り出されていたのだ。ましてや今川方が(ひし)めく桶狭間道に打って出ようとしている織田信長を正気の沙汰でないと思っていた。自分達の家臣ではない傭兵達が信長本隊の中核をなしているのも気に入らなかった。重臣達は取る者を取り敢えず、碌に家臣も従えずに来てしまったのだ。今更ながら、ある程度の準備をしてから此処(ここ)に来ればよかったと後悔の念に苛まれていた。逆に近習達は、この場に及んでも手すら貸そうとしない重臣達を冷ややかに見ている。織田信長の日頃の挙動から、彼が重臣達を頼みにしていないのは近習達も重々承知していた。

(この段になっても覚悟が決められぬのか。不甲斐ない、余りに不甲斐なさ過ぎる。父[織田信秀]の頃には先陣として活躍していた猛者であったであろうに・・・すっかり老いてしまったか)

 織田信長は憐れみにも似た感情が渦巻いていた。そして、今は重臣達ではなく、自ら育てた近習や傭兵達が軍の主力である事をまざまざと見せつけられている思いであった。

(この戦の後・・・後があればの話であるが、配置替えも含めて、家臣の構成を大々的に変更せねばなるまい。[柴田]勝家や[池田]恒興はさて置き、それ以外の重臣は後方待機だな。近習や傭兵の中でも戦で使える者を重用し、侍大将として独り立ちさせ、先鋒として使ってやる)

 織田信長は戦後の事も考えていた。

(しかし今はこの戦に集中じゃ)

 近習達が出陣を前にして勇躍する中で、織田信長はじりじりと待っていた。そして漸く待望の報せが届く事になる。その使い番は今までの使い番とは違い、全身傷だらけであった。馬も捨てたのだろうか、徒歩のままで激戦の中を切り抜けて来た事は一目瞭然であった。それは織田信長以外の家臣にも判った。転げる様に中嶋砦の門に辿り着いた使い番を梶川高秀・梶川一秀兄弟が抱き抱える。二言三言言葉を交わしている。堪え切れなくなった織田信長も思わず居所を出、門に近づいていた。傷だらけにも係わらずの目は爛々と輝いていた。

「申し上げます!」

「うむ」

「今川義元、桶狭間山北の高地に着陣!」

「間違いないか?」

 織田信長は目を開いて、使い番を睨む。

「足利二引両(ふたつひきりょう)・赤鳥紋を桶狭間山北の高地で確認しました!場所は既に義元本隊先発隊が構築した陣所に間違いありませぬ」

 使い番は淀みなく答える。

「遂に今川義元を桶狭間に引き摺り出したぞ」

「よし、これで逆転の目が出た」

「(佐々)成政!かたき討ちじゃ」

「応っ!」

 近習を中心とした諸将がどよめく。拳を振り上げている者もいる。まだ早いわと織田信長が睨み付ける。

「桶狭間山ではないのか?」

 織田信長は慎重に問いを重ねる。

「既にお聞き及びかと存じますが、桶狭間山は切り立った土地で本陣には適しておらず、桶狭間山北の平坦な場所がある高地が選定されたかと」

塗輿(ぬりごし)は?」

「桶狭間山北の高地に桶狭間道から見える様、備え置かれておりました」

(よし!)

 織田信長は立ち上がる。

「ようやった。暫し休息を許す」

 上機嫌に言う。

「否。行かねばなりませぬ故」

「何!?」

 織田信長はきっと使い番を睨む。

(復命すべき者も居らぬだろうが。・・・いや)

 思うところがあったらしく、織田信長は続きを促す。

「|千秋(季忠)《せんしゅう(すえただ)》様が冥府の前にて待っておる故。これ以上の遅参は叱られるので」

 使い番は不敵に笑った。

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