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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 2.桶狭間
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1560年 6月12日  9:25 尾張国/大将ケ根

  1560年 6月12日  9:25 尾張国/大将ケ根

   織田方 300人 千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次



 鎌倉往還・八つ松から出発した千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊は、桶狭間丘陵の北の山中を通り大将ケ根を目指した。鎌倉往還から桶狭間道に続くこの道は、山道と言うより獣道に近く、付近の漁師以外は殆ど使われていない道であった。ほぼ一列縦隊になり難儀しながらも、何とか大将ケ根に辿り着いた。先行した柴田勝家隊が通った事により道が拓け、迷う事なく通り抜ける事が出来た。

 大将ケ根は桶狭間道に沿って聳える小高い丘だ。桶狭間道が一望に眺望出来る格好のシチュエーションだ。故に今川方からも見咎められる可能性が高かった。千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊は今川方に気取られぬよう、山頂からやや鎌倉往還よりの奥まった場所に布陣した。見張り番数名を大将ケ根の頂上に配し、斥候(せっこう)を準備した。今川義元の本陣を捕捉次第、何時(いつ)でも動けるように備えた。

「桶狭間山から遠くありませぬか?|千秋(季忠)《せんしゅう(すえただ)》殿」

 山腹とも言うべき見晴らしの利かない場所に佐々政次は不安を覚える。

「我らは奇襲部隊。敵に気取られぬが第一。今川の本陣を目指すには今川方の(中嶋砦攻撃隊)前備えを遣り過ごねばならぬ。用心に越した事はないでしょう」

 千秋季忠(せんしゅうすえただ)の言に筋が通っているため、佐々政次は何も言う事はなかった。

「兵を休ませましょう」

 兵の様子を見ていた千秋季忠(せんしゅうすえただ)が静かに問い掛ける。鎌倉往還からの山越え、昨夜からの逃避行で兵に疲弊の色を感じたのだろう。

「そうですな」

 佐々政次も頷く。火や音を立てられぬため、簡易な寝具で横になる事を許す。緊張が続いていたせいか、横になった兵卒の殆どは直ぐに眠りに落ちた。

([織田]信長様や諸将の居た善照寺砦ではおちおち眠れなかったのであろう。何せ、我々は敵前逃亡したと言う負い目があったのだから)

 実際、近習や善照寺砦の兵卒の中には千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊に白い目を向ける者も少なからずいた。

(済まぬ)

 自分達が至らなかったせいで兵達に要らぬ気苦労を掛けていると佐々政次は強く感じていた。今は戦前であり言葉には出来ないが、そのような時があれば報いてやらねばならぬと思った。


 斥候(せっこう)から、桶狭間山の北の平地に今川方の一隊が陣地を構築しているとの報せが入る。千秋季忠(せんしゅうすえただ)と佐々政次は絵図面を開き、場所を確認する。

「この・・・近崎道(ちかさきみち)の周辺に広がる平地、ですか」

 佐々政次が指で絵図面をなぞる。桶狭間山の周辺は平地が少ない。起伏の富んだ丘陵が続いている。

「やはり此処(ここ)が本陣か」

 顎に手を置きながら千秋季忠(せんしゅうすえただ)が呻く。斥候(せっこう)の調べで桶狭間山に陣を置くのは平地がないため難しいとの報告が入っていた。此処(ここ)であれば桶狭間道も何とか見渡せる。此処(ここ)より南だと、桶狭間道は高低差や林立する木立により見えなくなってしまう。

「ふむ」

 佐々政次は首を傾げる。織田信長と同じ様に今一つ確証に至らないのだ。千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊が鎌倉往還・八つ松を出た時点で、今川義元の本陣が桶狭間山-桶狭間道を通る事-に向かう事は確定していなかった。既に大高(おおだか)城周辺の安全は確保されている。今川が義元がそのまま大高(おおだか)道に入り、大高(おおだか)城を目指す事も否定出来ぬのだ。その場合、千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊は織田信長から命ぜられた役目を全う出来なくなる可能性もあった。それは千秋季忠(せんしゅうすえただ)にとっても佐々政次にとっても汚名を注ぐ機会を失う事を意味していた。

(今川方の本陣が判明次第、中嶋砦に斥候(せっこう)を送らねばなりぬ。)

「やはり、今川の本陣が桶狭間山に続く斜面を登らねば特定出来ませぬな。そのためにも今川方の前備えには気取られぬようにせねば」

「そうですな」

 二人の見解は一致した。

「念のため、時間がかかるが斥候(せっこう)は桶狭間道の釜ケ谷(桶狭間道からの大将ケ根への登り口の地名)より西に大きく迂回させる方が宜しいでしょう」

「はい。警戒に越した事はないでしょうからな」

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