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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
32/84

1560年 6月12日  8:45 尾張国/中嶋砦

  1560年 6月12日  8:45 尾張国/中嶋砦

   織田方 3100人 織田信長・池田恒興・河尻秀隆・佐々成政・金森長近・梶川高秀・梶川一秀・木下藤吉郎・菅笠(すげがさ)を被った男

   


 今川方との戦いで最前線基地となった中嶋砦には様々な報告が齎されて来る。守将である梶川高秀も斥候(せっこう)を周囲に放ち、警戒を怠っていなかった。

「梶川(高秀)様、沓掛城(くつかけじょう)の動向が騒がしいようです」

「遂に動くか」

 今川義元が沓掛城(くつかけじょう)に入ったのは前日である。昨夜、大高(おおだか)城の兵糧入れが行われ、その際大高(おおだか)城を囲む砦の一つ・向山(むかいやま)砦の水野信元が撤退した。包囲網を維持出来なくなった氷上砦(ひかみとりで)千秋季忠(せんしゅうすえただ)正光寺(しょうこうじ)砦の佐々政次も撤退した。大高(おおだか)城の後詰に攻撃された鷲津砦・丸根砦は今日の8:00に失陥した。これで大高(おおだか)城周辺は完全に今川方の支配下となった。

(次は此処(ここ)か)

 今川方の次の目標は鳴海城の解放である。現在、鳴海城周辺には善照寺砦・丹下(たんげ)砦があり、この両砦を攻略するにはどうしても中嶋砦を抜かなければならない。

(しかし・・・)

 今や織田方の最前線になった中嶋砦には、守兵は僅か100しかいない。それに中嶋砦は2500人もの兵を収容出来る広さはあるが、扇川・手越川(てごしがわ)の中州に作られた比較的簡素な砦であり、川以外にこれと言った防御施設がない。川を渡られ平押しをされれば一溜まりもない。

「兄者(梶川高秀)、主家(水野信元)からは?」

「・・・何もない」

 弟・梶川一秀の問いに消沈した気持ちで応える。梶川高秀の実弟・梶川一秀もこの中嶋砦の主将を梶川高秀が拝命して以来、ずっと一緒に居る。元々は尾張国中島郡奥村に住していたが、色々な経緯の後、水野家に仕え、主家の命により中嶋砦を守っている。

(主家[水野信元]は[織田]信長様に無断で撤退した。居城の緒川城が今川方に攻められたためとも、甥の松平元康との交戦を避けたとも言われているが、何処まで事実だか・・・)

 梶川高秀の心は既に水野家から離れていた。主君である水野信元は織田家と今川家の間をまるで風見鶏かの如く立ち回っている。しかし、戦の最前線にいる梶川高秀にしてみれば許されざる行為に見えた。自然と織田信長に期待するのも当然の理であった。

「この中嶋砦が落ち、鳴海城の後詰が成功すれば、水野家は今川義元に鞍替えするであろうな」

 梶川高秀は断言する。

「今川義元が許すかな」

 弟の梶川一秀が首を傾げる。

「どうも水野家は、この戦の前より今川義元に内通していたようだ」

「誠か?」

「緒川城に頻繁に今川家の使者が訪れている事を水野家の重臣の一人が報せてくれた」

「それは・・・」

 梶川一秀は主家のあからさまな裏切りに絶句する。

「これも戦国の習いか」

 梶川高秀が自分が主家である水野信元を呼び捨てにしている事に今更ながら気づく。

 斥候(せっこう)の報せで西より軍勢が近づいていると、中嶋砦の守将・梶川高秀に齎される。確かに西が騒がしい。すわ、鳴海城の岡部元信が動き出したのかと、扇川と手越川(てごしがわ)の結節点の見える場所に急ぐ。見遣れば、善照寺砦との一本道を多くの兵がこちらに向かって来るのが見えた。

「お味方です」

 西を見張っていた門番が補足する。 

「あれは・・・」

 梶川高秀は織田信長の姿を見咎めた。

([織田]信長様は清洲城に影武者を立て、善照寺砦に籠っていたはず。善照寺砦にて何かあったか)

 そうこうするうちに織田信長が一本道を渡り切り、中嶋砦の門に近づく。梶川高秀は取るものも取り敢えず、その場に跪く。

「お待ちしておりました」

 がちゃりと具足の音が止まる。

「大儀である」

 織田信長が短く答える。

「何かありましたか?」

「義元が動く」

 梶川高秀はハッと織田信長を見る。

「桶狭間に来る」

 続けて補足する。

此処(ここ)(中嶋砦)ですかな?」

「判らぬ・・・千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次を出した」

「!」

 つまり大物見。しかし、両名はこの中嶋砦を通っておらぬ。・・・鎌倉往還を通り、山道を経て今川本隊に奇襲か!

 織田信長を見上げると小さく頷く。脳裏に、悄然とした二人の姿が思い起こされる。

(先に逝かれるか)

 死地を求められた二人に梶川高秀は黙禱する。

「これより中嶋砦の指揮はワシが取る」

「ははっ」

 梶川高秀は弟・梶川一秀と共に平伏した。

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