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7人の軍将 -前章譚-  作者: mocha
 1.決戦前夜
31/84

1560年 6月12日  8:30 尾張国/善照寺砦/二ノ曲輪

  1560年 6月12日  8:30 尾張国/善照寺砦/二ノ曲輪(くるわ)

   織田方 3300人 織田信長・池田恒興・河尻秀隆・佐々成政・金森長近・佐久間信盛・佐久間信辰・木下藤吉郎・菅笠(すげがさ)を被った男



 数十分後、使い番が戻って来る。

「申し上げます!千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次隊、鎌倉往還・八つ松より出陣し、大将ケ根に向かいましてございます」

(よし!)

「出陣じゃあ!」

 織田信長が控えの間から現れ、圧切長谷部(へしきりはせべ)(愛刀)を腰にぶら下げて、叫ぶ。死地へ赴く千秋季忠(せんしゅうすえただ)・佐々政次に触発されたのか、近習たちの士気も高い。しかし・・・

「お待ちください、(織田)信長様。中嶋砦に向かう道は細い一本道。鳴海城や桶狭間から丸見えにございます。移動中に攻撃されれば一溜まりもありませぬ」

 すかさず佐久間信盛が織田信長を留めようと懐に入る。斥候(せっこう)の調べでは先遣隊が既に桶狭間山におり、下手に動けば捕捉されかねない。鳴海城の今川方も今は鳴りを潜めているが、織田方に動きがあればどの様な行動を取るか判らぬと。大高(おおだか)城を落とした朝比奈泰朝・松平元康隊の動向もある。此処(ここ)は様子を見るの一手だろうと佐久間信盛は考えていた。織田信長様の足に縋り付き、何としても押し留めようとした。

「戯けが!」

 織田信長はこめかみに怒りを宿らせ、縋り付いた佐久間信盛を蹴り飛ばし、刀を抜いた。手打ちか?佐久間信盛を含め重臣や近習がは身を縮こませた。木下藤吉郎など怒涛の勢いで数メートルは織田信長から離れていた。池田恒興が呆れた表情で木下藤吉郎を見る。

「鳴海城の岡部元信にその気があれば、とっくの昔に動いておる。動かぬのは丹下(たんげ)砦が牽制しているからじゃ。何のための丹下(たんげ)砦だと思っておる。今川の先鋒衆より前に出なければ、大高(おおだか)城から出張る隊と連動され中嶋砦は持たぬ」

 織田信長は理論整然と説く。刀を手にしながら。

「ああ、成程!左様でございましたか」

 足蹴にする前に説明してくださればと佐久間信盛は合点がいったように苦笑いする。

 織田信長は何故か毒気を抜かれたの如く、つまらなそうに刀を鞘に戻す。

「・・・中嶋砦には梶川・一秀兄弟がおる。(中嶋)砦を抜かぬ限り、桶狭間から攻撃は受けぬ」

 もっともな話であると佐久間信盛は先程の醜態も忘れたかのようにしたり顔で頷く。織田信長は嫌な顔をする。

「主(佐久間信盛)と話しておると、調子が崩れるわ」

 ぼそりと呟く。

 織田信長は3000の兵を率い、中嶋砦に進む事になる。佐久間信盛とその弟・佐久間信辰は善照寺砦の守備を承った。

「よいか。善照寺砦は中嶋砦と清洲(城)を繋ぐ要地。決して今川方に押さえられてはならぬ。命に代えても守れ」

 そう言い捨て、織田信長以下3000は善照寺砦と中嶋砦を結ぶ細い一本道を長い縦列となって進んで行く。佐久間信盛・佐久間信辰兄弟は、その姿が見えなくなるまで見送っていた。


 その後も善照寺砦に斥候(せっこう)や使い番が頻繁に走り込んで来る。織田信長が中嶋砦に移動した事を知らない者達は、織田信長不在に一様に安堵する。しかし、その度に佐久間信盛の顔色は悪化していく。どの報告も織田方不利を示唆しているからだ。何とか中嶋砦に居る織田信長に報告するよう申し伝え、佐久間信盛はどっかと床几に腰を下ろす。

大高(おおだか)城周辺は完全に今川のものとなった。さすれば今川は桶狭間道にも寄せて来るに違いない。確か大高(おおだか)城の後詰は5000。丸根砦・鷲津砦の戦いで僅かに損耗しただろうが大兵じゃ。鎌倉往還はどうか。沓掛峠に兵は置いているが所詮は500。どこまで持ち堪えられるものか。今川義元自ら突破して来るやも知れぬ。鳴海城の存在も不気味じゃ。500とは言え、闘将・岡部元信が率いておる。侮れぬ。はたまた、尾張国内の不穏分子はどうなっておる。同盟したとは言え犬山城の織田信清が反旗を翻さねばよいが・・・。品野城の桜井松平家(松平家次)は自城の守備で手一杯か。他の重臣の動きも気になる。ああ、損な役回りよ)

 佐久間信盛の気苦労は尽きなかった。

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